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連載小説「オボステルラ」【幕章】番外編2「ゴナン、髪を切る」(2)


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第三章の登場人物



番外編2 「ゴナン、髪を切る」(2)



 ------そして数十分後。

「ゴナン、僕のカットも終わったよ」

「……あ…」

 すっかり椅子で熟睡していたゴナンは、リカルドに起こされてハッと覚醒する。

「ふふ、そんなに心地よかった? まあ、気持ちはわかるけどね」

そう微笑むリカルド。鏡を見て、「やっぱり腕前が違うね」と自身のカットに満足げだが、ゴナンの目にはどこがどう変わったのかよく分からない。

「さて、ゴナンくん。カットのコツを教えてあげようか」

床屋のその申し出に、ゴナンはすっと立ち上がり、目を輝かせる。

「よろしくお願いします……」

「ゴナン、僕はちょっとタイキさんの工房に寄ってきたいから、その間教えてもらっていなよ。僕が戻る前に終わったら、先に拠点に戻ってて。合鍵は持ってるね」

「うん」

リカルドはそう言って床屋に支払いをし、礼を述べて店を後にした。ゴナンは無表情ではあるが、瞳にワクワクした輝きが見えた。

(新しいことを知ったり、学んだりするのが好きなんだろうなあ…)

 おそらく故郷の村では、ただ、生きるために生きていたゴナン。あの溢れんばかりの好奇心も知識欲も、生きるか死ぬかの厳しい環境においては逆に自分を苦しめかねない、不要な才能だ。きっと知らず押さえ込んでいたのだろう。

(僕が生きている間に、なるべくたくさんのことをゴナンに経験させてあげたいな。ナイフちゃんにも引き継いで、大人になった彼が自分だけの道を見つけられるように…)

 ゴナンはどんな仕事を選ぶんだろうなあ、とあれこれ夢想しながら、リカルドはタイキの工房へと足取り軽く向かった。

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 ミリアとエレーネ、ナイフ、そしてディルムッドの4人が泊まる宿屋。

夕食は宿の食堂で済ませそれぞれの部屋に戻っているが、ナイフは一人、食堂に残ってデザートに舌鼓を打っていた。この食堂のフランケーキが絶品なのだ。

「ねえ、ご主人。このフランケーキの作り方、そろそろ教えてくれないかしら?」

「うーん…。しかし、これはうちの自慢のレシピなんだよ。そう簡単には教えられないな…」

「隠し味がある気がするんだけど、どうしても分からないのよ。ね、お願い! もう1ヵ月近くも連泊してるじゃない」

「良いお客さんなのはありがたいけど、それとこれとはなあ…」

やはり、ここのケーキは人気なのだろう。なかなか手強い。ナイフがどう説得しようかと考えていると…。

「ナイフちゃん!」

と宿に飛び込んできた人物がいた。リカルドである。どうにも尋常ではない様子だ。彼がこういう表情をするときは、大抵はゴナンがらみのことだと相場が決まっている。




「この大きなお坊ちゃまは、どうしていつもケーキをゆっくり食べさせてくれないのかしら」

「ナイフちゃん、大変なんだよ!」

「どうしたの? まさか、またゴナンが攫われたわけではないわよね?」

「いや、攫われた訳じゃないんだけど、でも、でも、ゴナンが、帰って来ないんだよ…」

「はあ?」

リカルドは泣きそうな表情になっている。今日は休養日に当てるとの話だったのだが、1日で一体何があったのか、まったく想像が付かない。

「どういうこと? 行方が分からないの?」

「いや、居る場所は分かってるんだけど…」

「……? 何か危ない目に遭っているの?」

「いや、そういうわけでもないんだけど…」

リカルドはナイフに頼り切った視線を送ってくる。彼女に何かの問題を解決してほしい様子だ。ナイフははあ、とため息をついて立ち上がった。

「…状況はよく分からないけど、ともかく、ゴナンが居る場所に向かうわよ?」

「うん、頼むよ、ナイフちゃん。僕にはどうしようもなくて……」

「……?」

ナイフは首を傾げながらも、ケーキの残りをパクリと急いで食べてしまって、席を立った。もっとじっくり味わいたかったが、仕方が無い。

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「…そう、直毛の子だったら、そうやって内側を少し短く切れば、髪が自然と内巻になって寝癖のはねもできにくくなるんだ。ブロッキングが大事だよ」

「…うん、上手にできるようになってきた気がする」

「うまいもんだな、教えがいがあるぜ」

すっかり日も暮れ、もうとっくに営業時間が終わっている床屋の店内に、ゴナンの姿はあった。見ると、床屋と一緒に髪のカットの練習をしている。

「……え? 何? これ、どういう状況?」

「ミリアの寝癖ができにくいようなカットのコツを、ここの床屋さんが教えてくれるって言うから、お願いしたんだけど……」

「……?」

それで、リカルドのこの泣きそうな表情の意味が分からない。ナイフはそのまま、お店に入る。

「…ゴナン、こんな遅くまでどうしたの? そろそろ拠点に戻って休んだ方がいいんじゃない?」

「ナイフちゃん。でも、俺、まだまだだから……」

「……え?」

ゴナンはキラリと瞳を輝かせてナイフにそう伝えると、すぐにまたカットの練習を始めた。みれば、練習用のマネキンがもう何体も並んでいる。床屋もかなり熱くなっているようだ。

「そうだよ、ゴナンくん。上手いぞ。その調子で修業していけば、カリスマ床屋も夢じゃないぜ」

「…うん……!」

ナイフは首を傾げて、またゴナンに尋ねる。

「ゴナン、あまり根を詰めすぎるとよくないのではない? もうそこらへんで……」

「……ナイフちゃん。でも、俺、いろんな技を教えてもらったんだ。本当は弟子にしか教えないけど、特別なんだって。恩返しするために、俺はカリスマ床屋になる」

「……ん?」




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