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匂い

生まれてこのかた、匂いのついているものを身に纏ったことがなかった。

皮膚が弱かったせいで、シャンプー・リンス・ボディソープはすべて優しい系だから当然のようにほぼ無香料。
洗濯洗剤や柔軟剤は、母親の好みで、無香料。
部活の時に使っていた制汗剤は、自分の好みで、石鹸系か、微香料。
そもそも男子校だったので、同級生のほとんどが匂いには無頓着で、たまに強い匂いの制汗スプレーを使うひとはテロリスト扱いされていた。

時は移ろい、大学生になり、初めて彼女の家に行った時、使っているシャンプーとリンスがあまりにいい香りなので卒倒しそうになった。これが女の子のいい匂いの素かと。感謝に近い想いとともに、いい匂いというものに対する憧れの念が生じた。

さらに時が流れて、一人暮らし4年目。もう言い逃れようのない成年男性。自分では無臭だと思っているが、それなりの匂いがしているだろう、対策はしたほうがいいんだろうな、となんとなくの課題感を持ちつつ、それより強く、無臭のタオルや服に、物足りなさを感じている自分がいた。繰り返しになるが、いい大人である。そろそろ、積極的に香りを纏ってもいいのではないかと考えた。

よし、買おう。

ドラッグストアで、サンプルの香りが置いてあるものはほぼすべてかいでみた(不審だっただろうな)。さっぱりしたフローラルな香りの柔軟剤と、シトラスの香りのリンスと、ついでにローズの香りのトイレットペーパー。

最初に柔軟剤を使ってみると、洗濯機を開けたときに強烈な香りがして驚いた。これはやらかしたと思った。強すぎる。ヤバイおじさんになる。
干したあとは、脱ぎ着する時以外感じない程度になっていたので安心した。
この話を女性の後輩にしたら鼻で笑われた。

リンスは大当たりだった。風呂上りの自分からいい匂いがすると、めちゃくちゃテンションが上がる。在宅勤務だし、風呂に入るタイミングが朝になりがちだったのだが、むしろ朝シャンの方がスイッチが入るようになってしまった。

トイレットペーパーは、なんか妙な気持ちだ。トイレが心持ちいい匂いなのだが、「う、うちのトイレをどうしたいんだキサマ…!!」という畏怖の気持ちの方が、今は強い。



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