Я│R

ああ、そう。そうだった。
目を覚ましてみても、この世界には希望というものは何も無かった。
そもそも希望などといった生温い概念など初めから存在していない。全ては絶望で出来上がっている。
私の側でキャッキャと楽しそうにしている輩は、目の前に横たわる絶望の存在に気が付いていないだけなのである。

「貴方は賢すぎるんだよ。賢すぎるからいけない。この世界は馬鹿で出来ている。馬鹿しかいない。貴方みたいな賢い人間が生きる事が出来る世界など何処にも無いんだよ」

ああ、そう。そうだった。
いつか、誰かに言われた気がする。
いつだって、周りを取り囲む世界は馬鹿馬鹿しい物ばかりで、それに辟易していたが、私が間違っているのか。

鏡を覗く。
いかにも、な顔をしている。
でも、この世界にはずっと、違和感があるんだ。
文字が上手く読めないのは、私が馬鹿だからか。
いや、私は賢い人間だ。

ある時から、偶に吐き気を催す。
取り囲む歪んだ、重い空気が私を支配する。
鏡が割れた、その時から、えも言われぬ歪みが私を襲う。

それでも死のうとはしなかったのは、ただ自分が臆病なだけである。

シンメトリーな物を見ていると心が落ち着いた。
左右均等な物は、どうしてこんなに美しいのだろう。人間もアシンメトリーだ。

鏡を覗く。
自分は、こんな顔だったか。
何も分からない。
もう、何も分からない。

鏡を投げる。
割れる音が美しい。





ああ、そう。そうだった。
目を覚ましてみても、この世界には希望というものは何も無かった。
そもそも希望などといった生温い概念など初めから存在していない。全ては絶望で出来上がっている。
私の側でキャッキャと楽しそうにしている輩は、目の前に横たわる絶望の存在に気が付いていないだけなのである。

だけど、その思いは消えずとも、感じていた重い歪みはいつしか直っていた。





恐らく、私は長らく鏡の世界に迷い込んでいたのであろう。
全てが反対だった。ずっと苦しかったのは、全てが反対な世界だったから。


だけれど、元の世界に戻っても、どうして絶望は希望に変わらないのだろう。

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