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占いの館へようこそ

私は占いが好きだ。
フラれては占いへ行き、
仕事で悩んでは占いへ行き、
一人暮らしするときも占いへ行って、話を聞いてもらった。

占いが好きだからといって、行きつけの店があるわけではない。
タロットや手相、霊能などなど、『当たる!』と聞けば足を運んだ。

あるとき、友人にタロット占いをしてもらっていた。占ってもらった後、タロットカードに関する話や占い法を聞いて、にわかに興味を持った。
タロットカードに描かれている絵それぞれに意味がある。とはいえ同じカードが出ても、周りのカードによってどう受け取るか解釈が変わってくる。
なかなか面白そうではないか。
そうだ!私もタロットを勉強してみよう!
そもそも占いが大好き。自分で自分を占えれば、それが一番良いに決まってる!
私はタロットについて調べることにした。

徹底的にやらないと気が済まない私は、片っ端からタロット本を熟読。
それらの情報に寄ると、タロットカードは『自分とフィーリングが合うもの』を選ぶことが最も大切らしい。
私はインターネットで調べた恵比寿の専門店へ行き、タロットコーナーで最も『ピピピ』と感じたものを選んで帰った。

さて、タロットカードが手に入ったからといって、いきなり占えるわけではない。
タロットはそんな簡単なものではないのだ。舐めてもらっちゃあ、困りますよ。
まずは、タロットカード一枚一枚の意味を理解するところから始まる。
私は目が充血するほど毎日テキスト本を熟読し、タロットカードに穴が開くほどにらめっこした。

事前準備は、それだけではない。
タロットカードと心を通わせ、仲良くなることが大切なのだ。
私は毎日タロットカードに「よろしくね〜。仲良くしてね〜。」と語りかけカードを愛撫。さらに枕元に置いて、タロットカードと一緒に寝ることにした。

四十路手前の独身女が、夜な夜なタロットカードに語りかけ、一緒に寝ている様子を想像してほしい。
妖怪、タロットばばぁ。
夜な夜な「占ったろかぁ〜。」と枕元に出ては、タロットカードをめくり、頼んでもいない占いを押し付けてくる妖怪である。

しかしこの時の私は本気だった。
毎日タロットカードを愛で、枕を共にしたおかげで、私はタロットカードとすっかり仲良くなった気がした。

よし!いざ!
まずは自分の明日を占ってみた。
明日は、対人関係に気をつけた方が良いことがわかった。
なるほど。明日はいつも以上に言葉に気をつけよう!
次の日も、占ってみた。
明日は、怪我に気をつけた方が良いそうだ。
よっしゃ。道路を渡る時は、いつも以上に気をつけよう!

少しずつタロット占いに慣れてきたので、家族や友人を占い始めた。
それにしても、女性は占いが大好きだ。
みんな喜んで占わせてくれた。

私がタロットを始めたことは、友人から知人に広がり、知人のまた知人に広がり、よく知らない人からもお願いされるようになった。
言っておくが、もちろん無料である。
占いの内容は、様々だった。
「彼との相性は、どうですか?」
「全体運を見てください。」
このようなライトなものなら、素人の私でも遊び感覚でタロット占いができる。

ところがだ。
次第に重い相談まで舞い込んでくるようになった。

《相談1.》
私は、離婚をすべきでしょうか?

《私の心の声》
いやいや、それは人生の大選択やで。
占いで決めるもんとちゃうやーん!
離婚した後、親権どうするとか、母子家庭で食べていけるかとか、もっとちゃんと考えてー!

《相談2.》
子宮筋腫があるのですが、取った方がいいですか?

《私の心の声》
それは、婦人科で聞く話やーん!
薬を飲むのか、筋腫を取るかは、
占いじゃなくて、お医者さんに聞いてー!
とにかく早よ病院行きなはれー!

《相談3.》
二社から内定をもらったのですが、どちらにいけば良いですか?

《私の心の声》
あかんあかん。そんな大事なことは、占いに頼らんと自分で決めなはれ。自分の人生やろ?自分がどっちの会社に行って、どんな仕事をしていきたいか、自分でしっかり考え!

とまぁ、初対面の私に対して
秘め事や重大事項まで何もかも話し、その決断を迫ってくる。

いやいや、ちょっと待ってくれ。
私はただの『趣味でタロットをやっている人』だからさ。そんな大きな物を背負わされても困るのだよ。
人は、『占い』というだけで、初対面では絶対に話さないようなことを、これほどにも話してしまうのか。
人間とは、何と単純な生き物よ。

いや。。。私とて同じだ。
お恥ずかしながら、私もこれまで幾度となく号泣しながら占い師に悩みを聞いてもらっていた。。。
おそるべし、占いのマジック。

よーし、やめた!
私には、無理だ。
初対面の人の重大な悩みなど、背負いきれない。

こうして六車奈々のタロット屋は、あっという間に幕を下ろしたのである。と同時に、占いで何もかも秘密を話すことも卒業した。

占いは、楽しい。
でも、依存しない程度に楽しみたいものである。


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