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生地と虎

数年前から、買う服の価格帯を少し上げた。服のことは今もほとんどわからないけど、耐久性や機能性やデザインのレベルが上がっている実感が嬉しかった。「いいものは長く使えるから結果コスパがいい」なんて、適用されない場合も多いけど、まだ捨てたくなるようなものはなくて助かっている。

いつも行く店で、スーツの上下を買った。「こんなにいい生地がこんな安価に!」との触れ込みだった。肩パッドがなくややゆったりとしたサイズ感だったが、特に直しもせず持ち帰った。

2年半が経ち、礼服として着ようと思ったらさすがに袖が長かった。初めて、”お直し”をしてもらおうと思った。

百貨店の中の仕立て直し屋さんで対応してくれたのはベテランらしい白髪の紳士だった。自分が客として、好々爺と接するのはかなり心地の良いものだ。

その好々爺が改めて説明してくれたのだが、ロロ・ピアーナというブランドのFour Seasonsという生地で、Super130’sというメリノウールを使っていてかなり良いものらしい。銀座にある店でニットなどがどんな価格で売られているのかを教えてくれた。後でスーツの購入履歴を見たら、それよりもはるかに安い価格で購入できていた。ラッキーなのかもしれない。

結局、ジャケットは袖だけでなく肩幅と身幅も、パンツもウェスト・ヒップ・裾と大改造になった。部位は多いがそれほどサイズを変えるわけではないので安いほうらしいが、それでもスーツ自体の値段に匹敵する価格になった。想像していたせいか驚きはなかったが、冷静に考えればすごい世界だ。

支払いを待っている間、引き取りカウンターにいた人がなぜか皆とらやの紙袋を持っていることに気づいた。なんなら、品物をとらやの紙袋で受け取っているように見える。そんなことがあるか。しばらく考えて気づいた。とらやではなく、三越の紙袋だと。後から調べたら、とらやのものは虎が描かれていて、見たことがあったが、僕は長らく、三越の紙袋をとらやのものだと思っていた。


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