連載小説「オボステルラ」 【第三章】14話「ふたたびの遭遇」(5)
<<第三章 14話(4) || 話一覧 || 第三章 14話(6)>>
第一章 1話から読む
14話 「ふたたびの遭遇」(5)
ナイフは再びかがんで、自分やリカルドがいた付近の地面も探る。さらに2本の吹き矢の針を見つけた。
「やっぱり…。一瞬、狙われる感じがあってゾワっとしたのよ……」
「え? どういうこと? これは何?」
ナイフの手にある針を触ろうとするリカルド。ナイフが慌てて、それを止める。
「リカルド、触らないで! 恐らく、毒が塗ってある」
「!」
針の匂いを嗅ぐと、僅かに刺激臭。
「……ズビダの毒ね。これで命を奪えるものではないけど、手足がマヒして数時間は動けなくなる、そこそこ強い毒よ」
「どういうこと? まさか、ルチカが?」
「いえ……」
ナイフは、先ほどのルチカの妙な動きを思い出していた。
「…私達3人とも、ルチカの攻撃のおかげでこの吹き矢をくらっていないのよ。吹き矢から、私達を守るような動きだった」
「……?」
エレーネは周辺を見回す。
「……もう1人以上、ここに敵が潜んでいて、私達は狙われていたと言うこと? その存在にルチカは気付いていた?」
リカルドは地面に座り込んだまま、腕組みをして考え込む。
「…もしかして…、あの卵男は、卵をチラ見せして『釣れた』人…、つまり卵を追い求めてくる人を、吹き矢で仕留めて殺して、排水溝に流しているんじゃないだろうか…」
「……そうね…。私も同じことを考えてた。理由はよく分からないけど、あいつ等は卵を狙う人間を躊躇なく『消す』奴等…、という可能性が、ありそうね…」
ナイフはそう分析して、はあ、とため息をつく。
「……もしそうだとすると、リカルド…。ちょっと、余りにも危なすぎない? そんなにヤバいものなの、卵?」
「いや、だから、こんなことは僕も初めてだってば。この10年近く、ふんわりとしたおとぎ話をのどかに追っているだけの状態だったんだから…」
「……いずれにしろ、今日追うのは危ない気がするわ。私も気配を探れていなかったから、吹き矢の主は相当の練れ者よ。『追い吹き矢』が来なくて、ラッキーだったわ。飛び道具はどうしても完全には防げないから」
「そうね…」
エレーネも頷く。
「それと、ナイフ。あの卵男の服装だけど、やっぱりコビナ衆国のもので間違いない気がするわ。鳥に乗っていた子のものと、柄も似ていた」
「…ということは、巨大鳥を追うと、もれなく吹き矢まで付いてくるってことにもなりかねない、というわけね」
ナイフは頭を抱えた。命の危険すらあるような旅は想定していなかったからだ。
「ルチカは、この危険を知っていたのかもね。いつも卵男を無視してこっちに攻撃してきたのも、もしかしたら卵男から私達を遠ざけるためだったのかしら…」
自分の店にいたルチカをどうしても悪人とは思いたくない、そんなナイフの希望的観測ではあるが…。リカルドはナイフのその言葉に微笑みで応えて立ち上がり、パンパンと土埃を落とした。
「…それにしても、気流、かあ……」
「……うっかり、こちらの情報も漏らしちゃったわね、博士」
エレーネがからかうような笑顔でリカルドに話しかける。情けなさそうな笑みを浮かべるリカルド。
「全くだよ。まあ、お互い様のようだったし、ルチカから新しい情報を得られたのはよかったね。にしても、あの子がどうして『気流』がヒントだと思ったのかが、気になるなあ」
「気流って、風のこと? 水脈と同じように、予測するしかないのではないの?」
ナイフは空を見上げた。今日は天気が良く雲一つないが、工場街からの煙のせいか、青空は少しかすみ白けている。
「それもそうなんだけど、気流は雲の上に『おそらくあるだろう』という程度の認識のものなんだよね。水脈は地形とか地質とか水の味とか、目に見えるヒントがあるからまだ分かるんだけど、雲の上は流石にね…。僕も専門外だもんなあ…」
空を見上げて考えるリカルド。エレーネもつられて空を見上げ、しばし3人は沈黙した。
↓次の話↓
#小説
#オリジナル小説
#ファンタジー小説
#いつか見た夢
#いつか夢見た物語
#連載小説
#長編小説
#長編連載小説
#オボステルラ
#イラスト
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?