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お稲荷さんの不思議なご縁

大学四年の夏、私は親の反対を押し切り、モデルの道に進むことを決めた。高校生からアルバイト感覚で始めたモデルだが、本気でやったら
自分がどこまでできるのか、挑戦してみたかったのだ。


ある日、私は売れっ子モデルの友人と会う約束をしていた。
仮に名前をあやちゃんとしよう。
あやちゃんはスラリと脚が長く、脚モデルもするほどの美脚美人である。


約束の朝、あやちゃんから電話がかかってきた。
「京都のお稲荷さんへ行きたいから、時間をずらしてほしい。」とのこと。
京都のお稲荷さん?私の家から近いではないか。
聞けば、滋賀県から毎月欠かさず参拝しているとか。
私なんて初詣しかお稲荷さんに行かないのに、すごい!
あやちゃんに憧れていた私は感動し、「見習わなきゃ!」と、
ついていくことにした。


あやちゃんは御供えを買いに店へ入った。
手にしたのは、一升瓶の日本酒と人参が3本。
「なんで人参?」
「お稲荷さんにはお馬さんの神様が三頭いるから、それぞれにお供え。」
「へぇ〜。お馬さんの神様?それは知らんかった。」
あやちゃんは大事そうに日本酒と人参を持ってお稲荷さんへ行き、
神様に手を合わせていた。


京都の伏見稲荷大社と言えば、日本で最も有名な商売繁昌の神様である。
そっか!あやちゃんは、スタイルがイイだけではなく、
商売繁昌の神様に手を合わせているから、沢山仕事が入るんだ。
私も、あやちゃんのような売れっ子モデルになりたい!
単細胞な私は、あやちゃんを真似て毎月お参りに行くようになった。


最初の頃は一升瓶を買うお金がないので、小さなお酒と人参3本。
あやちゃんの見様見真似で、日本酒と人参をお供えした。
どうか、沢山仕事が入ってきますように!


そして大学を卒業。
すぐに決まったレギュラーは、なんと競馬の仕事だった。
お馬さんの神様のおかげだ!毎月人参を御供えしていたからだ!
私は大喜びで、あやちゃんに電話をした。


「あやちゃん、ありがとう!おかげで競馬のレギュラーが決まったよ!」
「奈々ちゃん、おめでとう!でもね、実は人参を御供えしていたのは、
自分のためじゃないんだ。私の彼が、競馬関係者なの。
たまたまお稲荷さんへ行った時にお馬さんの神様を見つけてね、
それで毎月来るようになったんだ。」


えぇーっ!そうだったの!?
何も知らない私は、
『お稲荷さんのお馬さんに人参を御供えしたら、仕事が増える!』
と思い込んでお参りしていたではないか。


勘違いから始まった人参の御供え。
あれから22年の月日が流れた。
私は今も、毎月の参拝を欠かすことはない。
そして、ありがたいことに今も競馬の仕事をさせて頂いている。


あやちゃんはと言えば、、、。
モデルを引退し、その彼とめでたく結婚。
可愛い子供にも恵まれ、幸せな家庭を築いている。


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