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関西魂

その日も、娘と公園のブランコで遊んでいた。
早めに保育園へお迎えに行けると決まって公園へ立ち寄り、ブランコで遊ぶ。
ブランコは、娘が一番大好きな遊具だ。
私もたまに一緒にやってみるが、三半規管が衰えたのか、すぐに気持ち悪くなってしまう。子供の頃は、娘と同じくブランコが一番好きだったのに、歳には逆らえない。そんなわけで私は専ら、娘の背中を押してやるのが役目だ。

娘が乗ったブランコを高く持ち上げて手を離すと、ブランコは大きな弧を描いた。この大きな揺れが、娘のお気に入りだ。風を受けておでこ全開になりながら、声を出して笑った。
娘は、いつものように目を閉じた。
お得意の『寝てるフリ』だ。


「ママ見て!せりちゃん目を瞑ってるよ!」
「えぇーっ!?!ブランコしながら寝ちゃってる子がいるよ〜っ!?」
「ムフフ。グ〜グ〜。」


娘は満足そうに笑い、イビキのマネをした。
お決まりのやりとりである。
いつもならこれを何度も繰り返すのだが、今日は、その先へ進んだ。


「ママ、ここどこ?せりちゃん寝ちゃってるから、わからない。」

ブランコに揺られ、娘は目を閉じたまま聞いた。

「ここは、おしりの国です。今せりちゃんは、おしりの中で遊んでいます。」
「キャハハハハハ〜!」

娘は、大笑いした。

こんなことの一体何が面白いのか。
大人にはサッパリわからないが、
『うんこ』
『ちんちん』
『おなら』
『おしっこ』
『おしり』
が大好物の三歳児だ。
『おしりの国』というだけで、ヨダレを垂らしながら、腹がよじれるほど笑っていた。
笑いがおさまると娘は目を開け、辺りをキョロキョロしながら言った。


「わあホントだ!おしりの国だ!おしりの国だ!・・・って、公園じゃん!!!」


うおぉぉぉぉっ!
せり、人生初のノリツッコミ!
私は思わず駆け寄った。


「せりちゃん!アンタそれ、『ノリツッコミ』って言うんやで!関西の人でも、なかなか上手にできひん高度な技術やねんで!」

娘の頭をおもいきり撫で撫でしてやった。
娘は褒められて嬉しそうだ。

「ノリツッコミって、なぁに?」
「ノリツッコミっていうのはなぁ、今お母さんが『おしりの国です』て言うたことに対して、せりちゃんは『違うよぉ〜』って直ぐに返さんかったやろ?」
「うん。」

「その代わりに、お母さんと一緒になって、『ホントだぁ。おしりの国だぁ。』って乗っかったやろ?まずはこれを、『ノリ』って言うねん。」
「うん。」

「ほんでから、その後に自分で『公園じゃん!』って言うたやん?これが『ツッコミ』や!」
「うん。」

「ボケたことに関してツッコむくらいなら、まぁ誰でもできるねん。でもな、一旦相手にノってからツッコミを入れるのは、なかなか難しいんや。」
「せりちゃんは、それができた?」
「そうや!凄いことなんや!」

娘の顔から笑顔が溢れた。

「おしりの国だ!おしりの国だ!公園じゃん!」
「そうや!素晴らしい!でもな、『公園じゃん』の前に、『って、』を入れると、もっと完璧や!『って、公園じゃん!』てな。」

「おしりの国だ!おしりの国だ!って、公園じゃん!」
「そうやーっ!バッチリや!アンタは天才や!」


私は娘を思いきり抱きしめ、頭を撫でた。
娘は褒められたことが嬉しすぎて、体をくねらせながらモジモジした。


横浜の公園で起きた、微笑ましい親子のやりとり。
この間、横浜市民は誰も私たちに近寄ろうとしなかったのは、気のせいかしら?


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