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連作ミステリ長編☆第1話「フェイドアウトのそのあとに」Vol.1

#創作大賞2024 #ミステリー小説部門


~私立探偵コジマ&検察官マイコのシリーズ~
連作ミステリ長編☆「MUSEが微笑む時」
第1話「フェイドアウトのそのあとに」

○ ーーーーーーーー あらすじ ーーーーーーーーーーーーーーーー ○
  私立探偵小嶋雅哉は法律事務所書記担当を退職し、京都に戻り元裁判所所長の叔父政之との共同経営が軌道に乗り始めた頃、検察官中原麻衣子と出逢った。仲が定着し始めた晩秋、退所前の元恋人から極秘の依頼を受けた。
 組織的な音楽LIVEチケットの転売に、警察庁のトップが絡む疑惑を調べて欲しいとの依頼。他方で、巷の個人ネット販売による転売送検で停滞なく、麻衣子も忙殺されていた。警視庁と警察庁の相殺監視で、犯罪を未遂に留める動向の互いのトップに犯罪疑惑が被せられている。
 音楽を創る側、消費する側、違法を取り締まる側。各々の生活も絡み、最後に音楽の女神MUSEが微笑んだのは、誰の為なのか。。。


Vol.1‐①

 先程から、小嶋政也は桜の木の枝を見上げている。風に揺れる落葉した小枝には花びらなど無く、ただただずっと眺めている。
 上賀茂にかかる西賀茂橋の高架下では、白鷺が寒そうに羽をたたみ、おしどり夫婦の鴨がペア4組で優雅に泳いでいる。

 この夏は、子供連れの若い家族や学生カップルが、その橋の下で水遊びや日光浴や魚捕りを、思い思いに楽しんでいた。
 その前の春は、例年と同じく千年桜の吹雪が舞っていた。
 さくらんぼさえ、見届けられなかった。

 そして、もうすぐ冬が来る。

 トレンチ・コートに中打ち帽なんて、今時イングランド紳士でも身にまとわない。
 小嶋は、フィリップ・マーロウよろしく気取っていて、そんなに寒くもない内からトレンチ・コートを羽織る。そして、去って行った恋人でも想い出しているのか、せつなそうな表情はボギーのような渋味はまだ少なく、どこか甘いマスクなのを際立たせている。

「なぁにを、せつない哀愁漂わせてはるん⁉」
 
1メートル近いすぐ側で、今の恋人である中原麻衣子が、見上げて立っていることさえ気づかなかった。

 何も文句はない。よく働き、よく食べ、よく笑う、年下の恋人。だけど、検察官の貌は、小嶋さえ見たくはないような凄味が加わったのだそうだ。
 何かあったわけでもない。ただ、思い出しただけだ。昔の恋人のこと。

 その恋人と繋がるために、妻と別れた。だけど、両方を失った。娘二人の監護権と仕事だけが残っていた。親権は確保できなかった。料理ぐらいは出来るのだけど、思春期の女の子二人育てるのには、荷が勝ちすぎている。

 今も独り暮らし。また誰かと暮らすより、この気楽さと好き勝手に彼女を作れる自由を、選んだ。そして、麻衣子と出逢った。

 何が悲しいのか分からない。ただ、ものかなしい。けど温かい気持ち。
 そして、その元恋人とは、永遠の別れなどでは、ない。少なくとも、あの料亭に行けば、女将として生きている。

  どうしようもないオチ無し噺のように冴えない俺は、その昔の恋人からの連絡を受けた。そのうえ、仕事の依頼を受けてしまったのだ。
 相変わらず、カッコ悪い俺。でも、今眼の前に居る麻衣子の大笑いの笑顔が在れば、俺は生きて行けるのだ。

 と、小嶋雅哉はふと、ほくそ笑んだ。
 小嶋は、目尻を下げたしわくちゃな笑顔で、今の彼女麻衣子に向けて声をかける。
「麻衣子。パスタ食べに行こうよ」
「はぁ~い。あたし、ニョッキがいい!」
「ニョッキ❓❓」
「あのこんな、シェルのクリンとして丸いけど、平たいヤツ。ちいさなパスタ」
「マカロニみたいなヤツ❓」
「そうそう。マカロニみたいにチクワやなくってぇ、、、スパゲティみたいにクルクル巻き巻きするのとも、ちゃうヤツね!!」
「クルクル巻き巻き❓❓」
「あっ!ニョッキって、、、にょっき⁉」
 
ゼスチャーで、芽を出して伸びて行く竹の子のマネ。
「それ、想像したろ❓」
「Por que❓」
「行く que❓」 
「行こ que!」
「おいしいぞぉ」

 いつもの二人の言葉遊び。麻衣子はウンウン頷きながら手をつないで、川べりの散歩道を二人で歩く。彼女は、腕を組むより手をつないで居たがる。    腰に手をまわすよりも俺達らしいが、はてさて誰だったかも同じだったかな、、、誰だったか❓

 少なくとも、〈料亭「たちき」の女将さん〉ではないのだった。
 そうなのだ。神山真澄は腰に手をまわして歩きたくなる女性であるが、どうだったか思い出せない。多分臨機応変なのだ。

 想い出せないことが悔しいのだが、少なくともポルトガル語はすんなり出て来ない。おしとやかな純和風に見えるのだが、限定解除のバイクの免許を持っていて、昔はナナハンで二人旅ツーリングに出かけたものだった。ああ見えてスキーのインストラクター時代があったのだ。

 でも、まあ、いいや。

 そうなのだ。眼の前の麻衣子は京都外大でポルトガル語を専攻していた。南米からの帰国子女だから京男の言葉尻の「け?」をおもしろがってくれたのが付き合い始めるキッカケだったのだが、ああ見えて自力で独学で法律の勉強をして、検察官になった〈バリキャリ〉である。

 俺の前では、こんなだけど。いつものように、こんなだけど。

 待て待て。俺には〈ああ見えて〉というギャップがないぞ。。。

 どんどん立派になっていく元カノ達を眺めては、その姿に劣情を感じているだけだ。心の中とは裏腹に、俺は包容力に溢れたスマイルで、これからパスタレストランへエスコートして行くわけだ。

 はしゃいでいながら、麻衣子は小嶋の浮かない笑顔に気づいていないわけではなかった。最近の「心、ここに在らず」な小嶋には、転売犯罪の初期捜査的な下請け業務をなんて伝えるか、とても難しい。
 難しいからこそ、浮かない顔の理由や根本原因にまで辿り着けないでいたのだった。


Vol.1-②


 麻衣子を連れだって小嶋が案内したパスタレストランは、「緋色の洞窟」という名前のとおり、地下に潜った洞窟だ。
 洞穴を掘ってホール・スペースを造り、間接照明で適度に暗赤色の灯りが照らされている。途中、席を立つ時など、足元がよく確かめられず他人の顏も判別つきにくいので、予約席を間違え易い。

 下げ膳の白服ウエイターが、
「小嶋様ですね?お待たせ致しました」
と、テーブルへ案内する。
 コンセプト・カフェ・バーの雰囲気だが、食事がメインなので女子会にも人気があるそうだ。

 小嶋は、事前に調べて予約していたのではない。
 クレーマー・トラブルの件で、店長を助けてやったことがあるのだ。あの時は、示談金も少額で済んで良かった。要するに、店長に1人の女性客が岡惚れしていたのだ。

 この分野を得意とする菅原道兼が担当し、1件落着すると、今度は探偵の菅原が追い掛け回され、今は俺達の事務所にその女子は居座っている。つまり、このクレーマーは現在『プライベートEYE小嶋』の経理事務員なのだ。
 最近になってこの経理事務員も、菅原は〈壊し屋〉〈不倫調査〉が専門であることを理解し始めている。

 だから、、、ではないが、俺は麻衣子とこのレストランをリピで利用させてもらっている。


 向かい合って、ニョッキのボルチーニ・クリームグラタンを、ほおばる麻衣子。
 大きな先割れスプーンで口に運ぶ麻衣子の動作が、突然ピタッと止まった。俺を上目遣いで見つめるのか、と視線をキッチリ合わせようと試みる。

 麻衣子の視線は俺をスルーして、そのわずかに右横の耳元を通り抜け、背中の後ろに陣取った賑やかな声音の集団に向けられていた。

 振り向こうとした瞬間、
「振り向かないで。会話を聴き取ってみて」
と、麻衣子が急に険しい低い声で、ピシャッと言い放った。

 すげえ、、、さすが検察官。。。 
俺は心で呟いた。私立探偵の俺より鼻が利く。

 彼らの集団は、「男女5人秋物語」のアオハルしているようではある。がその実、犯罪に繋がる噂を語り合っていた。


 店内が暗赤色の間接照明でほの暗く、はっきりとは確かめられないが、多分、社会人に成って10年は経っていない集まり。麻衣子との二人掛け席に着く前にチラッと視た限りでは、会社勤めらしいスーツ男子とオフィス・カジュアル女子。

 麻衣子が顔を近づけて潜めた声で、俺に訊く。
「男3人と女2人の会社員みたいだけど、、、カップルらしいの、分かる?」
「聞き耳ズキンだけで、か?」

 麻衣子が頷いたので、俺は耳を澄ましながら、カッペリーニの温スープを静かにすする。こういう「聴き取り」は、職業柄〈スピードラーニング〉並みに読解が速い得意分野だ。全く無関係な席のカップルだけど、傍立てた「聴き耳ズキン」能力だけ5人席に集中させる。

 どうやら、男3名のうち2名は兄弟のようだ。それぞれの彼女と、兄弟どちらかの部署の後輩男子1名。

 大豆の皮みたいなニョッキを1つずつ1つずつゆっくり噛みながら、上目遣いで俺を見つめる麻衣子は、久し振りにエロティシズムあふれているのだが。。。麻衣子は既に、後ろのテーブルの5人の会話に集中している。

「その話、本当なのか❓❓」
 
一番年上らしき30歳前後くらいの男の声が問う。
「はい。こないだ、チケット・キャンプのHP観てたら、売りに出てたんですよ、、、トライヴのライヴチケット。3倍ですよ❓ありえない!!」
「コウスケは、転売ものをよく買うのか?」
「いえ。僕は、ライヴハウス辺りで地道にやってるの、見つけて来るのが好きで。当日でも手に入ることがあるんです。けど、研究所の同僚が、ジェネのハイタッチ権付きのチケット手に入ったって云うから、『どこで❓』って訊いたらNETで買ったって。あきらかに販売元からではなくって、途中マージン取ってるヤツですね!!」

 一番早口で、ライブチケット購入について詳しそうな若い男の声が、転売の事実を語っている。ますます色っぽい真剣な眼差しの麻衣子は、俺にウンウンと何度も頷く。

「たしかに。ダフ屋じゃなくって、最近はNETでモバオクとかDMやりとりとか、なんだろ❓コウスケ」
 
もうひとりの若い方弟らしき男子が、コウスケと呼ばれた渡部からもっと詳細を探ろうとしている。コウスケとやらは早口なので注意深く聴き取ろうと耳を傍だてると、麻衣子が「ロン毛の子、早口」と確認し易いフォローをくれた。

「らしいです。でも、正規価格で譲るのでない限り、営利目的だから犯罪になるらしいですよ」
「マジで❓❓個人でも❓」

「おい、シュウジ。おまえの、大丈夫なのか❓〈野郎夜〉のチケット」
「兄ちゃん、それは大丈夫。フクヤマのチケットはファンクラブでもなかなか取れないらしいけど、男性限定の日だけはソールドアウトしてない。4枚取れたから、兄ちゃんとボクとコウスケの他に、もう一人行けるよ」

「あっ、知ってる~!!毎年クリスマス頃にパシフィコ横浜で演ってはるLIVEでしょ!?うちのお母さん24日のイヴに行かはるえ~」
 
鼻にかかった甘え声の若い方の女子が口をはさんだ。
「おまえ、知ってるか❓」
 
すぐ側に居るらしきもう一人の女子に訊いたらしい。
「、、、知ってる。。。カケルとじゃないけど、昔、平日に行ったの」
 
男子全員と鼻声女子は、しばし沈黙。どうやら兄貴に気を使って言葉が出て来なかったらしい。

俺でさえ、〈元カレ〉という単語が容易く浮かんだ。向かい合う麻衣子が察したようにクスッと含み笑い。

五人の沈黙を破ったのは、長髪らしいコウスケ。
「、、、あの、それにフクヤマのは、各地のイベンターで協力してキャンセル分含めて、トレードの仲介を事務所でやってるらしいです。大丈夫。シュウジ。転売防止に当日電子チェック・ゲート通るまで、座席番号はわからない引換券なんです」
「あれって引換券なの❓」

麻衣子が「ロン毛早口、頷いた」と呟いた。俺も麻衣子に向って頷いた。

「渡部。おまえ音楽のイベントに詳しいんだな」
「ええまあ。仙台の高校生ん時から、学園祭のイベント実行委員やってて、こっちの大学でも、著名人やミュージシャン呼ぶ主催側をやってました。今でも日曜に、バイトでイベンターの警備員に駆り出されてますよ♪」
「それって、副業に成らない?平気?」
 
またしても波紋を投げかける、落ち着いたアルト・ヴォイス女子。

「大丈夫です。穴埋めで手伝いに駆り出される程度です」
「そっか。渡部は仙台か。。。大学こっちって?」
「百万遍んとこです。吉田講堂で外タレ呼びたくって、大学院まで残りました」

 俺の心が「ナンも言えねえ。。。」と叫んだ。麻衣子は素っ頓狂な叫びをあげる前に、自分で自分の口を片手で塞いだ。

「ハイハイ、だからシュウジよりも後入社なんだね❓」
「はい」
「だから出町柳の辺り、ウロウロしてたんだ。。。」
「そうそう」
「どういうこと?」
「僕の学生んときのバイト先にしょっちゅう来てたから。入社式の初顔合わせで、なんかどっかで見覚えあるな、、、って」
「そうなんです。でも、兄弟で同じ会社に勤めるっていうのも、珍しい♪」
「おう!オレは営業マン志望だったし、シュウジは理系の研究者に成りたかったから。偶然だけどな」
「彼女とは?サキさんとは、、、入社してから、だった❓」

 男3名の会話に入らず、差し向かいの女子同士の会話に切り替えていたアルト・ヴォイス女子の答えを待つ。
「ぁ、ううん。学生時代。出逢ったのは。学部ちがうけど」
「えっ❓」
 
絶句している弟、、、の図。
「えっ❓❓」
 
その弟を観て、豆鉄砲食らった鳩のロン毛、、、の図。

 二人とも、他の元カノを知っているようだった。そこで確実に5名の会話が途切れた。
 5人が5人とも、呆気にとられるか空いた口が塞がらないでいるか、なのだ。アルトヴォイスさえ、自分の発言のリアクションにビックリしているようだ。

 このチャンスに俺は、周囲に気を配れていない彼ら5名のルックスを、瞬時に確認した。ロン毛早口に限らず、髪型にはあまりうるさく云わない会社のようだ。

 麻衣子が小声で俺に尋ねる。
「あのバッジ。社章どこかな?」
「社内封筒とか、観てみて」
「ぁ、、、円に上下2本横ライン、真ん中琵琶湖の型取り」
 俺は5名に背を向けたまま、社名を答える。
「草津製作所、やぞ、それ。五条通大宮よりの」
「何の会社?」
「AĪロボットを造ってるんだよ。接客とか受付に居る、アレ」
 
麻衣子は、うんうんと縦に頷いた。


「実は今、LIVEチケット転売の件で検挙が急増してて、サイバー案件と同じくらいこなしきれなくって、難しいの。雅哉さんにちょっと調べるの手伝ってもらおうと、思ってたの」
「それで、珍しく麻衣子からの呼び出しかぁ」
「そっ!出町柳だと裁判所にも近くって、ヤバイから上賀茂で待ち合わせにしたの」
「そうかぁ、、、俺の娘もなんか、SNSでやりとりしてる人に、バンパイヤ―チキンだかブランチュールだかなんか、譲ったって」
「あ、それフランプールね⁉へえ、、、定価に上乗せナシで?」
「Sure♪俺に訊いて来た。これは罪にならない❓って」
「大丈夫。友人同士の譲渡とみなせば」
「コンビニのロッピからローチケ購入したらしいから、特定個人限定のじゃないし、営利目的でもないから、大丈夫!って言っといた」
「OK、OK。〈ねっとも〉なの❓」
「、、、❓❓」

 世代間のギャップは、愛情が埋めてくれる。麻衣子は俺にも分かり易く翻訳、もとい表現してくれた。
「ああ、、、NETで知り合って出会い目的じゃない繋がりの、友達」
「ぁ、、、ハイハイ、それ。多分、、、どうかな❓心配になって来た」
「ゆずちゃん?まりさちゃん?」
「妹の方。ゆず」
 
 
なんだか納得したように、麻衣子は再びニョッキのクリームグラタンをフツウに食べ始め、ニカッ!と鼻にしわを寄せて笑った。
 麻衣子にとってはフツウだが、一般的には「ヤセの大食いの早食い」と、見なされる。

 ちっとは俺のペースに合わせておくれ。俺は猫舌かもしれないのだぞ❔

 ポール・スミスのジャケットのポケットから、ウエットティッシュを取り出した。ハンカチは、クロークに預けたトレンチ・コートの中らしい。

「ヤセの大食いの早食い」彼女、麻衣子がデザートを食べ終わると、俺はカッペリーニの野菜スープ三分の1皿、カンパーニュ1切れを残したまま店を出る羽目になった。

 北山通りの西端を、南へ下ル。満月のウサギはもう正月の餅つきをしている。



Vol.1‐③

 北山通りの西端から南へ下りながら、オレは黙って先程の5人の会話を反芻する。
 麻衣子は佛教大学キャンパスに挟まれた辺り、歩道の真ん中で立ち止まり、俺をじっと上目遣いで見つめる。気づいた俺は作り笑顔で、それこそ包容力抜群な微笑で今何を考えていたか、語ることにした。

「あのさ。さっきの5人の、一瞬の気まずそうな沈黙の後でさ、ムリヤリ話題がめっちゃ違う所へ飛んだよなぁ。。。」
「あ、うんうん。チケット転売でも、元カノ話でもなかったよね。。。」「あれって、誰に一番気を使ったのかなぁ、、、?」
「多分、元カノよりも今カノの方が先に知り合っていて、兄貴の今の恋人にみんなが気兼ねしてた、、、って感じたけど?」
「あそう、、、なんや❓俺は、兄貴に一番気を使ってると思うよ?」「、、、そうかもね。他に元カノ居ても、復活するか諦めないかしてずっと気持ち温めてたんやとすればよ?それはあの【正直なのにツンデレ女子】の機嫌損ねちゃ、兄貴も激オコするし。。。
 だから【癒し系女子】も、ロン毛と弟がサッサとてんで違う話題に変えたのについてって、合わせたのよ。May Be」

「あそっか♪俺はまた、イケメン兄貴の昔話がボロボロ出て来そうやから、男二人でヤバイ空気を食い止めたのかと。知ってて隠してやってる事、それぞれ有りそうじゃん❓」

「〈じゃん!〉やって。何それ⁉ほんまに京都人なん?」
「いやそれは置いといて。麻衣子かて、標準語に京都弁にアルゼンチンに英語、でしょ❓ーーーってか。あのツンデレのアルト・ヴォイス、「鶴の一声」か「地雷踏み」か、、、どっちかだよ」
「あらそう⁉あたし、好き。素直に言ってる感じ。元カレ一人も居ないって嘘の方が納得しないし、そこまで粘って兄貴の方が恋人にしたかったのは、何か、モッテルのよ。兄貴の方より歳若いみたいやけど、あとの二人も一目置いてる感じ。
 それに、自分で言っといて他の反応の強さに本人がマジ!びっくりしてたよ❓悪気ない素直さやと思う。〈美人さんあるある〉で、意外とおおらかなのかも。」
「なるほど。麻衣子にそういう友達居たんやね♪〈外大さんあるある〉かな?俺は、もうひとりの【癒し系鼻声ちゃん】の方が好きかも。」
「ちょっと天然入ってそうな感じ?」
「いやいや。クレバーだから、空気読んで合わせるんだよ」
「なるほど。カフェに着いたよ⁉」

 


 珈琲専門店に辿り着くと、俺は、先程残した分だけ食べ足りなかったのか、けっこう歩いてから到着したせいか、今頃お腹がしっかりと空いてきた。

 京都市内は全国で1番、喫茶店の数が多いのだそうだが、意外と、全国区で在るチェーン店カフェは、ごく少ない。上京区は皆無。理由は、昔ながらの路面店や京都独自ブランドの店が既にあちこち点在していて、サンマルクやドトールやスタバが新規参入しにくくなってるからだ。

 ついでに云うと、京都人はパンやブレッドが大好きだ。朝食は、必ず喫茶店のモーニングやsizuya​の菓子パンやサンドイッチ、と決めてる常連の年配が分布している。
 
なので俺は、夕飯に喫茶店の軽食食べるのが、好きだ。常連客から思わぬ情報をキャッチできる時もある。もちろん探偵稼業に必要な情報のこと。

 麻衣子は、グアテマラのストレートをブラックで飲み始め、俺は、オムライスを注文した。
 半分以上食べ終わるのを待ってから、麻衣子は、例の転売で検挙された被疑者について下調べの業務を俺に委託して来た。
 完食するまで黙々と麻衣子の事件概要を聴き取り、報酬の出処を訊かずに引き受けた。

 大きな組織の法人だろうが、公的機関からだろうが、誰か個人のポケット・マネーだろうが、俺はその〈カネの出どこ〉には一切触れない。
 頓着しないのではなく、面倒なことには関わりたくないから、私立探偵をやっている。

 刑事や検察官や弁護士だって、下っ端は降りて来る圧力で真実が探れない事もあるだろう。真実を知った上での解決。そこに『大人の事情』を持ち込んでも、俺は関与したくはない。だが、現実的な解決は、真実を知らないと出来ないのだ。

 俺は、全方位型の正義など、信じていない。

 その上、俺が潜入出来ない範囲やカテゴリは、恋人である検察官の麻衣子が得て来る情報でフォローしてくれる場合も、あるのだ。
 国際的なシティホテルのサービスマンくらい、守秘義務は固く守らなければならない。だからこそ、〈カネの出どこ〉は知らないに越したことはない。

 今回の案件は、実は、料亭「たちき」の女将である、神山真澄からの依頼連絡にも関係している。

Sure♪この件はグッジョブに成りそうだ。

 元恋人や今カノから仕事をもらうのは、情けないと思う奴もいるが、俺は気にしない。自宅に寄り付かないどこかの妻帯者より、すばらしい女性たちと繋がれているから。そしてその女性達の力に成れるのだから。

 May Be、俺達はうまく行っている。


Vol.1‐④

 高瀬川沿いに、しだれ柳が3本並んだ三叉路のあたり。
 河原町側の、木屋町通りに向かって渡る小橋は、この辺一帯の各々店舗の私有のものだ。

 大店の料亭と、老舗旅館の小橋の間にもう一つ、もっと目立たなく存在する、小さな橋桁を俺は渡る。その西詰に、京都の街並みの象徴のような、うなぎの寝床の細道が続いている。

 実はその道はどちらの店舗のものでもなく、かと言って♪まるたけえびすに♪と小唄で歌われるほどの通りや筋でもない。だいたい松原通りと五条通りの間と云えば、わかるだろうか。

 その細い小径の真ん中あたりに、凸型の喫煙エリアのようなスペースが在る。そこは接客や調理などの従業員しか利用しない、作り付けの腰掛が置かれた石だたみになっているのだ。俺はまずそこで一服することにした。時刻は16時。

 夕方からのための仕込みを終えた板前しかいない、時間帯だ。どうやら、料亭と他店の『華板』クラスのそれぞれ二人が休憩中の様子。俺は顔見知りの方に声をかけることにする。
 『華板』と云っても15、6歳から修業を始めたので、年の頃はまだ30前後。

「女将さん、来てるかな❓」
「ぁ、はい。もう着物着てはる頃です。呼んで来ましょか❓」
「あ。うん。コジマが先日の件で来たと、伝えてくれるか❓」
「わかりました。少々、お待ち願えますか❓」
 俺は頷き、もう一人の板前の横で一服を始める。

 彼はあんまりお喋りは得意でなさそうだが、愛想の良い笑顔で、怪訝な顔するでもなく寛いでいた。暗黙の了解で、この場所に入って来る人間には、よほどの挙動不審でない限り何も問わない。

 ほどなくして、『極道の妻たち』ほど着崩してはいないが、でもお稽古事の発表会よりも艶やかな和服の、神山真澄が現れた。

 両肩にウールのショールを羽織っている。襟足が綺麗に見える夜会巻きの髪型は、真澄のトレードマークだ。いったいこの髪型と化粧の出で立ちに、どのくらい時間をかけるのだろう。まったく私服のイメージが想像出来ないほど、完璧な和風の装いだ。

 だが、、、片手でショールを抑え、もう一方の手のひらを見せて合図しながら歩み寄って来た真澄の穏やかな笑顔は、ナナハン2台で川崎から箱根を越えてツーリングしていた頃と、ほぼほぼ変わりはない。
 いやむしろ、とても好い年齢の重ね方をしていた。

「雅哉さん。お待たせしました」
「いや。タバコ1本分だけだよ」

 俺も右手を顏のあたりで軽く振ってみた。もう一人居た板前が、聴いちゃいけない話かと、適当に居なくなっていた。

 俺は、先に話を切り出してくれるまで相槌を繰り返していたので、狭いけどふたりだけの和の空間であると気づいて多少ドキドキして来た。
 真澄が
「、、、というわけで、ここからが本題」
と告げた瞬間まで、板前の思いやりに気づかなかった。

 いやいや。多少ドキドキなんて程度ではない。 
 心臓の鼓動が真澄に聴こえはしまいか。。。というくらいに、8年ぶりの再会によって内心あたふたしていた。電話越しには、ここ3年の間に何度かやりとりしていたのだが。

「5時半までにまだ時間があるから、ちょっと一服させて?」
 
神山真澄は、右手の人差し指をしなやかに立ててから、ニコッとして、細めのメンソールを1本取り出した。

  高瀬川に突き当たる小径の石だたみの上には、深くくすんだ紅葉の落ち葉が、幾重にも風に軽く舞っていた。

 都内に通い、皇居のお堀沿いでホテルウーマンを生業にしていた頃よりは、メイクが少し華やかめであることに、気づいた。
 身だしなみ程度の、客筋より目立たない印象を保つホテル・サービス業とは違い、料亭の女将さん業は、ほとんどが役付の年配を相手とするので、艶やかさも大事なのだろう。
 それでも、全体のイメージは、真澄の持つ凛とした佇まいの雰囲気を変えないでいる。

 和服姿の仕事モードではなく、〈黒服〉のトップ長らしいスーツ姿は何度か拝見していたが、円熟し始めた色気は、あの頃と同じ夜会巻きの髪型でも、目立って際立つ。ほのかな化粧の香りが、10年近く前の記憶を呼び醒ます。

 真澄は今でも、シャネルの敏感肌用の化粧品にこだわっているのだろうか。。。

 料理に匂いが移るといけないため香水はつけないと云ってたが、スキンケア化粧品も、シャネルのイドゥラ・シリーズは他に類をみない香りだ。
 ほのかに微かな真澄の香りに、俺は思わず目を伏せた。

 早く〈本題〉を始めてくれないと、俺の気持ちが動き出してしまうではないか。。。

 恋人がいて、何も問題が起こっていないにもかかわらず、こうして再会できる事に、淡い期待のこもった想いを自覚していた負い目のせいで、やけに俺は、真澄が女性であることを落ち着かなく意識し始めていた。

 そんなことにはお構いなく、、、。
 の、様子に見える真澄は、依頼したい『チケット転売』の件の探りを入れて来た。
「雅哉さんの今関わる件の中で、他にも転売系の調査は有るのかしら?」「、、、ああ。あるよ。お役所関係の人物からの依頼だけどね」
「それは、、、警察?」
「ちがうよ」
「そう。。。じゃ、直接警察関係の方と面会することは、無いのね?」
「ああ。警察はない。裁判所の方では絡むよ」
「わかった。じゃ、話すわね。直接『頼んでくれ』と依頼して来たのは、警視庁の警部さんなの」
「へえ。。。」
「うちの店によく来てくださるの。直接管轄ではなくっても、京都府警の署長にお会いされる時とか」
「都内以外の管轄も、あるのか❓」
「ぁ、ネットのサイバーとかĪТ関係の事件は、より詳細な捜査は全国区で、警視庁の権限らしいわよ」
「なるほど」
「どうもね、、、府警絡みで組織的に、転売のチケットが流れてるらしいの」
「それは、警察庁側ではないの❓」
「ちがう。捜査は反対側よ。警視庁と警察庁はお互いに、不正を見張る形で反対側が捜査するのよ」
「ふんふん。。。」
「で、警視庁の警部さんから、内密に調査してくれる奴を頼む、と」
「はいはい」

「知ってるのよ。私が川崎に住んで都内のホテル・ウーマンやってた頃の、彼氏のこと。その頃からのお客様なのでね、当時の恋人が今、私立探偵やってるって知ってたのよ」
「えっ❓❓、、、俺、あの頃は弁護士事務所だけど❓」

 真澄は深く頷いた。その警部が俺の居所を知った経緯を語る。
「さすが刑事からの叩き上げ、だわね。。。私の恋人の話題になった時に、法律事務所なら何か世話になるかもって、雅哉さんの名前を聞き出してたの、私から。現在京都に戻って、親戚の叔父様と〈プライベート・EYE小嶋〉っていう探偵事務所を開いてるって、知ってたの。
 だから、貴方の居所が分かって3年前に連絡が取れたのよ」
「3年前よりも以前に❓」
「そう」
「俺は、その人と直接面識は、無いよね?」
「ないと思う」
「あ、そっか。直接会うこともないからこそ、頼めるんだな❓」
「、、、そうみたい」
「じゃ何か、書類送ったり、連絡したりは❓」
「ぁ、それは私がメルアド訊いてる。警部さん個人の。
 で、私が書類を預かったり、貴方にPDFやUSBにしてもらって、私が送信するわけ」
「ならば、、、直接警部さんと連絡とり合うことは、無いんだね?」
「そうみたい。こういう依頼されるのは、初めてなの」
「だろうね。。。守秘義務を堅く守る人物と見込んでの、依頼だろうね。。。」
 再度、真澄はゆっくりと頷いた。

 と、その時、ひらり、と椛の葉が一枚落ちてきた。左右に揺れながら俺の左肩にとまった。

 トレンチ・コートの肩上から振り払おうとして交差する右手を動かした瞬間、真澄の右手がすんなりと伸びて来て、しなやかな指先が移動しながら茶色がかった椛の細い茎を、中指と親指でつまむ。真澄は穏やかにニコッとほほ笑んだ。

 一瞬、真澄が肩にかすかに触れたことでドキッとしたが、俺も笑みを返して、真澄の指先にふう~っと息を吹きかけた。
 真澄の指先を離れ、また椛の木の葉が下に舞い落ちながら、左右に揺れて石だたみの上に落ち着いた。

 途切れた会話を取繕うように、俺も煙草を取り出し、火を点けた。
 アイコスやグローのような電子タバコを、俺は吸わない。真澄もあいかわらず、紙巻煙草のメンソールであることに、なぜか、俺は安堵していた。


Vol.1‐⑤

 街灯が、明るく射して感じ始める、午後5時を過ぎて、料亭「たちき」の女将である神山真澄は、本日出勤している接客担当の面々の、佇まいチェックを始めた。

 始めたといっても、マジマジと重箱の隅をつつく指摘ではなく、それぞれの顔色に変化はないか、まとめ髪は乱れが無いか、着物が着崩れてはいないか、逆におもてなしの心が見えない取り付くシマもないそっけなさは感じないか、、、それぞれの個性の全体を感じ取るだけだ。

「いらっしゃいませ、のお迎えは、5秒後にでも出来ますか?
 ふた言目の〈お越しやす〉と〈おいでやす〉を、くれぐれも、間違えないでくださいね?」
と、短かい言葉で7人並んだ女性に尋ねた。

 誰一人眼をそらさずに、皆笑みを浮かべているので安堵して、次の言葉を告げる。
「では、ウェイティングに向かいましょう」
 一斉に発声。
「本日も、よろしくお願いいたします!」

 女将が30度の礼をすると、7名整列した形で45度の礼を5秒続けた。
 接待課長のヒカルが姿勢を起こすと、皆が定位置へ向かう。ヒカルに目配せした女将は、1メートル間隔まで近づき抑えめの声音で伝える。

「19時からの〈白鷺の間〉は、本日は関東からのゲストのおもてなしです。
 考え得る準備を、次の間にお願いします」
「承りました」
「今日は、府警の方もいらっしゃる。総監と長官、おそろいです。見えない所での所作、私語も注意してね」
「わ、、、っかり、ました!」
「新人でない子。ヒカルさんと組んだ経験があって、覚える気持ち出る子。でも、好奇心で突っ走らない子、居る?」
「えーーー、今日は、主任のリンちゃんしか居ませんね。あとはそれぞれ担当と新人です」
「まかせるわ」
「おおきに!」
「私の長いおつきあいのある警部さんなの」
「予約者が、ですか❓」
「いえ。ホスト側は府警なの。うちを指定したのは、警視庁側の警部さん。長官と親しいそうよ」
「あ、谷様ですね!?」
 
女将は頷いた。
「私は〈ウキ〉でいます。他も観てますから、ヒカルさんに任せます」
「承りました」
 女将は再び笑顔で頷くと、厨房ののれんをくぐる。

 一番奥に居る〈煮方〉の板前に、〈華板〉の榊を呼ぶよう伝える。 
 年齢は30歳前後だが、腕前は「たちき」の華であり、ルックスは二十歳にさえ見える板前だ。愛想のよい面持ちで、女将に近寄って来た。

「おつかれさまです」
「はい、おつかれさまです。〈板長〉から伝言聞いてはりますか?」
「はい。サギの間19時、谷様ゲストでお越しの、接待ですね?」
「はい、そうです。2トップのVIP2名、来られます」
「かしこまりました」
「関東の方々メインで、お気に召す料理をお願い致します。普段よりしっかり味を、少し心がけてください」
「かしこまりました。ダシは昆布使わず、鰹メインに、アゴとニジャコ使います」
「お願いします」
「アレルギーや苦手なものは?」
「2トップのおひと方は、牡蠣と海老NGです。ゲスト側なので、合わせてください」
「お好きなものは?」
「それがね、、、意外と肉より白身魚らしいの。ダシがアゴなのはOKよ。九州出身らしいから」
「かしこまりました。もう一方のトップの方は?」
「出身は仙台なのよ。予約の佐藤様も府警だけど、茨城出身。ゲストは九州だから濃い味甘い目がお好きで、関西味には馴染めなかったらしくって。長官とは、好き嫌いで気が合うらしいわ」

「わかりました。会席が和むものを。デザートはずんだ豆、使ってみます」「ええ!!えぇわぁ。おきばりやす!」
「はい!今日は茨城産の小松菜と、三浦ダイコン、下仁田ネギ、あります。炊き合わせに使ってみましょう」
「いいですねぇ」
「造里に、九州のシマアジ、増やします」
「かしこまりました。一品、京都らしいものを」
「では、八寸で堀川御坊と、万願寺、丹波栗、黒豆大納言、京人参、、、ですが加茂茄子も考えてみます」
「わかりました。谷様は白味噌お気に入りやから、お食事は赤だしを白味噌に替えて?」
「かしこまりました。海老NGでも蟹は大丈夫ですか?」
「どこで使うの?」
「揚げ物に、沢ガニです」
「ぁ、じゃ、はぶいて。何か魚にしてくれる?」
「では、ワカサギ行きますか?」
「お願いします。焼き物は?」
「今日は、のどぐろです」
「ありがとう。いいの入った?」
「今、〈板長〉が観てます。他の部屋の分もなんで」

 自分の出番を待っていたかのように、バックヤードから〈板長〉が声をかける。
「また、あのハゲチョビリン来はるんや!?女将さん」
「そうや。〈板長〉おはようさんです」
「おはようさん。のどぐろ、造里にしてもええくらいや」
「そないに活きがええの?」
「そや。宍道湖あたりののどぐろや。ただのアカムツとちゃう」
「頼みますえ。〈板長〉」
「まかせて。それにしてもご執心やな、谷さんは。女将さんに会いとうて京都まで来はるんけ❓」

 女将は、YESともNOともつかない微笑。でも作り笑顔ではない、口角の上がり方と目尻の下がり方。〈板長〉は見逃さなかった。
 遠目に観ていたヒカルも確認していた。伝えるかも、、、なつもりで。

 女将さん、おきばりやす。。。

 ヒカルの心の呟きを聴いたかのように、〈板長〉が真っ白な前掛けの結び目を、丁寧に締め直した。
「榊。ダシは〈イトコ〉使うな。お前が作って〈アニキ〉を置いといてくれな。〈煮方〉が先に汁物に使うから」
「承りました!」

「いらっしゃいませ。ようこそ、おいでやす」
 
誰かしら新人の声が、女将にも届いた。


 ジャスト19時の5分前。のれんの向こう側に6名の男性の、膝下足元が見えた。
 1人若々しく観える初顔が一瞬のれんの間から見え、すぐに隠れると、お約束のようにピカピカに磨かれて高級そうな靴の2トップから、のれんをくぐって入店。

「いらっしゃいませ」
 一番最後に入店してきたのは先程チラリと覗いた顔の佐藤警部で、靴はウィング・チップのレース・UPで茶色だ。谷警部は履きなれて馴染んだ黒の革靴。
 担当のヒカルをフォローするリンが、6名それぞれの靴を確認する。

「ようこそ、おこしやす」

 接待課長で担当のヒカルが丁寧に45度の礼をして、姿勢を戻すと、リンも頭を上げて柔らかい物腰で4名のコートを順番に預かる。ヒカルは予約者を確認のため、次の言葉。
「佐藤様、ようこそお越しくださいました。谷様、いつも有難う御座います」

 顔なじみながら、名前を告げられて照れている谷警部と、佐藤警部のコートを預かり、ヒカルはリンに渡す。
「お部屋の係のヒカルと申します。石浪様、石友様。〈白鷺の間〉へご案内いたします。少々、こちらでお待ちくださいませ」
 ヒカルは手の平を向けてソファを示し、予約者の方を向いた。
「佐藤様。お先にこちらへどうぞ」
 ヒカルは佐藤警部をいざないながら、先に連れだった。渡り廊下をしばらく歩きながら、佐藤は和モダンな中庭を眺める。一番奥の〈白鷺の間〉はもう、河原町通側であると確認。

 格子戸の部屋の玄関の手前で、ヒカルは歩を止める。
「改めて。はじめまして。よろしくお願いします」
 
愛想好さげな流暢な挨拶の、佐藤。ヒカルも思わず笑顔になる。完璧に標準語で、声のキーが高い早口だ。

 次の間へ佐藤を上げてから、ヒカルは必要事項を伺う。
「こんな感じで、6名の座いすで掘り炬燵式に足を伸ばしていただけます。上座と下座のお席順は、いかがなさいますか?」
「そうですね。上座真ん中、警視総監の石浪様。下座真ん中、警察庁長官の石友様。2番手上座が警視で、下座が府警の警視正。谷警部は上座の下手。末席は僕、警部の佐藤です」
「かしこまりました。今日はもう一人担当いたします。お料理は、お味の傾向を関東の方にお気に召すよう、私共『たちき』の華板が控えております。なにくれとお申し付けくださいませ」
「ありがとうございます。アレルギーや出身地の事などは、予約の時に女将さんに伝えてあります」
「はい。伺っております。お品書きをご用意いたしますか?」
「できれば。後でもいいです。歓談がはずむと思うので」
「かしこまりました。では、こちらでお待ちくださいませ。皆さまをご案内してまいります」
 佐藤警部も、笑顔で頷いた。


 ヒカルとリンが〈お焚きもの〉を用意している頃、下手の襖が静かに開いて、佐藤警部が次の間まで出て来た。
「おっ、次は焚き合わせか♪ひょっとして、お野菜は茨城産?」
「はい、そうなんです。小松菜は茨城県産を使ってます。うちはけっこう関東から仕入れてますよ。おだいこは三浦大根で、ネギは下仁田葱です」
「ありがとう。僕、茨城の海の方出身なんですよ♪」
「うかがっております」
 リンがゆったり動作で、胸元から榊のくれたメモを取り出し、確認する。

「〈お食事〉はちょっと先延ばしで八時半過ぎて、でお願いします。そろそろ総監が焼酎行きたいそうです。ロックで用意してください。赤か黒の霧島、ありますか?」
「イモは赤ありますよ」
「それでお願い。あと、ムギも。僕があんまり呑めないんで、ソーダもよろしく♪」
 ジントニックでもオーダーするような口調で、佐藤は告げた。
「では、二階堂でよろしいですか?」
「ぁ、ムギは長官だけど、、、何でもいいかも」
 ヒカルはクスっと笑った。
「日本酒なら、京都らしいもの、ございますよ?」
 
リンがすかさず勧める。
「えっ?どんなの?そっちがいい♪」
「〈ガラシャの里〉って云う純米酒です。度数が高いですが、人気です」「ありがとう♪丹後のお酒?」
「はい」
「じゃ、上座の警視はポン酒好きだから、それ」
 リンとヒカルはニコッと顔を見合わせて、頷いた。
 佐藤も指を鳴らして喜んだ。
「長官も、そのガラシャでいいや。ダテさんだから♪伊達さん♪独眼竜の♪」



 リンが用意したグラスは、3種類。焼酎のロック・グラス3つ。
 水割りタンブラー3つ。冷酒グラスのチョコ6つ。直径2インチ球体の焼酎ロック用アイスと、かち割り氷をアイス・ペールに1杯。ミネラル2本、ソーダ1本。そして〈ガラシャの里〉720㎖を1本、赤霧島720㎖1本。和盆2つに全てを乗せて、ヒカルは静かにメイン座敷に入る。

 末席の近くで、化粧箱から2本を取り出す。ヒカルは一瞬気になって、箱の印字ラベルを確かめた。ヒカルはこのお酒を勧めた事がなかった。
 〈ガラシャの里〉には「雑酒」と記されていた。

 白いお酒や!リンちゃんが間違うはずないって思ってた。

 ヒカルの中で、全ての身体機能が一時停止した。

 主賓のトップ2名は、「のぞみ」の車中で食べた四日市名物の「天むす」の話題で盛り上がっている。警視正は伏見の清酒、谷警部他はドライ系の生ビールを楽しんでいる。佐藤警部がうつ向いたまま固まっているヒカルの様子に気づいた。

 ヒカルはおそるおそる、小さな声で傍の佐藤に伝える。
「、、、警部。〈ガラシャの里〉は純米酒ではなかったです。人気はあるのですが、、、」
 佐藤は黙って頷いてから、声を殺して早口で伝える。
「わかった。まかせて。上座の総監の方、よろしく。下座の方は僕に」
 720㎖ボトルのラベルを確かめてから、末席を立つ。

 佐藤警部は、下座真ん中の長官の右手に控えて、冷酒グラス1つを長官に勧め、声をかける。
「石友長官。い~いお酒勧めてくれたんですよ~。1杯いかがですか?」
 
笑顔の軽やかな声色。
「おお!!そうか。なんて酒だ❓」
「〈ガラシャの里〉って云います」
「おお。それはすごい!!細川のガラシャさんか❓」
 
石浪総監が反応した。
「そうなんですよ。丹後のお酒です」
「すげえな。そんなの在るのか!」
石友長官がグラスを受け取った。
「これ、度数きついらしいです。29度だったかな。あと、、、純米ではないです」
「ほぅ。。。なんか、戦国武将が呑みそうだな」

 総監がにこやかに興味深々な様子を見せた。すかさずヒカルは化粧箱を持ち、総監の傍に寄り「こちらです」と渡す。総監はヒカルの作った赤霧島のロック・グラスを口に運びながら、裏ラベルを読み始める。 
 それを確認した佐藤は長官に黒い酒ボトルから、トクトク・・・と美味しそうな音を立てて、長官の冷酒ちょこに注意深く注ぐ。
 グラスをグイっと1杯あけた長官。

「いかがですか?」
 のどごしをしばらく楽しみ、ゆっくりと大きく頷いた。
「うむ。これはイケる」
 佐藤とヒカルは眼を合わせて頷いた。ヒカルが総監と両側上座に冷酒グラスを配膳する。
「石友さん、そんなに美味いか!?」
「うまいっすよ!侍の気分です」
「そうか!よし、俺にも1杯。佐藤君、貸してくれ。彼女についでもらうよ。警視も呑んでみろよ」
「ぁ、じゃ、御相伴に預かります」

結局、佐藤警部以外の5名は、〈ガラシャの里〉のボトルを空にした。


〈お食事〉の用意をスタンバイして、リンが次の間で待っていた。
 ゆっくりと開いた襖。敷居をまたいで出て来た谷警部は、リンの前に座りあぐらをかく。リンの眼差しに動揺が走る。

「、、、先輩は、すげえぞ。ガラシャ大人気だ。
 安心しろ。なかなか出て来ないから、心配なんだろ?汁物、冷めるしな」
 
リンはうつ向いた。肩をポンと軽く叩き、告げる。
「いいから。大丈夫だ。それより、後で女将さんの手がすいたら、呼んでくれな?、、、ぁ、いや違う話だ。それは先輩がちゃんと報告するよ」
 リンはうつ向いたまま、もっと深く頷く。
「、、、かしこまりました」
 小さく応えた。

 となりの〈鶴亀の間〉のお見送りに行こうとしていた女将の真澄は、〈白鷺の間〉の玄関からの様子に気が付き、遠目に谷警部を確認した。
 女将が近づいて歩み寄ると、谷警部も気づき立ち上がる。
「トイレに行ってくると、先輩に伝えてくれな?」
 
リンははっきりと頷いた。

渡り廊下に出てから、庭を見つめながら谷警部と女将は二人並んで前を向いて、話す。
「今夜の席予約した佐藤って奴。シロかクロか判んねえんだ。
 絡んでるかいねえかは別として、、、警察庁のエリートの道を捨てて、何を思ったか府警に行きやがった。元はこっちに居た人間だ。今のトップと繋がってるかもしらん。両方かもだ。
『調べてくれ』と伝えてくれ。返事を待ってヤマを貼る」
「、、、そちらのトップとは、、、谷さんは今度の方、お好き?」
「俺は好きだ。総監はキライかもしれん。
 だがな、それよりあっちのトップがシロであって欲しいんだ。こう見えても俺は長官と同期なんだ。警察学校入る前に、俺は別の仕事してたんだ」「なるほど、、、ですね」
 
またしても、どうとでも受け取れる微笑の、女将。
「谷さんの口癖を使うと、『このヤマはデカい』ですね」
「くれぐれも慎重にたのむよ?」
「かしこまりました」


 ずんだ豆の水菓子まで、全ての料理を出し終えた二人の係が、次の間で玄関口に靴を並べていた。佐藤警部が下座の襖を開けて、次の間に出て来た。「料理は、これで全部なのかな?」
「はい。水菓子で最後です」
 
ヒカルが答えた。
「ラストオーダーは何時?」
「21時半です」
 
佐藤警部は腕時計を確かめる。
「ドリンクを訊いて来るんで、お茶のおかわり、お願いします」
「急須の方が、よろしいですか?」
「、、、そうだね。僕が頂くくらいだろうけど」
 
ヒカルがまたクスッと笑う。

 確かに、この人だけ大した酒量ではなかった。通常の幹事と同じなのだから当たり前なのだが、自己申告の通り、あまり呑めないらしい。

 コクンと頷いたリンが静かに立ち、準備に向かった。警部がすかさず、ヒカルに告げる。
「女将さんの手がすいてたら、呼んで欲しいんだ。お会いしておきたい」「かしこまりました」
 
笑顔で頷き、また座敷に戻る。
 ヒカルは、接待課のバック・ヤードに戻り、リンに声をかける。
「リンちゃん。悪いけど、お茶出しといて。私、他の用意がある」
「承りました」

 女将の真澄が、他の部屋の様子を全て確認してから〈白鷺の間〉の前に来た。その前に、後れ毛の襟元の確認を忘れずに。

 ほうじ茶を6名全てに上座からお配りした後、座敷を出て来たリンに、女将が声をかける。
「今日は大変でしたね。お疲れ様。下座の佐藤警部が呼んでると聞いたんやけど」
「はい。お呼びします」

 会計清算をパソコンに打ち込み、社外用封筒にプリント・アウトした書類を入れて、掛け売りに備えた。頂いた名刺を整理ファイルに収めてから、バック・ヤードを出て来る。
 中庭で背中を向けている佐藤警部と女将の後ろを会釈して通り過ぎ、〈白鷺の間〉の玄関に向かう。

、、、話が長引くかもやな、、、

 ヒカルはもう一度、次の間のリンを促して、二人で座敷に戻る。

 〈白鷺の間〉の座敷にヒカルとリンが末席の襖から入って来る。上座手前の谷警部は、ヒカルに声をかける。
「、、、そろそろ、お勘定かな?」
「はい。少々お待ちくださいませ。佐藤様がお戻りになられましたら、女将も参ります」

 谷警部は腕時計を観た。意外にもアップル社のIシリーズの液晶タイプであることに、リンは気づいた。ヒカルがそれを見逃さなかった。
 上座中央の石浪の後ろに控え、お伺いを立てる。
「『ガラシャの里』の化粧箱は、いかがなさいますか?」
 
警視総監の石浪は、愛想よく応える。
「おお。俺、今回もらっとくよ。石友さん、良いですか?」
「そうですね。また次があれば、この酒リピートします」
「じゃ、次を作ろうな。」
「はい。また席を設けます」
「かしこまりました」
 
ヒカルの満開の笑顔を見て、石友がぐい呑みの杯を手に取る。
「僕にもついでくれるかな?その日本酒でいいよ」

 最後の徳利からヒカルは冷酒を注ぎ、石友は一気に呑み干した。実に満足そうな笑顔で頷く。なぜだか、上座も下座も声に出して一斉に笑った。末席と上座の谷警部を除いて。
 谷警部は、しきりにアップル社のデジタル腕時計を褒めちぎるリンに、照れまくってタイミングが追い付かなかったのだ。

「遅くなりました」
 
佐藤警部が座敷に戻ってきた。
「行こうか」
 石浪の合図で、6名がゆっくりと立ち上がり、それぞれに煙草やスマートフォンなどを、忘れ物が無いか確認している。
 ヒカルは、酔っぱらってるのに、さすが、、、と、心で呟いていた。
 その表情で気づいた佐藤警部は、
「職業病かもですね」
 と、笑顔を絶やさなかった。

〈白鷺の間〉の玄関を6名が出ると、他の座敷の係を終えた4名が、6名各々のコートを用意して立っていた。ゆっくりと45度の深い礼を続ける。
 石浪総監と石友長官が先頭に並び、廊下を店のフロントへ向けて歩く。

 最後尾の佐藤警部に、女将の真澄が静かに、社外用の封筒を渡す。
「佐藤様。次回以降は、後日送付も可能でございます」
「わかりました。残額は月曜以降に振り込みにしてください」
「かしこまりました」
「会計口座はこちらです」
 
女将は茶封筒を佐藤から受け取り、中身を確かめる。口座を記した用紙と一緒にメモが入っていた。女将が顔を上げ佐藤をみつめる。

「僕からの伝言です」
「ありがとうございます。またお越しくださいませ」

 店ののれんをくぐり抜け、6名が木屋町通りに出ると、6名の接客担当と〈華板〉と女将が、四条通りへ左に曲がりお客様が見えなくなるまで、見送った。

 御所の方角に向けて続く道には、真紅に染まった椛の落ち葉のじゅうたんが、高瀬川に沿って続いていた。



Vol.1‐⑥

 神山真澄が指定した待ち合わせの場所は、意外にも、年期の入ったジャズ系ライブハウス『LIVE SPOT ラグ』だった。

 佐藤冬樹は先に来店し、暗いめな照明の中で、iPhoneで誰かと連絡を取っている。その予約した席に、後から来て彼を見つけた真澄は、iPhoneを切るまで、黙ってテーブルの隣り合わせに腰を下ろした。

 オーダーしておいた1ドリンクめは、ワインクルーラー。佐藤のトールグラスはライム果実がトッピングされていた。
「やっぱり。。。」
と、真澄がにこやかに、掌を向けてトールグラスを指す。
 佐藤は頷き、笑顔を見せた。
「僕、量は飲めないから、ショットの方が助かるんです」
「ぁ、、、いえ。以前にお会いした時も、ジントニックにライムが乗っかってましたよ、グラスに」
 
笑みを返す佐藤は答える。
「覚えててくれたんですね。同期の飲み会のサポートしてくださった黒服の方が、貴女でした。
 お堀のとこのホテルの小ホールにいらした神山さんだと気づいたのは、先日の予約の段階で、お電話させてもらって、声の感じや喋り方がなんとなく覚えがあったので、すぐ、あのホテルの黒服さんだったと判りましたよ」

 真澄は、目尻が下がる笑顔で、ひと口、炭酸とオレンジ・リキュールで割った赤ワインを飲み、応える。
「覚えてます。その翌日に、川崎の署でもお会いしました」
「はい。紛失届か何かを出しに来られてた。たまたま登戸近辺の事件で、本庁から来署してたんですが、神山さんは、何か盗難にでも?」
「はい。半蔵門までの定期券パスを落としてしまって、けっこうチャージ金額も大きかったので、落とした辺りの署へ届を出しました」
「見つかりましたか?」
「いえ、、、パスケースは武蔵小杉の駅員さんが預かってくださってたらしいですが、肝心のPASMOは抜き取られていました」
「、、、そうでしたか」
「定期は、月末だったのでそろそろ継続期限ではあったのですが、帰りに最寄りのコンビニへ寄るチャージが、ちょっと残念でしたね。。。」
「、、、そうですね」
「ぁ、でも。長く愛用している革のパスケースは、京都に戻っても使っています」
「元々、こちらの方なんですか?」
「はい。女将は世襲なので。実家の長女です」
「なるほど!」

 しばらくの、沈黙。だが、気まずくない空気。
 むしろ、今回の谷警部からの㊙役目として探るには、この時間帯のBGMが周囲へ漏れるのをかき消してくれる。助かる。。。と真澄は感じていた。

 佐藤は、モダンジャズが懐かしそうに、しばらく耳を傾けていた。その曇りのない穏やかな表情は、純粋に、非番の日に逢いたかった願いが実現したことを、映し出していた。

「よくよく縁があるんだなって、思いました。
 けど今日は、自分から誘ったのに、指定して頂いた店が日曜のライヴハウスなので嬉しかった。生演奏が無い日は、普通にJAZZ BARなんですね?」
「はい。お好きですか?」
 佐藤ははっきりと、大きく縦に頷いた。

「実は僕、警察学校へ入る前に、学生時代はジャズ・ヴォーカル・スクールにも通ってて、、、父親に反抗して、歌う人に成りたかったんです。
 けど、なかなかプロに成れなくて芽が出ないから、結局、警察庁の人間に成りました」
「なぜ、京都に?警察庁のエリートなのに。。。」
「、、、実は、京都府警に同期が居ます。もう僕より上役に成ってますが。
 本庁からの配属を頼んでみたんです。先日の会席で、長官側に居た警視正です」
 
納得したように、真澄は頷く。
「同期なんですね」
「石友長官は、本庁時代の直属上司でした」
「なるほど。そうでしたか」

 真澄は重要な情報を得て、笑みを浮かべた。
 次に繋げる商売っ気だな、、、と思い、佐藤は不思議な縁を感じていた。

 本庁の気が乗らない仕事より現場捜査に魅力を感じたのを機に、キャリア組昇進を捨てて、インパクトの強い恋心を選んだとは、佐藤もさすがに言い出せなかった。




ーーー A Period of The First Story ーーー





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