袖摺れの君はどこに。
「本当はカップルで来るところじゃないんだよ。」
出雲大社の鳥居をひとつ、ふたつと、2人でくぐりながら僕は言う。
この地で暮らしていた学生時代、カップルで参拝している観光客を横目に、分かってないなぁ、なんて思ってたのに。
「大丈夫だよぉ。ちゃんと私たちが一緒にいられるように、神様にお願いしておくから。」
そんな風に笑う彼女を見ると、ほだされてしまう。
自分が生まれ育った見慣れた景色に溶け込む彼女を見ると、なんだか不思議な気持ちだった。
ずっと一緒にいられる、そんな気がした。
でも。
あるとき僕は、しっかり握っていたはずの彼女の手を離してしまった。
離れていく彼女を、繋ぎ止められる自信が持てなかった。
「あなたが諦めるなら、もう一緒にいられない。」
そう言って彼女は去っていった。
彼女は僕以外の誰かを、もう見つけたかな。
あのときは楽しかった。
神様との約束を果たせなくて、ごめん。
君の幸せを、心に願うよ。
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