見出し画像

006. Glasses Tray|問いのない答え

みなさんは眼鏡ってどこにどうやって置いてますか?いわゆるメガネケース?それともテーブルや棚にそのまま?眼鏡専用のトレイ?

今思えばいろんな選択肢があるかもしれませんが、私は専用の置き場や道具を設けず、眼鏡をある種適当に扱っていた(眼鏡には申し訳ないが…)。第6回はそんな自分が使いはじめた眼鏡を置くトレイについて。

用途不明の籠トレイ

使いはじめたといっても、眼鏡用のケースやトレイ自体を目的に探したことはなく、「何か買わなくては」という意識もなかった。メガネの置き場に困る→メガネが置ける道具を探す→買う。というプロセスではなく、偶然出会う→なんとなく素敵だなと思いつつ、使い道は思い浮かんでいないが買う→メガネを置いてみるとちょうどよくなる→メガネ置きになる。という経緯で我が家に流れ着いたのが、今使っている籠のトレイである。それはとある飲食店が改装する際に、これまで使っていたものや、全然活躍していなかったものを大放出する日だった。その噂を嗅ぎつけ、特に目的を持っていなかったが向かったのだった。

画像4

モノと値札しかない店内は、掘り出し物を求める人々のワクワク感で満たされていた(空間自体は入場制限され管理されていたのでご安心を)。WEBで調べれば詳細の商品情報も得られただろうし、なんならAmazonなどで買えるものもあったかもしれないが、ここにあるモノ達は「このお店で使われていた」という背景情報のみに塗り替えられていた。それは、見る人自身がモノの使い道や他の持ち物とのフィット感を想像しなければならない状況であったが、訪れたお客さんが自分の目利きでモノを選び、どんな料理に合わせようかと想像を膨らませる空間はなんとも創造的な空間にも思えた。

そこで手にしたのがこの籠トレイだった。今では100均でもこの類のものが売られているので、どんな人が(もしくは機械が)作ったのかはわからない。そしてサイズからも何用なのかがパッと想像できなかった。デザートスプーンかおしぼり専用のトレイだろうか。ただ、「眼鏡のトレイに良さそう」と思ってしまった瞬間、それにしか見えなくなる。

実際使ってみるとそれは、眼鏡を傷つけない柔らかいテクスチャでもなくピッタリと眼鏡を保持する形状でもないが、眼鏡から考えた形状でない分、インテリアとして違和感はなく、スッと馴染む。眼鏡という身体に近い造形物と、棚やテーブルなどの建築に近い造形物の間をうまく溶かしてくれる存在ともいえるだろうか。その籠トレイは眼鏡を置かれた瞬間に眼鏡置きになった。

画像3

問いのない答え

利便性や機能性を感じて購入するものは、何かしら改善したいこと、困っていることが問題としてあり、それに対するソリューションとして手に入れ、解決する。それは、頭の中に問いだけが書かれた問題用紙をたくさん持っていて、それに対する答えとなる製品やサービスに出会ったとき、お金を払って答えと紐付ける作業とも考えられる。

このトレイで起こっていることはその逆なのかもしれない。何に対する解決策なのか、消費者側へ説明はない(今回は値札のみでメーカーや使用用途などもわからなかった)が、ただそこに答えとしてのトレイがある。もちろん、その答えに対する問いを見出せなければ、モノの価値はわからない。ただ、そこには想像する余地があった。問いを使い手が付与できる余地が。その「使い手自身が付与した問い」と「答えとの関係性」は、人によって異なる。それがモノに新しいナラティブを生み出す仕組みの一つなのかもしれない。モノの持つ「なんかいいな」と思える魅力が、問いを探せといざなってくる。自分の場合はそれが眼鏡だったが、皆さんだったらなんになっていただろう。

素材としてのモノ

さらに言ってしまえば、問いのないモノは、もはや答えではなく、素材なのかもしれない。古代の人々が石を見つけて、それを狩猟に使ったように、文脈のないモノを見つけて、それに用途を見出し生活に取り入れる。この見立てから考えられる視点はいくつかある。モノが自然物化しているという点。それは素材と思えるほどにものが溢れていることも意味し、人新世で語られる変化は意外と身の回りで起こっていることに気付かされる。人が作ったものが地球を覆い尽くしているということだ。であれば、モノを作るための素材としては自然物よりもすでに製造されたモノの方が使われるべきではないか。サスティナビリティの観点でいえば、これは明白である。

では、素材化することを見据えるとブランドは、モノづくりはどうあるべきだろうか。Patangoniaは、ビジネスユニフォームとして企業ごとに提供するPatagonia製品にクライアント企業のロゴを入れることをやめると発表した。ロゴをクライアントのために入れることで、用途やシーンを限定するため、二次流通をしづらくし、結果的に服の寿命を縮めることになると判断したからだ。ブランドやモノづくりのあり方は大きな転換点を迎えているのかもしれない。

画像3



001. Pepper Mill | 景色を作る
002. Teapot Tray|新しい居場所
003. Plant Pot|用途の金継ぎ
004. Work Chair|選択肢の幅
005. Hand Soap|記憶の再生
▶︎006. Glasses Tray|問いのない答え
007. Rice Cooker|小さな変化

この記事が参加している募集

おうち時間を工夫で楽しく

買ってよかったもの

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?