南方無難 / Minakata Bunan

音楽とか、映画とか。

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生地と虎

数年前から、買う服の価格帯を少し上げた。服のことは今もほとんどわからないけど、耐久性や機能性やデザインのレベルが上がっている実感が嬉しかった。「いいものは長く使えるから結果コスパがいい」なんて、適用されない場合も多いけど、まだ捨てたくなるようなものはなくて助かっている。 いつも行く店で、スーツの上下を買った。「こんなにいい生地がこんな安価に!」との触れ込みだった。肩パッドがなくややゆったりとしたサイズ感だったが、特に直しもせず持ち帰った。 2年半が経ち、礼服として着ようと

    • 別れ話の邪魔者

      別れ話にかかる時間の平均値はどれくらいなのだろう。 回数を重ねたら短くなったりするのだろうか。 自分の場合、どうしても長くなってしまう。 結論だけ言って終わらせたり、冷たく切り捨てたりができない。 嫌われたくないのだろう。円満に別れるというファンタジーを追求してしまう。理由を考えて説明してしまう。 話は変わるが年々お腹が弱くなっている。あまり気分のいい話ではないのでお腹弱い界の大先輩、星野源さんや朝井リョウさんの文章だと思って読んでいただきたい。 寒い時期は本当に不安定に

      • 結婚したくない

        正確には「結婚したいと思っていない」なのだが、伝わらなさそうで「結婚したくない」に変えた。 この感情は、つまるところ希死念慮なのだと思う。暴論なのかもしれないが、自分の中では正論だ。 特定の他者との関係(恋愛を含む)におけるひとつの到達地点が「ずっと一緒にいる」であるという考えには同意したい。自分の中に「結婚したい」という感情はなくても「ずっと一緒にいたいと思える人と出会いたい」という願望のある時期は長かった。ただ問題は"ずっと"の部分である。"ずっと"をただ希望するのは

        • 申し訳なかった

          中3の春、背番号13をもらった。 でも、その大会から僕は、ファーストのスタメンで出ることになった。 僕はずっと、サードの控えだった。 小学校の野球経験がなく、特に希望ポジションもなかったので、「2番手になれるところ」という理由で、絶対的にうまい同期がいたサードの控えの座を手にした。2番手は、練習試合のダブルヘッダーや紅白戦で必ずスタメンになれた。我ながら賢い戦略だったと思う。 最上級生になった中2の冬の時点で「内野の控えで一番うまい」というチーム内認知を得られていたように

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          夕闇

          夕方、まだ明るいうちに風呂に入り、濡れた髪も乾き切らぬうちに夕飯を食べるのが好きだった。まだ酩酊も化粧水も知らない、幼少期の話だ。 石像に戻ったウルトラマンティガが海底に沈んでいくのを見て、箸を持ったまま号泣した。記憶している中で、初めての絶望感だった。でも、そんなのは大したことなかった。本当の絶望は、翌週に訪れた。 画面の中のティガは、光となった人々によって復活した。でも、自分は見慣れた畳の上に座ったままだった。きっと笑顔で、夕飯を食べていた。 自分は、あんなに大好きだ

          オンライン会議用の髪型アレンジ

          美容室で雑誌代わりにタブレットを渡されることが増えてきた。 物理本を買い集めるより、サブスク購入の方が合理的なのかもしれない。 手に取らずに放置していると、タブレットは映像を流し始めた。 JRの車内映像にもあるような「美容のヒント」のような感じで、ヘアアレンジの解説動画が始まった。テーマは「オンライン会議用の髪型アレンジ」。 後ろ髪を束ねる所から始まった。なるほど、先に後ろからか。と思っていたら、そのまま後頭部の髪だけをいじって終わってしまった。 オンライン会議で、頭の

          オンライン会議用の髪型アレンジ

          記憶のない徹夜ボウリング

          友達は少なそうだけど、なぜか自分とは仲が良かったよな、という人はいないだろうか。 僕の場合、それは大学の同期の(特に意識はしなかったが)異性で、頻度は少ないものの話したり、学食で昼食をともにしていた。 その人は、突拍子もない思いつきを、口に出して実行できる人だった。突拍子もないと思っていたのは彼女以外の人間だけだったのだろうが。 一緒に行かない?と僕に提案されたのは、「徹夜ボウリング」だった。徹夜カラオケ、徹夜麻雀...大学生がやりそうな徹夜〇〇は数あれど、徹夜ボウリング

          記憶のない徹夜ボウリング

          半額のいちご

          りんごの味が全盛期とは比べ物にならないくらい落ちてきたこの頃である。 いちご、あまり自分では買わないが好きな果物ではある。 先日、ショッピングモール内のややお高めなスーパー(あえて八百屋風に陳列してる感じのお店)にて、「いちご半額!!」と大きめのポップが出ていた。見ると、なかなか大きめの美味しそうなパックである。 これはと思い、手を出した瞬間、店員さんが「ジャムにしてくださいねー」と声をかけてきた。「生食はやめてくださいねー」 "やめて"あたりで、完全に手を体の横に戻

          幸福論

          いい宿に泊まり、いい風呂に入り、いい食事をする。 そんな喜びに幸せを見出した時、それはベタだ、凡庸だと否定したくなる気持ちと、凡庸であることへの安心の両方が芽生える。 自分にとっての至上の幸福と思えるものが、個人的で独占的であればあるほど望ましいと思う。そんな幸せを見つけられないうちに、ベタで一般的で検索しやすくて検索しなくてもどこでも見られるような、そんな幸せばかりを享受しているような気がする。

          じいちゃんばあちゃんにまたねと手を振るときの錯覚を永遠と呼ぶ

          映画『フェアウェル』を観て、久しぶりに思い出したのだけど、 祖父母の家に行って、帰ってくるとき、祖父の運転する車で駅まで送ってもらうことが多かった。祖母は大抵、家の前で見送ってくれた。 車の後部座席から見た祖母が手を振る姿を、なんとなく覚えている。 でもその姿は、多くても2,30回ほどしか見ていないはずだ。 もう、見たくても見れない。お別れしたくてもできない。 道に出て手を振る祖母と、運転席から手を振る祖父を、忘れない。

          じいちゃんばあちゃんにまたねと手を振るときの錯覚を永遠と呼ぶ

          匂い

          生まれてこのかた、匂いのついているものを身に纏ったことがなかった。 皮膚が弱かったせいで、シャンプー・リンス・ボディソープはすべて優しい系だから当然のようにほぼ無香料。 洗濯洗剤や柔軟剤は、母親の好みで、無香料。 部活の時に使っていた制汗剤は、自分の好みで、石鹸系か、微香料。 そもそも男子校だったので、同級生のほとんどが匂いには無頓着で、たまに強い匂いの制汗スプレーを使うひとはテロリスト扱いされていた。 時は移ろい、大学生になり、初めて彼女の家に行った時、使っているシャン

          星座の名前

          空気が澄んで星が見えやすいこの頃ですが、 大昔の暇人の尋常じゃない想像力の成果でしかない星座の名前を、 現代の子供たちが覚えさせられてテストで正誤判定されてるの、冷静に考えておかしくないか??? 僕が「あれはWだ」と思ったら、それは「W」以外の何物でもないはずなのに、「それは〇〇座です。はいバツ。」って言われんの、おかしくない??? 星の名前はいいと思うんです。北極星が「北極星」でないと色々支障が出るはずなので。でも星座の名前が共通化されてないと困るの、占い師ぐらいだろ

          『思い、思われ、ふり、ふられ』

          ティーンムービーの最高傑作だと思いました。 咲坂美緒さん原作の映画の中で一番好きだし、三木孝浩監督作品の中でも『ソラニン』『僕は明日、昨日の君とデートする』を超えて一番好きになった。 よかったなと思ったところを、観終わった直後の興奮のままに羅列しておきます。 関係性の描写由奈(福本莉子) → 理央(北村匠海) → 朱里(浜辺美波) → 和臣(赤楚衛二) の”全員、片思い”の状態からスタート。基本的には、この関係性が変化していくさまを見守っていくことになります。 原作はコ

          『思い、思われ、ふり、ふられ』

          泣いたって

          深夜2時。 洗濯物干しにベランダ出たら、泣きながら歩いてる女性が見えた。 嗚咽は漏れているし、手はずっと目元を押さえているけど、しっかり歩いてた。 マンションの3階から見た光景はあまりにも、画になっていた。 だけど、もし正面から歩いてきたとしても、声はかけられなかったんじゃないだろうか。 それぐらい、歩みの力強さに、感動してしまった。 幸あれ。

          井の頭公園のカフェでカレーを食べていた。 吉祥寺駅に着いた時から重たい曇り空だったけど、どんどん暗くなってるなと思っているうちに、土砂降りになった。 ガラス張りの外を眺めていると、自分が濡れていないのが不思議なくらいだった。 カレーを食べ進める間に、ずぶ濡れになった人たちが避難してきて、店内はほぼ満員になった。 隣の席に座った男の子2人が、髪も服も濡らしたまま、口の周りをチョコだらけにしながら、クレープを食べていた。 向かいの席から身を乗り出すように2人を眺めている人

          言わない

          両親が離婚した時、ついでのように、サンタクロースの正体が明かされた。面倒なことは全部話してしまえ、と思ったのだろうか。 秘密は、話してしまう方が簡単だ。 他にも、伏せておくべき話をぶっちゃけたり、裏の意図を先に言ったり。 それが一番楽だ。 だが、聞く側にとって、それは必ずしもプラスの情報ではない。 墓まで持っていってほしいこともある。 『逃げるは恥だが役に立つ』のドラマ(第5話)でもそんな話があった。 契約結婚が百合さんに疑われたときの、いっそ正直に言うしかないのでは、