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005. Hand Soap|記憶の再生

「なんかいいにおいする」

オフィスから家に帰宅したときに、妻からかけられた言葉だった。少し背筋が伸びつつも、思い返してみると、それもそのはずだった。確実にいい香りになって帰ってきていた。

「そうでしょう」と自慢げに返答しつつ、その理由を伝える。「オフィスにあるハンドソープがめちゃくちゃいい香りなんだよね」と。数日出社した時には毎回同じ香りで帰ってきては、あまりにいい香りなので、自宅でも購入してしまった。それからは、複数の種類を楽しみにつつ、使い分けている。

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香りの長さ

コロナ禍になって手洗いの回数は確実に増えた。合わせてWFHでは、移動やちょっとした雑談なども少ないので、景色も変わらなければ気分も変わらない。自然にできていた気分転換は、意識的にならなければできないようになっていたのはみなさんも同じではないだろうか。いろいろ購入してみて分かったが、ハンドソープは感染予防だけでなく、とてもよい気分転換のツールになっていた。香りが変わると気分も変わる。

ルームフレグランスは空間の香り付けには良いが、気分を変えるというよりは、安心できるいつもの香りを作るという存在だろうか。反対にハンドソープの香りはすぐに香り、数時間でなくなる。朝昼晩で変えようと思えば変えられる短さでもある。大体のハンドソープは1回で1ml出るらしい。皮算用で考えても、そこそこよいハンドソープを買っても一杯コーヒーをテイクアウトするよりかなりお得な気分転換とも思える。

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香りの記憶

もう一つ大切なのは香りに付随する記憶だろうか。冒頭に紹介したハンドソープは、その香りがすると一気にオフィスを思い出す。転職したての自分にとってはオフィスとその香りがかなりリンクしていることに気づく。少しシャキッとするので、気分転換にも使えれば、仕事のスイッチを入れることにもつながる。香りは案外、自分の気分をオンにもオフにもできる優れものだった。海外旅行の際に買って帰ったハンドソープは、そのときの出会いも思い出す。写真で旅を振り返るのとはまた違う良さがある。

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記憶再生装置

ハンドソープの役割や機能性と言われると何を思い浮かべるだろうか。殺菌性や肌へのやさしさ、環境への配慮などがパッと思い浮かぶ。多分これらはハンドソープという「カテゴリ自体の役割や機能性」なのだろう。使ってみてはじめて気付いたこれまで述べてきたものは「気分を一瞬で変えるもの」であり「意識だけオフィスに瞬間移動するツール」にもなりえると言えるかもしれない。ハンドソープという一般的なカテゴリに囚われず、実態として存在する役割に注目すると、モノの可能性はもっともっと広がる。

店舗の棚にカテゴリごとに括られ、他の製品と並んで売られていた時代から、Web経由の直販が簡単にできるようになった今では、どんなカテゴリにも当てはめない商品や、カテゴリの外側にはみ出したものづくりやコミュニケーションができるようになった。

もちろんカテゴリのような枠があることで選びやすかったり扱いやすいことは確かだが、枠を定義せず商品開発を開始したり、ナラティブ起点で商品をキュレーションするのも面白い。「記憶再生装置」というカテゴリを選ぶと職場のハンドソープや美容院のヘアオイル、旅行先で出会った珈琲の豆などが売られているショップがあるとしたらなんだかワクワクしそうだ。それが人によって全く異なる商品が並ぶ世界もできてくるかもしれない。



001. Pepper Mill | 景色を作る
002. Teapot Tray|新しい居場所
003. Plant Pot|用途の金継ぎ
004. Work Chair|選択肢の幅
▶︎005. Hand Soap|記憶の再生
006. Glasses Tray|問いのない答え
007. Rice Cooker|小さな変化

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