連載小説「オボステルラ」 【第三章】14話「ふたたびの遭遇」(6)
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14話 「ふたたびの遭遇」(6)
「…ま、ひとまず、卵男を追わないのなら、今から鳥探しに行くのも大変だし、もう戻ろうか。ミリアの看病を手伝ってあげないとね。僕も湿布を貼りたいな」
ルチカに蹴られたアゴや脇腹をさするリカルド。ナイフは呆れ気味に声を掛ける。
「あなた、ルチカに蹴られすぎよ。ゴナンが回復したら、一緒に鍛錬に励んだらどうかしら? あなたには加減せず鍛えてあげるわよ」
「気が向いたらね。どうせ僕は、どれだけ蹴られたって大丈夫だから」
「…あなた自身は大丈夫でも、周りが危ないことだって、あり得るでしょ? いつでも私が横に居られるとは限らないし、現状、私はミリアじゃなくてあなたの護衛みたいになってしまっているのだけど…」
「……」
「……リカルド…。本当に、巨大鳥を追い続けて、大丈夫? ミリアもゴナンもいるのよ」
「……」
リカルドはそのナイフの問いには答えなかった。なぜこの1ヵ月でここまで、巨大鳥を巡る状況が激変しているのかはわからない。どうすべきなのか、判断のしようがなかった。
2人の会話の意味が全ては分かっていないエレーネは、少し首を傾げているようだ。リカルドは少し目線を落としつつ、ふうと口元に笑みを湛えて、拠点への帰路についた。
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「さて、ミリアはしっかり、うたた寝をしてくれているかな……」
「昨晩、あまり眠れていない様子だったから、きっと寝ているわよ」
リカルドの呟きに、エレーネが答えた。
「それにしても、あんなに回りくどい方法を取る必要があったのかしら」
「…エレーネ。君もよく知っていると思うけど、あの影武者殿の責任感の強さと強情さは筋金入りだよ。こちらが休めと言えば言うほど意地を張って、今日、頑張って動こうとしたに違いないよ」
「そうね……」
肩をすくめるエレーネ。そうこうしているうちに、リカルドの拠点の小屋へと戻ってきた。
ミリアが眠っている可能性を鑑みて、ノックせず静かに入ろうと、そっと鍵を挿して回す。が…。
「……あれ? 鍵が開いてる」
「あら、ミリア、内鍵を閉め忘れたのかしら?」
「ちゃんと念を押しておくか、僕が外から鍵を閉めるべきだったな…」
これまでの人生で『自分で鍵を閉める』という習慣がなかったミリア。気をつけてはいるようだが、まだまだ忘れがちのようだ。
「ゴナンもよく、鍵のことを忘れるんだよ。北の村も鍵なんてない環境だったから」
そう笑っていいながら、リカルドは静かにドアノブを回して、そっと家の中に入る。
---が…。
「……これは……!?」
リカルドは、家の中の様子の異変に、思わず声を挙げた。
「どうしたの?」
リカルドの尋常ではない様子に、ナイフとエレーネも急いで中に入り、そして言葉を失う。
リビングのテーブルや椅子はなぎ倒され、中には壊れているものもあり、調度品も散らかっている。そして、床にはゴナンのナイフと剣が、どちらも抜き身のまま転がっていた。剣の刃には、血もついている…。荒らされた……、いや、明らかに、争った跡だ。
「……! ミリア! ゴナン!」
リカルドは寝室へと急ぐが、そこにも人は居ない。布団やシーツが散らばり、枕の羽毛も飛び散っていた。
「ミリア! ゴナン!」
ナイフも、どこかに無事隠れていないかと呼びかけながら、シャワー室やトイレ、ガラクタ部屋まで探るが、いない。エレーネは拠点の外周を見てみる。やはり、姿はない。
「……」
3人は、真っ青になった。リカルドはかがんで、床に落ちてあるゴナンの剣についている血をじっと見る。これは、誰の血だろうか…。
「…攫われた…のか? 一体何が、あったんだ……?」
↓次の話↓
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