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連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】  4話「遺跡のリカルド」(3)


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第四章の登場人物



4話 「遺跡のリカルド」(3)



 さて、翌朝。

朝食を済ませ、いよいよ遺跡へ出発する一行。目的地は馬で1時間のところにあるという。幌馬車・疾風はやてのシーランス号(仮名)の御者席にリカルドが座り、馬車内にはゴナンとミリア、エレーネ、そしてジョージ。ナイフとディルムッドは騎馬で併走しながら、遺跡へと出発した。ゴナンは、念のために飲んでおいた薬が効いているのか、座席にもなる寝台に座りながらウトウトと眠りについている。相変わらず揺れが少なく快適な幌馬車だ。

「ミリアさん、夜更かしはどうだったかい?」

その隣で、ジョージが楽しそうにミリアに尋ねた。しかし、ミリアは表情を曇らせ、エレーネがミリアの隣でクスッと笑う。

「?」

「わたくし頑張ったのよ、先生。でも、いつも寝る時間になると、どうしても眠たくなってしまって…。もっと先まで読み進めたかったのに、いつのまにか夢の中だったわ」

客室のデスクに突っ伏して寝てしまい、エレーネによってベッドに運ばれていたミリア。

「そうかい。規則正しい生活が身についているんだね。健やかでいいことじゃないか」

ミリアは瞳に強い光を宿し、きっとジョージを見た。

「でも、わたくし、もっと頑張るわ。今日こそ読書で夜更かししてみせるわね」

「ふふっ。健闘を祈るよ。…ん? おい、氷っ子、道を間違っているぞ」

と、ジョージが御者席のリカルドに声をかけた。リカルドが慌てて手綱を操り馬を止める。ガタンと揺れる馬車内の一行。ゴナンもハッと目を覚ます。

「あれ? すみません」

「しっかりしてくれよ。そんなに難しい道ではないだろう?」

「ええ、そうですよね…。おかしいな…」

リカルドは、自身が道を失ったことを不思議そうにしている。ジョージはふう、と息をついた。

「私が御者をやろう。どうにもお前さんは、今日は方向音痴のようだ。人も乗せているのに、危なっかしい」

「…すみません。お願いします…」

御者を交代し、首を傾げながら荷台の方へとやってきてゴナンの隣に座るリカルド。ゴナンは心配そうに見上げる。

「リカルド、大丈夫? もしかして、あの…」

「ん? ああ、違うよ。大丈夫。ちょっと疲れが出たのかなあ」

発作の予兆ではと心配しているゴナンに、ニッコリと微笑むリカルド。

「ほら、ゴナン、眠そうだよ。到着するまで寝ていなよ。横になる?」

「いや、大丈夫」

「じゃあ、僕に寄りかかっていいからね」

そう優しくゴナンの世話を焼く様子は、普段通りのリカルドだ。エレーネもまた、そんなリカルドを不思議そうに見ていた。

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 農地エリアをひととき進み、森を抜けると、緩やかな丘の形を成している草原が見えてきた。所々に木々も生え、野生の生き物の気配も多い。

「まあ、とても美しい景色ね」

ミリアは馬車の窓から景色にほうっと見惚れる。

「この地域は土も水も豊かだから、緑も豊富で自然の景色も美しいね。それにこの辺りは開墾すればするほど、さほど苦労せずに農作物が育つんだよ。ウキの街もそれで栄えてきているけど、もっと農業で儲かってもいい気もするけどね」

リカルドのその説明に、ミリアは思案する。

「…そうね…。でも、きっと商売として拡大するには、立地があまりよくないのね、国の隅っこだから。新鮮さが魅力の食物は新鮮なうちに運ばないと意味がないものね。帝国の国境は近いけれど、食材の帝国への輸出はあまり推奨はしていないし、間に山岳地帯があるから…。都市部への道をもっと整えるといいのかしら。でもどうしても距離が…。ああ、でも穀物なら…」

「…」

 やはり、ロマンティックな恋愛小説にはしゃいでいるだけの少女ではない。国の産業へとすぐに考えが行き着くあたりが、流石である。

「見えてきたぞ、あそこが例の遺跡だ」

と、御者席からジョージが声をかけて来た。結局リカルドの膝枕でぐっすりと寝ていたゴナンも、はっと目を覚ます。見ると、草に埋もれるように石造りの何かがある場所が見えて来た。

「この遺跡は、地下に潜るように作られている建物だ。何の用途だったのかはよく分かっていないが…」

馬車を降りながらジョージが説明をしてくれる。そして、馬から降りてきたディルムッドに依頼した。

「力持ちのディルさん。このデカい石2つを除けてくれるか?」

「ああ、お安いご用だ」

ディルムッドは雲でも持ち上げるかのようにひょい、と大石を除ける。余りにも軽々と持つので、ゴナンも試しにその石を持ち上げようとしたが、ピクリとも動かなかった。

「ならず者がこの遺跡を根城に使っていたことがあってね。普段はこうやって入口を隠しているんだ。さあ、中は真っ暗だから、皆、自分の発光石のライトを点けてくれ。足元に気をつけて」

そう言ってライトを手に遺跡へと入るジョージ。石段を下っていく造りになっているようだ。皆も続いて行くが…。

「ほら、ゴナン。あっちに直線距離で馬で2日ほどの距離に、帝国との国境があるんだよ。意外に近いけど、間にとても険しい山があるから、戦乱中もこの地域が攻め込まれることはなかったんだ」

「へえ…」

リカルドは、遠くの山の方を指しながらゴナンに話しかけている。さらに、近くの木々を指さす。

「あ、あの木はボーカイの木だ。ほら、ゴナンのベストを染めている葉が生える木だよ。どんな木か見に行ってみる? あの木の下でお昼ご飯を食べると、木陰が気持ちよさそうだね」

「う…うん…。あの、リカルド…?」

一向に遺跡に入ろうとしないリカルドを、流石にゴナンも不審に感じている。そしてナイフに目線で助けを求めた。ふう、とため息をつき、エメラルド色の瞳をリカルドに合わせるナイフ。




「…リカルド…。呑気にピクニックをしに来たわけじゃないのよ。あなたが壁画を見て分析してくれないと、話にならないんだけど」

「…壁画…? あ、ああ…」

「……?」

やはり様子がおかしい。ナイフはゴナンに耳打ちする。

「ゴナン、とにかくリカルドを中に入れたいの。あなたが引っ張っていけば大人しく言うことを聞くと思うから、お願いしていい?」

「…うん」

ゴナンは、「リカルド、行こうよ」と腕を取って、遺跡の入口へと引っ張る。最悪、中へ押し込めるようにとナイフがリカルドの背後に回るが、リカルドは特に抵抗することなく、ゴナンに手を引かれるまま遺跡へと降りていった。



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