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003. Plant Pot|用途の金継ぎ

002. Teapot Tray|新しい居場所 でご紹介した店舗では、他にもいくつかの古道具を購入していた。その中で用途を決めて購入したものがある。それがこの白い磁器である。

ただ、この磁器は「火入」という茶道具の一つだった。江戸時代後期頃から登場したといわれる「火入」は、煙管などと一緒に煙草盆に一式揃えて客人の前に置かれる。今では実際に吸われる方はほとんどいないとのことだが、茶会の前に出されるところもあるそう。「どうぞ一服してください」と、「もてなしの心を表す」習慣は絶えず続いている。この磁器はその役目を終え、灰がまだ内側についていた状態で陳列されていた。

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穴のない鉢

サボテンを飾る鉢としてちょうど良いプロポーションと、表面のかさぶたのようなできものが、なんともいえない味わい深さを出していた。確実に今の時代に新品で売り出せば「不良品」になるだろう。そういう製造の揺らぎや不揃いなモノこそ、「市場に出回らない掘り出し物」感を感じてしまう。捨てられずに生きながらえてきたこの火入は、もう自分にとっては「どこか愛嬌のある鉢」にしか見えていなかった。

ただ、一つだけ欠点があった。

それは、底に穴が開いていないこと。(灰を入れるものなので当たり前だが)。外に出して育てる時期もあれば、家の中で鑑賞することもあるサボテンと合わせたかったので、どうにか工夫が必要だった。

そしてそして、購入して3ヶ月してようやくその磁器を「鉢」として使える準備ができた。何をしたかというと、内寸を計測し、3DPrinterでちょうど良いサイズの内鉢を作ってしまった。石のようなテクスチャの素材のおかげで、それほどプロトタイプ感を感じない。

これで水やりの時には内鉢だけを外に出すこともできる。白い磁器は立派な鉢(正確には鉢カバーだが)に変身を遂げることができた。

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用途の金継ぎ

江戸時代からはじまった煙管一式を提供する習慣は、訪れた客人に対してであり、「煙管を吸って一服してくださいね」という「もてなしの現れ」そのものだった。このWFH環境下では、自宅で働く自分に対して植物に囲まれる心休まる空間を設え、「自分をもてなす」という意味では、この鉢として生まれ変わった火入も時代を超えて同じ役割なのかもしれない。

今の時代にあった新しいモノを開発し、作り出すことも大切ではあるが、もうすでに地球上に産み落とされているモノは、できるだけ生かしていきたい。使いにくいところがあれば使いやすいようにできる限り直していきたい。ただ壊れたモノを直すということではなく、「火入を鉢として使えるように変身させる」ことは、まだまだ物理的に使えるモノからストーリーを紡ぎ出し、変身後の姿に語りたくなる魅力を付け加える感覚に近い。それは、モノを無駄にしないということだけでなく、「火入れだった鉢」というこれまでにない存在を生み出すことにつながる。きっと「白い磁器鉢」として売られていたら購入しなかったのかもしれない。

すでにあるモノの持つストーリーを丁寧にすくい上げ、モノの用途を生まれ変わらせるようなデザイナーやブランドも世の中にあっても良いのだろう。

代々、割れて使えなくなったお皿を金で継いで生まれ変わらせてきたことと同じく、用途を見失った古道具の使い方を、アイデアと現代の技術で継いで生まれ変わらせるように。

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001. Pepper Mill | 景色を作る
002. Teapot Tray|新しい居場所
▶︎003. Plant Pot|用途の金継ぎ
004. Work Chair|選択肢の幅
005. Hand Soap|記憶の再生
006. Glasses Tray|問いのない答え
007. Rice Cooker|小さな変化

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