マガジンのカバー画像

創作集-空想

46
運営しているクリエイター

記事一覧

本音

それで、私たちって、一体どういう関係だったんだろうね?
偶にこうして会って。近況報告とか、趣味の話とか、そんな他愛もない話をして、それで終わり。
この喫茶店でよく会う。店員さんにも覚えられたかもしれない。
意外と、意外と?学校の中では会わない、大学なんて人でごった返してるんだから仕方ないけれど。
一度見かけたことがあったけれど、数人で仲良く歩いてて、普通の、ごく普通の男子大学生って感じで、そりゃそ

もっとみる

細胞

電車には、まばらに人がいる。私はなるべく端っこにいる。そんな人間だ。
同じ車両、対極に、あの人がいた。あの人は、窓の外をぼーっと見ている。あの人はこちらには気付きそうもない。声をかけようか、しかしそんな勇気は無い。そんな人間だ。
冴えない顔の、面皰を一つ引っ掻いて血が滲んでいる、そんな私は一方的に眺める以外方法は無い。
同じ世界の、しかも同じ時間同じ車両にいるはずの、私達は全く別の世界にいる。私に

もっとみる

救世主

夏の特別暑い日。
扇風機を付けても、生温い空気をかき混ぜるだけでちっとも効果がない。
なるべく節約したいから、エアコンは付けない。勿論身体に良くないのは分かっている。
でも、お金がない。バイトとはいえがむしゃらに働いて、家賃も出来る限り抑えてボロアパートに住んでいる。ギャンブルもしないし、何かに課金したりもしないのに、何でただ生きているだけでこんなにもお金が無くなるのか。
親は借金に塗れて消えた。

もっとみる

夏闇

みっちゃんは、転んでも叩かれても泣かないわたしを、「あいこちゃんは変だ」と言った。
わたしからすると、みっちゃんの方が変だと思った。
蛙や虫を捕まえたわたしを見て、「やだ、そんな気持ち悪いの」と言った。
みっちゃんの方が、気持ち悪い。子供のくせに、いやに背が高い。ませている。
「こんな田舎はいやだ。将来絶対に都会で暮らすんだ。」
ああ、失敗するだろうな、と思った。
別に、みっちゃんのことが嫌いなわ

もっとみる

神隠し

私は部屋で、ぼうっと窓の外を眺めながらインスタントコーヒーを飲んでいた。よく晴れている昼下がりである。

しかし、ここは私の部屋ではない。

私は、大学に入学してから、写真部へ入部した。永尾とは、そこで出会ったのである。彼はとにかく幸の薄そうな顔立ちで影も薄く、それに加えて自分から喋ろうとはしなかったし、話しかけられても小さく返事をするのみであった。
部員たちは、(少なくとも表面では)意地の悪い人

もっとみる

ボーッと歩いていたら、軽く人にぶつかった。
相手が軽く舌打ちをし、僕は「あ…すいません」と言う。
それが今日発したたった一声だった。

映画やドラマ、小説や漫画。何でもいい。冴えない主人公だろうが、そこには運命の人が現れたり救いの手が差し伸べられたり、そこまでいかなくとも何かしら友人がいたりする。とにかく誰かしらが周りにいる。
現実はそう都合よくいかない。
この話だって、普通に考えればこの後誰かと

もっとみる

下衆

あたしはバカだから、人間が嫌いになった。
自分含めて誰のことも信じなくなった。
タバコで噎せるとか、一夜限りの愛とか、そんな悪いことだってしてみたかった。
あたしは、何のために生きてるとかそんな答えのない問題なんて解きたくない、けれど、ここに流れてる空気が、死の匂いが、ねえ、死の匂いがする気がして。
間違ってるのかしら?????
あたしが間違ってるのかしら??
あたしの生が間違ってるのならば、今す

もっとみる

Я│R

ああ、そう。そうだった。
目を覚ましてみても、この世界には希望というものは何も無かった。
そもそも希望などといった生温い概念など初めから存在していない。全ては絶望で出来上がっている。
私の側でキャッキャと楽しそうにしている輩は、目の前に横たわる絶望の存在に気が付いていないだけなのである。

「貴方は賢すぎるんだよ。賢すぎるからいけない。この世界は馬鹿で出来ている。馬鹿しかいない。貴方みたいな賢い人

もっとみる

浄土

あたしは良い子でままはそんなあたしが大好きだからあたしは今日も良い子でいるままはとても優しいあたしも大好きだよああでも血も涙も貪って歪んだ視界の先のあたしのことを最近嫌っていてままは悪くないあたしが歪んでいるのままは化け物じゃない違う化け物じゃない化け物じゃないあたしはあたしの普通で生きていて他人の普通は異常でしかないこうやって今日も毛を目を口を胴体を脚を心臓を肺を胃を細胞を細胞を細胞を酷く惨く上

もっとみる

少しだけ待ってて。

私を唯一愛していてくれていた筈の人が、突然居なくなった。
故意に自分を殺めた。
その事実を知った時、私は、思い出す限りの愛してるという言葉も柔らかい笑顔も少し小さな声も、その全てが急に気持ち悪く感じられた。
私は嘔吐した。
全てが嘘だった。
だって、私を愛しているのに、自ら命を絶つ訳がない。
不思議と、悲しみは襲ってこなかった。
私は、部屋にあるあの人の痕跡を全て消そうと試みた。
全てを捨てた筈な

もっとみる

青春

幼い頃、私は近所の小さな花屋さんが好きだった。そこで働くおばさんと、その娘さんはいつも学校帰りの私に温かい笑顔を向けてくれる。
私は2人と軽く会話をして家に戻る。2人は私を可愛がってくれた。誕生日には素敵な花を一輪、プレゼントしてくれた。
私はプレゼントされた花が枯れていくことがとても嫌で悲しくて、泣いてしまうのだ。
それを伝えると、2人はある時ドライフラワーを拵えてくれた。
ドライフラワーは半永

もっとみる

『』

ラムネ瓶が落ちた。
日差しを受けて、キラキラと光っている。
吸い込まれそうなほどに透き通ったその色は、懐かしい、暖かい昔の味を思い出させた。
高らかな音が鳴った。
バラバラに弾け、粉々になったようだ。
美しい物が、瞬間、鋭い破片となった。
柔らかい春の空気に侵略していくような繊細さで。
世界は、そこで終わりを告げた。

私は誰だ

十六才

死は、ゆっくりと空へと昇っていくものだとばかり思っていた。
しかし、実際は、ボロボロの柵から黒々しいアスファルトへと吸い込まれていくのみである。
それ以上の世界はどこにも無い。
そんな些細な事実に気が付くには遅すぎた、春の特別暖かい日だった。

ネコ

ぐるぐると回る洗濯機に、

猫、

のぬいぐるみを入れる。

これはあたしが小さい頃から大事にしている代物で、

もうボロボロだ。

白い、

いや、

白かった、

猫、

のぬいぐるみ。

時々洗うけど、でもあまり変わらない。

外に干す。

気持ちのいい快晴だった。

それからウトウトと昼寝をして、していたら、どれくらいの時間が経ったのだろう。

目覚めて、時計を確認すると、意外にも30分も

もっとみる