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井の頭公園のカフェでカレーを食べていた。

吉祥寺駅に着いた時から重たい曇り空だったけど、どんどん暗くなってるなと思っているうちに、土砂降りになった。
ガラス張りの外を眺めていると、自分が濡れていないのが不思議なくらいだった。

カレーを食べ進める間に、ずぶ濡れになった人たちが避難してきて、店内はほぼ満員になった。

隣の席に座った男の子2人が、髪も服も濡らしたまま、口の周りをチョコだらけにしながら、クレープを食べていた。

向かいの席から身を乗り出すように2人を眺めている人が、
「外から見てる分には、可愛いだけ思ってればいいから気楽だよね」
と言った。自分に子供ができても好きを維持できるか分からないと。
実際、彼らのお母さんは、メニューを決める際もちょっと怒りそうになっていたし、子供たちが食べている間も、自分の紅茶はほとんど飲めていなかった。

僕らは、天気アプリの雨雲レーダーを信じ、30分後にくるはずの雲の切れ間を待つことにした。クラフトビールを注文して、なぜ家を出る前に天気予報を見なかったのか、検証を進めた。

女性2人組が駆け込んできたが、外の軒先で待つことになったようだ。
雨脚が弱まっていたので、僕らは店を出ることにした。

コンビニが300m先にあるようだったので、僕が走っていくことにした。
連れの女性も一緒に青春したいと言い張ったが、ヒールにロングスカートなので全力で止めた。

300mは想像より100mぐらい長かったけど、無事に全力疾走のままコンビニに辿り着いた。
ビニール傘を2本買って、小走りで戻ると、ちょうど隣の席にいた親子連れも外に出てきたところだった。

せっかく買ってきてくれたのに悪いんだけど、と前置きした彼女に
「1本あげてもいい?」と訊かれたので、もちろんと答えた。
お母さんは、わざわざ僕の方にも向き直って挨拶をしてくれた。

この人は優しさと、優しさを行使出来る強さを両方持っているなと思った。

実は、コンビニに走ろうと決めた時点で、お店にいる他のお客さんたちに、傘買ってきましょうか?と聞こうかどうか少し迷った。
気恥ずかしいが圧勝して、何もできなかった。

想像は、誰の役にも立てない。思いやりという表現をするけど、思いを遣るには、何らかの行動に乗せないといけない。
僕にできたのは、何も考えず2本買ったことだけだったけど、少なくとも今回は、優しい人の役に立ててよかった。

副産物として、相合い傘になった。
右肩は濡れ続けたけど、それはそれでよかった。

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