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002. Teapot Tray|新しい居場所

今回は約1年ほど前に金沢の古道具店で出会ったTeapot Trayに焦点を当ててみようと思う。

金沢のような観光地では、いわゆる名産品や伝統工芸のラベルが擬態したようなプロダクトがどうしても表に出てきてしまうが、そこに載らないような、ある意味、意匠的地域性を削ぎ落としたニュートラルなプロダクトや店舗に出会い、そこから滲み出るその土地で培われたモノの見方や捉え方を感じることができた。

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急須のための盆

ぎゅーっと圧縮されたような細やかな木目の急須盆。何十年も前に作られた器たちが並ぶ店内で見た際には、そのニュートラルな形状も相まって、何に使われていたものなのか想像できなかった。ただ、気づけば手にとっていた。
「年代はわからないけど昔の急須を置くお盆だよ。可愛いでしょ」
と店主の方が教えてくれた。

へー。そうなんですね。と返事しながらも、自分のイメージする急須の形と大きさを思い浮かべてもしっくりはこなかったのを覚えている。それを察したのか、

「別に、急須に使わなくていいのよ。こんな風にお猪口と徳利と合わせても素敵でしょ?」
と、近くに置いてあった煌びやかな食器を合わせて提案されたスタイリングはとてもハイセンスで、古道具をささっと合わせたようには見えなかった。

生憎、自宅で日本酒を呑む機会がないことを申し訳なく思いつつも、モノが生まれた理由を軽やかに飛び越えて、新しいモノの存在価値を付け直す姿勢にとてもワクワクした。「じゃあこれはあれに使えるかも」と、こちらの思考も発想モードに切り替わる。

そんなこんなで、「エアプランツか鍵か何かしらの小物を置くお皿」になればいいかくらいの感覚で、やっぱり気になる急須盆を購入することにした。

持ち帰ってみると意外な展開。想像にもしていなかったが、自宅で使っていたガラスジャグとサイズが信じられないくらい同じ。まるでセットで売られていたように。そして、ガラスジャグの大量生産感をヴィンテージグラスのようにタイムスリップしてくれる。急須盆の新しい居場所が見つかった瞬間だった。

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生まれた理由と新しい居場所

新しい製品を発売するとき、店頭に並ぶとき、人から紹介されるとき、基本的にはそのモノには名前があり、製品カテゴリがあり、用途があり、スペックが明記されている。今の時代はそれだけでは足りず、生産地の背景やファウンダーの哲学までもが語られなければ、消費者の心には響かない。

古道具屋や骨董市に並ぶモノには、それがほとんどない。正確に言えば、当時は背景に生まれた理由とストーリーを持っていたが、時代とともに忘れ去られ、風化してしまっただけである。それに反比例してなぜか人を惹きつける引力を増しているものだけが、捨てられずに今も存在しているのだろう。

金沢の店主はいわば、そこに店主個人のナラティブを付加して生き返らせようとしているのかもしれない。モノの生まれた理由に縛られることなく、創造性に溢れ、モノの多種多様な居場所の可能性を開いている。 

生まれた理由とも違えば、自分が購入したときに想像していた使い方でもない。ただ、出生不明のTeapot Trayは、我が家のガラスジャグを毎日支えている。

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001. Pepper Mill | 景色を作る
▶︎ 002. Teapot Tray|新しい居場所
003. Plant Pot|用途の金継ぎ
004. Work Chair|選択肢の幅
005. Hand Soap|記憶の再生
006. Glasses Tray|問いのない答え
007. Rice Cooker|小さな変化


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