ニート逆転人生、そして・・・【短編小説】
『【朗報】ニート大勝利!ゲームをするだけで年収1000万円ゲット!』という記事を、まとめサイトで見つけた。
どうせ、ろくでもない記事だと思ったが、ニートのオレとしてはやっぱり興味があり、記事を読んでしまった。
記事の内容としては、国がバックアップして世界に通用するゲームを開発するらしい。
国がオタク文化に関わると、大概が失敗すると思ったが記事を読み進めた。
基本料無料で課金要素はキャラクターのスキン(キャラの見た目)変更のみらしい。
ゲーム的には無料なので気軽に遊べる感じだ。
しかも、キャラのスキンのみの課金要素なら、プレイヤースキルのみの勝負になるため、課金勢が有利という部分もなくオレ的には好感が持てた。
ゲームの舞台は、宇宙のある惑星を舞台にした世界観。
しかし、ジャンルがマズイ……FPS(一人称のシューティングゲーム)は日本で流行らない。
欧米・欧州ならば、その手のゲームは人気だが日本ではイマイチなゲームジャンルだ。
しかし、このゲームは日本をメインターゲットにして、FPSを全面にアピールしている。
年収1000万円ゲットというのも、定期的にプレイヤーがゲームのサポートという形で特別公務員になるらしい、そんな嘘くさい内容にげんなりした。
やっぱり国が絡むと失敗するんだなと思い、そのゲームの興味をなくした。
※
オレの名前は山岸勝利(やまぎししょうり)、両親はオレが人生で勝利し続ける事を願い、勝利という名前を付けてくれたが、実際のオレはダメ人間になった。
それなりに裕福な家庭で育ったオレは、小さい頃から甘やかされて育った。
そのため、自己中心的でわがままに育ち、好きな物ばかりを食べていたため小学生から肥満体型になっていた。
子供という生き物は残酷で、無邪気に弱者をイジメて喜ぶ。
オレは家では威張っていたが、外に出ると小心者だったため、すぐにイジメの対象になり、小学校高学年から不登校になった。
それから約20年、オレは引きこもりニートとして生きている。
年齢も30歳になった。
家での生活は一日中、好きなゲーム・漫画・アニメを楽しむといった感じで、グウタラな生活をしている。
食事も3食、母親が部屋の前まで届けてくれるので困ることはほとんどない。
ただ、可愛い彼女がほしいとか、童貞を卒業したいとかの願望はあるが、自分にはムリだろうと最初から諦めている。
心配事といえば、両親が死んだあとはどう生きるかが問題だった。
高齢出産でオレを生んだ両親は、二人とも70歳を越えている。
あと10年くらいは大丈夫だろうが、年金で生活している両親が死んだ場合、わずかな遺産だけでは数年しか生活できないだろう。
最悪の場合は生活保護を受給しようとは思っているが、今はそこまで危機感は感じでいなかった。
そして今日もモニターの前でコンテンツを楽しんでいる。
※
以前、まとめサイトで見たゲームがヒットし始めてきた。
国が大体的にTVやネットでCMを流し、SNSではインフルエンサー達がこぞってそのゲームを紹介しているからだ。
知名度が上がれば、プレイする人口が増えるのは必然で、更に拍車を掛けたのが、一定数のプレイヤーがゲームをサポートする形で特別公務員になり始めたことだ。
更に特別公務員に選ばれるのは、無職の人間がほとんどだったため、特にニートの中では大ヒットの作品になった。
毎日のようにSNSでは、ニートだったクズ人間達が豪華な部屋で暮らしている姿や、高級車を乗りまわす写真がアップされていた。
その豪華ぶりはとても年収1000万円どころではない感じだった。
毎日のようにSNSでそんな写真を見ると、オレにも下心が出てきてそのゲームをプレイするようになった。
遊んでみると、グラフィックも最高標準でFPSというジャンルも慣れてくれば面白く感じていった。
何よりキャラクターが日本人好みの可愛い女の子やカッコイイ男などが多く、海外のゴリマッチョやブス女が少ないのが、オレ的には夢中になる要因になった。
ゲームモードは大まかに分けて、2つ用意されていている。
1つは4人で協力し、ボスを倒すとクリアというモード。
2つ目は100人でのバトルロイヤルで、最終的に生き残ったプレイヤーが勝利するモードだった。
前者の4人協力モードは比較的日本人には好まれる遊びで、オレも4人協力モードばかりをプレイしていた。
そしていつしか、起きている大半がそのゲームに費やすという生活が続いた。
半年後になると、オレはそのゲームのトップランカーの一員になっていた。
生活のほとんどをゲームに費やした成果なのかもしれない。
そして、ついに運営側(国)から、ゲームのサポートの依頼がきた。
その時、生まれて初めての達成感を味わったのかもしれない。
※
後日、国の役人2人が家のインターホンを鳴らした。
最初、両親は何の事かわからないでいたが、2人が正式な国の役人とわかって話を聞くことにしたらしい。
専門的用語には理解のできない両親だったが、自分達の息子が特別公務員として採用される事に喜んでいた。
母はあまりの嬉しさにその場で涙を流してたらしい。
ただ、1つの気がかりは息子が国の管理化の施設で暮らし、会うことがなかなかできないということだった。
過保護の母は、そこに拒絶反応を起こしたが、父の説得のおかげで両親とも息子の採用を承認した。
その後、オレが茶の間に呼び出された。
数年ぶりに入る茶の間は自分の家なのに新鮮な感じがした。
ほとんどが自分の部屋で過ごすオレからすると、自宅の茶の間さえ別の家のように感じてしまうのだ。
オレは両親以外の人間には緊張してしまうが、我慢して国の役人の前に座った。
コミュニケーション能力の低いオレは、相手の顔を見て話すことができず、下を向いてばかりだった。
役人はこれまでの経緯や採用時の条件をオレに伝えた。
オレは前もって細かな情報はネットで調べていたので、その点は驚きもせず淡々と頷いて話を聞いていた。
最終的には契約を済ませ、後日に国からの迎えが来る事になった。
オレ自身、引きこもって暮らしたこの家から離れるのは怖い。
しかし、これがオレの成功者になる最後のチャンスだと思い、家を出る決心を決めていた。
オレは自分自身に不思議に思った……こんなオレでもまだ希望を望んでいたということに……。
※
後日、役人が車で迎えにきた。
車に乗る瞬間、両親の涙を流し喜ぶ顔が映った。
両親を今まで苦労させていた事に、オレはそこで初めて胸の苦しむ感じがした。
車は発進んし、両親の姿が小さくなっていく、それでも両親はいつまでも手を振ってくれた。
その後、オレは目隠しとヘッドホンを付けさせられた。
これから向かう施設は極秘な場所のための処置らしい。
確かにネットの情報では、特別公務員に採用された人物の優雅な暮らしはSNSで投稿されているが、誰もその施設の場所は知らないみたいだった。
採用された人物が外出する時は、今のオレと同じように目隠しとヘッドホンを付けられ、特定の場所に置いていかれ、帰りにはそこに迎いが来て、また目隠しとヘッドホンと付けて帰宅するらしい、情報までは知っていた。
2、3時間ほど車に揺られ、車が停車しオレは目隠しとヘッドホンを外された。
そこは建物の駐車場だった。
全体的に近代的な感じがし、窓などはなく外の景色を見ることはできなかった。
オレは役人に連れられ、施設の奥に向かった。
289と書かれた扉の前に着くと、そこがオレの部屋らしい。
中に入ると、SNSで見た通りの豪華な部屋だった。
とても現実とは思えない光景に、オレは珍しく興奮していた。
自分の荷物を置き、次に連れられたのは、オレの職場となるフロアだった。
そこには30度くらいに傾いたベットで寝かされ、頭部全体を覆う機械的なヘッドギアを被った人間が20人ほどいた。
この情報はネットにはなかった。
どうもここからが極秘の作業らしい。
部屋の様子を見ながら役人はフロアの説明をしてきた。
このフロアで行われているのは、特殊なヘッドギアを被り、脳に電磁波で刺激を与え、直接ゲーム内の自分のキャラクターを操作する実験らしい。
そして被験者になったプレイヤーは与えられたミッションをクリアするというものだった。
被験者達が見ている映像は、今までプレイしていたあのゲームらしい。
勤務時間も8時間と一般的な労働時間で過酷な労働環境ではない。
現に今も目の前のフロアでは、ミッションを終えた数名がヘッドギアを外し、スタッフや一緒にプレイした仲間と、ドリンクを飲みながら楽しそうに雑談している。
オレは疑問に思った点を言葉足らずな喋りで、役人に訪ねた。
ここに集められた人間はオレの様な引きこもりのニートばかりなのに、どうしてあんなに楽しそうに雑談ができるのかと?
今のオレは他人との交流など怖くてできない。
それが不自然に思えたからだ。
その問いに役人が答えたのは、優秀なカウンセラーとここの環境が人を前向きにするらしい。とのことだ。
にわかに信じがたいが、現に目の前の元引きこもりやニート達は楽しそうに談笑している。
オレはその言葉を信じる事にした。
※
この施設に来て、一週間が経とうとしている。
その頃になると、オレも被験者の仲間達と楽しく談笑できるようになっていた。
自分でも不思議に思うくらいの事で、自分自身にビックリしている。
更にヘッドギアを被り、ゲーム内に入るとまるでその世界が現実の世界のようにリアルに感じるようになってきた。
どうも、ここで行われている実験というのは、次世代のVRゲームや研究、または新たなコンテンツ開発のデータを集めているらしいのだ。
実際に自分でヘッドギアを被り経験すると、その仮想世界は現実そのものに感じる。
オレでもこれをビジネスに結び付ければ、大きなお金が動くのは目に見える。
国がバックアップしてまでやる価値はあると、こんなオレでもわかった。
1つ気がかりな点があった。
毎日数名がフロアから姿を消し、更に毎日数名が新たに追加される。
どうも、ヘッドギアとのシンクロ値が一定数以上になると次の段階へ進み、別フロアでの新たな実験が行われるらしい。
オレはその次の実験が楽しみである反面、不安でもあった。
※
オレのシンクロ値が一定数以上になったため、次のフロアへ連れて行かれた。
その頃になると、ヘッドギアを被ると完全に仮想世界が現実と見分けがつかなくなっていた。
施設内の別のフロアに進むと、そこには特殊なベッドが置かれていた。
前のフロアのベットとはまるで違うのでオレは少し恐怖心が起きたが、カウンセラーが軽く肩を叩いてくれて、安心させてくれた。
このカウンセラーはオレを親身にサポートしてくれて、この短期間でオレはこのカウンセラーに好意を持つくらいに信頼していた。
オレは支持されるまま、ベットに寝かされヘッドギアを被される。
いつものように現実と同じくらいリアルな仮想世界が目の前に広がった。
すると、少しづつ意識が薄れ、いつしか眠ってしまった。
目覚めるとそこは、広く殺風景なフロアに居た。
体を動かすと所々に違和感があり、今まで通りにキャラクターを動かす事ができなかった。
その代わり、キャラクターの体が今まで以上に自分の体のような不思議な感覚を感じた。
今回の実験はキャラクターと体のシンクロ値を上げるためのものらしい。
そのため、当分の間はヘッドギアを被って生活することになるようだ。
その点には不満があったが、どうもこの実験では仮想世界の食事には味覚を感じ、様々な事が五感で感じられるという事だった。
リアルさを出すために、排便排尿という生理現象もリアルに再現しているらしい。
しかし、痛みのように苦痛を感じる感覚は極限まで抑えられている。
オレはこの殺風景なフロアで体のシンクロ値が上がる訓練をした。
そのうち、体は自分の意志のままに動くようになり、更に人間ではありえない運動能力で体を動かす事が出来るようになった。
訓練中に食事も出されたが、確かに現実と同じ味覚を感じ、オレはその事に驚いた。
やはり抵抗があったのは排便排尿だ、ここまでリアルにする理由に疑問を感じたが、何か意図があると思い深くは考えなかった。
夜になると眠気を感じ、仮想世界で寝ることもした。
そして2日目にして体のシンクロ値が一定数に達し、オレは次の段階へと進んだ。
※
次のフロアはゲーム内と同じ仮想世界だった。
そこでは被験者達が3名、ロビーでくつろいでいた。
ここからは4人でチームを組み、敵やボスを倒す訓練をするらしい。
オレを含め4人ともコミュニケーション力が向上していたため、あっという間に打ち解け、敵を倒す作戦も順調に決まった。
実際の戦闘になるとみんなが的確な行動をし、ミッションは簡単にクリアしていった。
そして、いくつものミッションをクリアするにつれ、更に体のシンクロ値は上がり、仮想世界の体が自分の体といっていいほどの感覚になっていった。
何より嬉しいのがミッションをこなす事で仲間の信頼関係が高まり、オレは初めて友情という物を知ったかもしれない。
このままこの仮想世界でこの仲間達といつまでも生活したいとも思えてきた。
数々のミッションをクリアしたオレ達は、最終フロアと呼ばれる場所に移動する事になった。
※
目の前には楕円形のモヤの掛かった壁が空中に浮いている。
それは仮想世界でポータルと呼ばれる、別のエリアへ繋がる瞬間移動装置だった。
オレ達は支持されたままポータルの中に入った。
入った瞬間、今までのポータルでは感じた事のない、気持ちの悪い感覚に襲われながら瞬間移動した。
辿り着いたのは、最初のフロアの仮想世界内の高難易度ミッションで行くことが多かった、全体的に黒い霧が立ち込める『黒霧』と呼ばれるエリアだった。
黒霧では視界が悪く、敵が突然現れる事は不思議ではなかった。
オレ達は慎重に黒霧の中を探索した。
今回のミッションは黒霧の調査が目的だ。
今まで強敵ばかりと戦っていた、オレ達からすれば簡単なミッションといえるだろう。
黒霧を探索していると、徐々にいつもと違う違和感を感じるようになった。
仮想世界があまりにも、生々しくリアルすぎるのだ。
確かに今までもリアルに感じていたが、この黒霧の中では本当の自分自身が異世界にいる感覚になる。
それは仲間も同じだったらしく、今回のミッションは今までとは何か違うと皆がそれぞれ思い始めた。
しかし、今までと同じように黒霧の中ではいつも通りの敵が現れ、オレはその敵を倒す。
たまに敵の青い返り血を浴びるのだが、それが生暖かく、ここが仮想世界とは思えなく感じる。
一定の距離を探索したオレ達に帰還命令がくだされた。
そのとき、背後から大きな影がオレに襲いかかって来た。
その敵は見たこともない敵だった。
オレは身を回転させ、回避したが左足が敵に引き裂かれ、膝から下を失っていた。
この施設に入って初めての人体の欠損にオレは動揺したが、痛みが感じないため、やはりリアルだとはいえ仮想世界なんだと思い冷静になった。
左足を失ったオレは体を低くし銃を構えた。
その間も仲間達は戦っていた。
しかし、敵は強敵らしく、仲間は首を飛ばされたり、胴体を引き裂かれ、最終的に生き残ったのはオレだけになった。
オレは仰向けになった状態で銃を構え、敵に目掛け発砲した。
弾丸は敵に当たっているのか、威力不足か敵は少し怯むだけで、戦意は衰えず敵の牙がオレの喉元に喰らいついた。
オレは自分が操ったキャラクターが初めて死んだ事に残念さを感じたが、またロビーに戻って仲間とこの強敵を倒す事の方に夢中になっていた。
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そして、オレの首は食いちぎられ、オレは本当に死んだ。
※ ※ ※ ※ ※
「この映像は実際に起っている事なのですか……」
そこに立っていたのは、就任したばかりの防衛大臣の川北昇(かわきたのぼる)だった。
その横では総理大臣の新山誠一(にいやませいいち)が口を開いた。
「実際の映像だよ。 我々、日本はこの未知の空間と、その中にいる生物を密かに調査している。 中国とロシアにはある程度の情報は漏れているが、アメリカとの協力の元、調査は進められているんだよ」
防衛省の川北大臣が膝からガクッとうなだれる。
「私は防衛大臣になったから、この真実を教えられたのですか?総理!!」
新山総理は川北大臣の顔を見つめ答えた。
「その通りだよ。 これは大臣や官僚のごく一部の人間しか知らない。 こんな事を公にできるはずがないだろう」
川北大臣は顔を上げ、新山総理を訪ねた。
「では、あの死んでしまった、特殊装甲を身に纏った人物達は自衛官達ですか?」
新山総理は苦笑いをしながら答えた。
「我が国の貴重な自衛官をこんな無謀な作戦に出すわけないだろう」
川北大臣は少し不思議そうに新山総理を訪ねた。
「では、あの者達は誰なのですか?」
新山総理はモニターを見つめ答えた。
「あの者達は我が国の害虫だよ。 税金も払わず、親のスネをかじり生きている虫けら以下の存在だ。 それを有効活用しているだけだ。 ここからは、施設長の砂山に詳しく聞きなさい」
すると白衣を着た男が一歩前に出てきた。
「私はこの施設の施設長をしています砂山圭吾(すなやまけいご)と申します。 では初めに、彼らは一般的に引きこもり又はニートとされる部類に入ります。 総理のおっしゃった通り、彼らは税金も払わず、親のスネをかじり生きている、まさに生きる価値のない存在です。 それを我らが有意義に活用したのが、今回の作戦になります」
そう言うと、砂山は川北大臣に歩み寄った。
「両親達は引きこもっていた子供が国の為に仕事をしていると思い、子供を誇りに思うでしょう。 引きこもった子供も、最初のヘッドギアを装着したときから、電磁波や薬の効果でセレトニンやテストステロンなどを大量に分泌させ、幸福とやる気をだし、進んで訓練し調査に挑んでいきます」
川北大臣は顔から徐々に汗を垂らし、砂山の言葉に聞き入った。
「次の段階では、体を改造しサイボーグ化した肉体にします。 体の内側だけを強化装置などで改造しているため、触覚や味覚などはちゃんとあります。 内臓部分はほぼそのままなので、食事もすれば排便もします」
砂山の異常な人体実験のような言葉に、川北大臣の汗は更に多く流れる。
「ただ、この段階では脳の命令と肉体のシンクロ値が低いため、脳とサイボーグ化した肉体を自分の体のように動かせる訓練をさせます。 ときどき、彼らが精神的な悩みを抱える時は薬物と優秀なカウンセラーでサポートもいたします。 何より重要なのは、彼らの痛覚を遮断する事です」
川北大臣はツバをゴクンと飲んだ。
「痛みは人間に恐怖を与えます。 この計画では恐怖を感じない勇猛な戦士が必要なのです。 そして準備が整った彼らを未知の空間へ連れて行くのです。 その世界は彼らが仮想世界と思っている場所と同じです。 なぜなら、この仮想世界は未知の空間を模して作っているからです。 そして、彼らは未知の空間の弱い生物が集まる場所で実践訓練をさせます」
砂山は雄弁に語り続ける。
「このとき重要なのは、彼らに重症させてはいけません。 なぜなら、それがキッカケでそこが現実とわかってしまっては困ります。仮に不安を感じた者は再教育、それがムリならば破棄する事になります」
川北大臣は砂山の言葉を聞くことが苦痛に感じてきた。
「そして、十分な実践訓練をした彼らを、まだ未開拓なエリアに向かわせる訳です。 そこで得た情報や新たな物質は我が国とアメリカでの共有財産となります。 また、情報は新たな仮想世界のアップデートとなり、後任者の糧になるわけです」
川北大臣が話に割って入って質問を投げかけた。
「し、しかしキミ、それでは無数の若者の命が……」
それを聞いた砂山は川北大臣を見つめる。
「だからこそ、引きこもりの彼らを使うのですよ。 何度も言いますが、彼らは我が国に何の利益ももたらしません。 しかし、この計画に参加することで、彼らは我が国の役が立てるのです。 しかも、死に際の彼の顔を見ましたか? 苦痛など感じていません。 逆に希望に満ちた顔で死んで逝ったのです」
砂山は誇らしげに次の言葉を放った。
「この計画に不幸になる人間など、ごく少数なんですよ」
川北大臣が食いつくように言葉をたした。
「では、残された両親はどうなるのかね!?。 もう、自分の子供に会えなくなるんだぞ!」
砂山はやれやれという表情で答えた。
「その点は問題ありません。 彼らのパーソナル的なものはAIに学習させてあります。 定期的にメッセージを国経由で通知すれば良いのですよ。 優秀なAIが両親が喜ぶメッセージを書いてくれます。 会いたいと言えば、AIが上手に会えない理由を作ってくれます。 仮に、仮にですよ。 両親が不審な行動に移ったら、両親も別の計画に参加してもらいますので大丈夫なんですよ」
川北大臣は唖然として問いかけた。
「他にも非人道的な事をやっているのか?」
砂山は冷たい眼差しで答えた。
「我が国のもう一つの課題は何だと思いますか? 少子高齢化ですよ。 この国は老人が多すぎる! それならな老人を減らせばいいだけです もちろん我が国のため有意義に使わせてもらいましがね」
川北大臣はうなだれ天を仰いだ。
そんな川北大臣の肩に新山総理は手を乗せ口を開く。
「もう、狂っていないと、この役目は務まらんよ」
<終>
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