記事一覧
寝床屋のとある一日 3
寝床屋の管理人になると、仲間の気配に敏感になるのだろうか。
じっと眠っていた仲間が目を覚まして動いただけでもわかってしまう。
だから、水差しとコップを持ってその部屋へ向かう。
「おはよう、水を持ってきたよ」
ベッドの縁に腰をかけている新しい仲間は、寝起きらしいぼんやりとした表情であたしを見た。
あたしが水の入ったコップを差し出すと、小さく頭を下げて受け取った。そして、あっという間に飲み干
あの歌をもう一度 後編
<前編はこちら>
カナコは、元いた場所へ戻れず、初めの場所で同じ状況で歌うこともできないでいた。
人が少ないからと、準備を始めると、どこからか人が集まってしまうのだ。
集まりすぎる前に数曲歌って去る。その繰り返しになっていた。
人通りのない夜中にただその場に立つということも、カナコは何回か試した。けれども毎回、夜明けに帰ってきては、夕方まで部屋にこもってしまう。
カナコが笑わなくなった
あの歌をもう一度 前編
あの歌を、あの歌声をまた聴ける日が来ることを、俺は信じている。
俺がカナコを見つけたのは、商店街の中でも駅に近い閉じっぱなしのシャッターの前だった。
目を閉じながら歌うカナコの声に、俺は一目惚れならぬ一耳惚れしていた。
自分が立っている場所が映画かなんかで見るようなだだっ広い草原で、全身に心地よい風をあびている。そう感じたんだ。
歌が終わると俺は拍手した、手が痛くなるくらいに。俺だけじ
寝床屋のとある一日 2
畑でキュウリを収穫していたあたしは、仲間の気配を感じて手を止め、顔を上げた。
「こぉんにちはぁぁぁ」
独特の調子の挨拶は、リディだ。今日もパリッとした背広姿で紳士を装っている。
「おかえり、元気そうでなにより」
「あぁ、あいさつを間違えましたねぇ」
リディは姿勢を正し、
「ただいまですぅ」
と、本心を隠していると伝わるいつもの笑顔で言った。
「うん、ゆっくりしていくといい」
あたしは素直