ファンタジーっぽい小説を書いています。

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マガジン

  • シリーズ小説「界境の守護者」

    界境の守護者シリーズの小説たち

  • 空の写真に言葉を添えて

    iPhoneで撮影した空の写真に言葉を添えてInstagramに投稿した中から抜粋。

最近の記事

鏡の迷路

 無限に現れる鏡像の中に、未来の自分とか過去の自分、もしくは自分以外の何かの姿を探しながら、僕はそっと歩く。  この「鏡の迷路」をこれほどじっくり時間をかけて進む人は、僕の他にはいないだろうと思っている。  僕のずっと後から入ってきた小学生のグループの後から迷路を出ると、首からカメラをぶら下げた樋口さんと目が合った。 「こんにちは」  とことこと近づいた僕に、樋口さんは笑顔を向けてくれた。 「いつもより時間をかけて巡りました」 「何か見つかりましたか?」 「何も見つけられま

    • くたびれたスーツにスポットライト

      「せっかくの本社出張なのに日帰りですか。ゆっくり話ができると思ったのに」  そう言ってくれるのは、俺をこの会社に誘ってくれたトキノだ。 「一刻も早く帰って娘の顔を見たいんだよ」  それは理由の半分で、もう半分は、家事育児をシズカに任せきりにしたくないからだ。  長く支えてくれたシズカを、これからは俺が支えたいと思っている。 「あんなに尖ってたツバサさんも、今ではまんまるなイクメン。あんなにモテてた俺は寂しい独り暮らし。はあ〜、俺も早く結婚したいなあ」  トキノのわざとらしい大

      • いつものコーヒーを

         タブレットを持って近所の喫茶店に行き、店主こだわりのブレンドコーヒーを飲みながらイラストを描く。  それが私の休日の過ごし方。  今朝も、私はいつもの喫茶店に入り、お気に入りの奥のテーブルを陣取った。 「いらっしゃいませ」  お水とメニューを持ってきた店員さんに、 「いつもの」  と注文すると、 「いつも何をご注文いただいてますでしょうか?」  そう返された。 「えっと、ブレンドを」 「ブレンドですね、かしこまりました」  メニューを持ってさがる店員さんを見送り、カバンから

        • 消えゆく世界で 後編

           タイガは黙って続きを待った。ヒイロを見る目に力が入っているのは、光が薄らいできたからだけではないのだろう。  自らの両手のひらに視線を落としてから、ゆっくりと上げられたヒイロの顔にはうっすらと笑みが見えた。 「でも、忘れない。ひとつひとつの命のことは覚えていなくても、どんな世界だったか、は、覚えてる、全部。だから、もし、俺があんたを殺したとしても、俺はあんたのことを忘れはしない、ずっと」  今、彼は思い出しているのだろうか、自分が消してきた命たちのことを。 一つ一つの言葉を

        鏡の迷路

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        • シリーズ小説「界境の守護者」
          25本
        • 空の写真に言葉を添えて
          18本

        記事

          消えゆく世界で 前編

          「本の香りに包まれて」サイドストーリー  この世界に生きているのは、たった今ここに現れた彼らだけだ。  Tシャツにジーンズ姿のヒイロ。  華奢な身体を黒色のつなぎに納めているレイ。  そして、レイに左腕を捕まれ、右腕にはヨーヨーがからまっているタイガ。  その3人だけだと直観的に理解していても、あたりを見回して、タイガはため息をついた。  形を留めるエネルギーさえ奪われ、あらゆる物が崩れて元の形を失っている。  そこかしこには崩れている最中の塊があり、しかし元の姿はわからな

          消えゆく世界で 前編

          シゲキガホシカッタ

           何かがぶつかってきた衝撃があった。それから、熱を感じた。  すぅっと体から力が抜けていって、倒れるって思った。  ヨミの黒い唇がニィっと歪んだのが見えた。  ああ、終わっちゃうんだ。  そう思ったら、ヨミが見えなくなった。  そして、あたしは誰かに受け止められた。  突然に目の前に現れた黒づくめの女が 「刺激に満ちた世界へ、お連れしましょう」  って言うから、あたしはその手を取った。  とたんに、見える景色がぐにゃっと歪んだ。歪みが消えたら、あたしは黒づくめの女と手入れさ

          シゲキガホシカッタ

          わかんないくらいずっと前から〈後編〉

          前編はこちら  乾いた破裂音がした後、カツヒコの言葉にならない叫び声が聞こえた。 怒りを撒き散らす、カツヒコの叫びが。  目を開けると、カツヒコはお兄さんに腕をとられて、床に抑えつけられていた。拳銃は地面に落ちている。 「みんな、って、誰?」  カツヒコの目の前にしゃがんで、ひょろ男がカツヒコに問いかけた。 「みんなだよ!」 「世界中の全ての人? 世界中の全ての人と出会った? 話した? んなわけないよね?」  ひょろ男の表情は見えないけれど、声の感じは明るくて、無邪気ささえ

          わかんないくらいずっと前から〈後編〉

          わかんないくらいずっと前から〈前編〉

           バイト先から駅までは歩道橋を渡るのが近道だけれど、高い所が怖いボクは、歩道橋を歩くのも嫌だ。  でも今夜は遅くなったから、歩道橋を渡ることにする。  階段を上りきって、向こう岸を見やる。誰もいないけれど橋が揺れている気がする。いや、気のせいだ、がんばれボク。 「死にたい」  口癖になっている言葉がため息と一緒にこぼれた。良くないとは思っているけれど、口から出てしまう。 「じゃあ、死ぬ?」 「え?」  左側から声が聞こえて、左肩をつかまれて、思わず振り向いた。ピンク色の髪の人

          わかんないくらいずっと前から〈前編〉

          本の香りに包まれて

           紙の本の匂いは、なんと心地よいのだろう。  生まれて初めて、こんなにたくさんの紙の本に囲まれて、私は嬉しくてたまらない。 「すごいです!」  言いながら、私をここに連れてきてくれた人物を振り向いた。 「そんなに喜んでもらえると、お誘いしてよかったです」  誰もが振り返りそうな美男に笑顔でこんなセリフを言われて、私は戸惑って、紙の本で埋め尽くされているかのような壁に向き直った。  慣れていないのだ、キラキラしたことに。 「これが図書館という施設なのですね」 「そうですよ。ヒナ

          本の香りに包まれて

          シゲキガホシイ

           女に手を引かれて歩きながら、俺は早く帰りたいと思ってしまう。  帰りたい場所は、この女の家ではなく、俺が生まれ育った世界。  数日前の帰宅途中、細い道への角を曲がったら、急にどしゃ降りの雨になった。  コンビニに逃げ込もうと、あわてて細い道を飛び出した俺の目の前にあったのは、見知らぬ景色だった。  派手なネオン看板の並ぶ通りを前に、俺は頭が真っ白になった。  雨に打たれて立ち尽くしていた俺に傘をさしかけたのが、今俺の手をひいているこの女、リュリュ。  リュリュに借りたタブ

          シゲキガホシイ

          寝床屋のとある一日 3

           寝床屋の管理人になると、仲間の気配に敏感になるのだろうか。  じっと眠っていた仲間が目を覚まして動いただけでもわかってしまう。  だから、水差しとコップを持ってその部屋へ向かう。 「おはよう、水を持ってきたよ」  ベッドの縁に腰をかけている新しい仲間は、寝起きらしいぼんやりとした表情であたしを見た。  あたしが水の入ったコップを差し出すと、小さく頭を下げて受け取った。そして、あっという間に飲み干す。  おかわりを注いでやると、立て続けに三杯の水を飲んだ。  それから、あたし

          寝床屋のとある一日 3

          幸せを願う者

           どこへ行けばいいのかわからないまま、夜の中を、前を向いて走っている。 「どうしよう、死んだかな、殺したのかな」  乱れた息のままに話すから、結がつまずいた。転ばないように引っ張って、また走る。 「結は悪くない」  ボクが言うと、結は、ボクの左手をより強く握った。  行く手に壁が見えて、先が丁字路だと知って、角を曲がるために走るのをゆるめる。  左肩を、捕まれた。結の右手はボクが握っているのに。  振り向こうとしたら、見えるすべてが歪んだ。  結の泣きそうな顔もぐらりと歪んだ

          幸せを願う者

          あの歌をもう一度 後編

          <前編はこちら>  カナコは、元いた場所へ戻れず、初めの場所で同じ状況で歌うこともできないでいた。  人が少ないからと、準備を始めると、どこからか人が集まってしまうのだ。  集まりすぎる前に数曲歌って去る。その繰り返しになっていた。  人通りのない夜中にただその場に立つということも、カナコは何回か試した。けれども毎回、夜明けに帰ってきては、夕方まで部屋にこもってしまう。  カナコが笑わなくなったことを、俺もミノルたちも気にしていた。  気分転換になればと、ライブハウスで働い

          あの歌をもう一度 後編

          あの歌をもう一度 前編

           あの歌を、あの歌声をまた聴ける日が来ることを、俺は信じている。  俺がカナコを見つけたのは、商店街の中でも駅に近い閉じっぱなしのシャッターの前だった。  目を閉じながら歌うカナコの声に、俺は一目惚れならぬ一耳惚れしていた。  自分が立っている場所が映画かなんかで見るようなだだっ広い草原で、全身に心地よい風をあびている。そう感じたんだ。  歌が終わると俺は拍手した、手が痛くなるくらいに。俺だけじゃなく、いつのまにか集まっていた人たちが拍手を送っていた。涙をぬぐう人もいた。

          あの歌をもう一度 前編

          寝床屋のとある一日 2

           畑でキュウリを収穫していたあたしは、仲間の気配を感じて手を止め、顔を上げた。 「こぉんにちはぁぁぁ」  独特の調子の挨拶は、リディだ。今日もパリッとした背広姿で紳士を装っている。 「おかえり、元気そうでなにより」 「あぁ、あいさつを間違えましたねぇ」  リディは姿勢を正し、 「ただいまですぅ」  と、本心を隠していると伝わるいつもの笑顔で言った。 「うん、ゆっくりしていくといい」  あたしは素直な笑顔で言った、つもりだ。  寝床屋に戻ると、あたしは台所に向かいながら後ろにい

          寝床屋のとある一日 2

          寝床屋のとある一日

           世界は次々と創造されている。誰も見たことのない「創造主」によって。  あたしはそのことを知っている。  知っているだけで、仲間以外の誰かを納得させられるような証拠の提出はできない。  創造主を見たという話も、世界がうまれる瞬間に立ち会った話も、あたしは聞いたことがない。  だけど、あたしは知っている。  あたしが「界境の守護者」だから、だ。  普通に暮らしている人が、ある日突然、自分が界境の守護者であると自覚する。  あたしの場合は、朝、顔を洗っているときだった。珍しくス

          寝床屋のとある一日