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展覧会レビュー:「野口里佳 不思議な力」展@東京都写真美術館

作品数は少ないものの、写真や動画の持つエモーショナルでノスタルジックな「不思議な力」を再認識できる。
川内倫子が好きな人には良さが伝わりやすいだろう。少し哲学ちっくな印象もあり、大衆向けの展覧会ではないと思うが、普段から写真を見たり撮ったりすることがある人にとっては、新しい示唆を与えてくれるはずだ。

作品数は約50と少なく、比較的すぐに見終わる(約30分くらい)。
フロアは大きく5つに分かれており、動画もある。

中でも、「父のアルバム」が気に入った。
写真が趣味だった父が亡くなった後、ネガをプリントしたものが展示されている。そのため「え、このアーティストの父親(一般人)の作品を展示してるんかい」と最初は違和感をもったが、それが意外にも写真の「不思議な力」を再認識させてくれた。
「写真には過去と現在という時間の隔たりを超越して、他者に体験したことや感じたことを伝える」と野口さんは言うが、その通りだ。
私は今まで写真作品を見る時、完成物としての写真そのものの芸術性や感性を見る作業が多かったが、その撮影した人のその時の気持ちや、その風景を俯瞰的に考えたことはあまりなかった。
写真を見るということは、その人が見た風景を見ることであって、なぜその瞬間にシャッターを切ったのか?どういう気持ちでそのカットを選んだのか?ということを、(亡くなった)父親が子供を撮ったり、花を撮るという行為を通じてそれがエモーショナルに理解できるいい作品だった。

また、「夜の星へ」という約30分の動画作品も良かった。
海外でただ車から外の風景を撮影しただけの作品だが、子供の頃によくわからずついていった海外旅行を思い出した。
小雨が降る中、車の窓に頬杖をつきながら、ぼーっと眺めた風景。
車から見える日本とは違う独特の街並みや空気感。それをプロジェクターで超大画面を通して見ることで、「不思議な力」も倍増する。

作品数は少ないものの、「不思議な力」を念頭におきながら鑑賞すると、普段写真や動画を見ていた時とは、違う印象を抱けるようになるだろう。

展覧会名:「野口里佳 不思議な力」展
場所:東京都写真美術館
満足度:★★★☆☆
会期:2022年10月7日(金)~2023年1月22日(日)
アクセス:恵比寿駅から徒歩約10分
入場料(一般):700円
事前予約:不要
展覧所要時間:約30分
展覧撮影:1つ目の部屋のみ可能

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