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連作ミステリ長編☆第3話「残響は、最後の言い訳に代えて」Vol.1

#創作大賞2024 #ミステリー小説部門


~私立探偵コジマ&検察官マイコのシリーズ~
「MUSEが微笑む時」

第3話「残響は、最後の言い訳に代えて」


○ ーーーーーーーー あらすじ ーーーーーーーーーーーーーーーー ○
  私立探偵小嶋雅哉は法律事務所書記担当を退職し、京都に戻り元裁判所所長の叔父政之との共同経営が軌道に乗り始めた頃、検察官中原麻衣子と出逢った。仲が定着し始めた晩秋、退職前の元恋人から極秘の依頼を受けた。
 組織的な音楽LIVEチケットの転売に、警察庁のトップが絡む疑惑を調べて欲しいとの依頼。他方で、巷の個人ネット販売による転売送検で停滞なく、麻衣子も忙殺されていた。警視庁と警察庁の相殺監視で、犯罪を未遂に留める動向の、互いのトップに犯罪疑惑が被せられている。
 音楽を創る側、消費する側、違法を取り締まる側。各々の生活も絡み、最後に音楽の女神MUSEが微笑んだのは、誰の為なのか。。。


Vol.1-①

 木屋町通りの柳並木は、今夜もなすがままに揺れている。
 河隅美咲は、夏場の職場を退勤して、特にあてもなく高瀬川沿いを歩いていた。

 帰宅の方向とは正反対だ。地下鉄の東西線に乗れば、太秦方面へ帰れるのだが、今美咲は京阪電車の駅方向へ向う足取りだ。
 だが、五条通へなんとなく下がり始めた。

 なんとなく帰りたくない。

 ちいさな角灯篭のほのかな明かりに引きつけられるように、足元だけはなぜか、行き先を知っているかのごとく歩を進めている。

 ちいさな灯篭の影になって、うつ向いていた壮年期ぐらいの男性が、ハッとして顔を上げた。吹きさらしの街頭に、じっと堪えて丸椅子に座り、小さなテーブルに向かっていた。
 彼は、微動だにせず高瀬川の柳並木の向こうの、河原町通り方面を見つめている。

 美咲は特に気にも留めずに、当てもないような足取りで、ただ五条通り方面へ下って行く。

 その壮年期の男性の前を通り過ぎた瞬間、美咲の後ろ髪を引っ張るように声をかける。
「ちょっとちょっと!お待ちなさい!そこの学生さん」
 
学生ではない美咲は、気にも留めずにそのまま下る。
「そこの貴女!ちょっと待ちなさい!奥さん」
 
奥さんでもない美咲は、なんとなく牛若丸と弁慶のブロンズ像を見たくなって、歩みを進めている。
「これ!!これこれ!奥さんでもない学生ではない、貴女。
 五条大橋の牛若丸を見る前に、私の助言を聞くのです!
 聞きたまえ!これ!」

 本当に壮年か❓と疑う口調になって必死に引き留める。立ち上がる。
「君!私は占い師であります。町の街頭の占術師です。
 手のひらを見せてみなさい。私が教えて差し上げます。
 ちょっと。これっ!」

 やっとスッとピタっと、足取り止めた。振り向いた美咲は、速足でムカつきながらツカツカと戻って来た。
「それっ!新手のナンパですか⁉」

 指差し呼称はしなかった。美咲はホテルウーマンである。それはしない。しないけど、メチャクチャ言いくるめてやりたい衝動に駆られていた。

 一瞬ひるんでから、街頭の壮年の口やかましい男性の占い師は、ニッコリ笑って応える。
「ナンパでも難波でもよろしいです。
 とにかく貴女。今夜向かう方向間違ってます。五条へ下ってはいけません。二条の方角へ行きなさい。とにかく貴女、左手をお見せなさい」

 瞳をまん丸くしてしばらく固まってから、美咲は言われるままに、左手の手のひらを上に向けて差し出した。
「、、、やっぱり。その人に会ってはいけません。貴女は今夜、別に思い出すべき方が居るはずです。そして、、、」
 
彼は手のひらの運命線を点眼鏡で凝視し始めた。
「貴女は、奥さんでも学生でもなく、ナンパされにも来てない事は、判りました。ですが、まずその怒りを鎮めて聴いてください」
「いえ。もう怒っていません。貴方に八つ当たりしましたから、ストレス解消できました。申し訳ないです」
「いいえェ。申し訳なくない手相です。
 貴女の運命線は中指と薬指の間まで、下からまっすぐに伸びています。
 ここで、その人物に会わないで、今行きたい場所に行けば、そこから運命が走り出すのです。よく聞いて。二条通り方面に向かってお行きなさい」「二条方面に向かって、、、何かあったっけ❓」
「とにかくお行きなさい。川沿いに。
 出来れば、高瀬川ではなく鴨川沿いに」
「はぁ、、、京阪電車に沿って行けばいいんですか❓」
「はい、そのとおり」
「〈フジタ京都〉はもう無いしぃ、、、川端通り❓、、、あっ!?」

「それですそれです。たぶん」
「でも、もう京都会館は無いですよ❓」
「はい。無いんですね❓」
「〈ロームシアター京都〉ってホールに替わってます」
「その場所なら、行きたいんですね❔」
「はい。今、なんとなく思い出しました」
「行ってみてください」
「でも、、、もう見たいような系統のLIVEは出来ませんよ❓
 ハコの大きさも」
「ハコ❔」
「キャパシティーの事です」
「、、、ああ。けっこう詳しいのですね❔」
「ええ。まあ。。。」


 街頭の占い師は、何かを察した表情でもう一度繰り返す。
「とにかく行ってみてください。
 そして、、、話を変えますよ?今のお仕事、好きですか❔」
「はい。やりがいがあります」
「ずっと続けますか❔」
「あ、いえ。分かりませんが、冬場だけの仕事は続けます」
「それです、それ!」
「はっ❓」
「好きな事やりたい事のために、夏の間はここに居るのですね?」
「はい。自活のためです」
「冬の仕事は?」
「雪の上です。スノーボードのインストラクターです」
「なるほど!」
「スキーもちょこっと」
「わかりましたです。それです。そういう仕事は続けたいのですね?」
「はい。好きで続けてる事で収入はあるので」
「なるほどです」
「でも1年じゅうゲレンデで食べて行けるわけではないです」
「たしかに。ここは日本です。北極ではありません」
「北極にはゲレンデはありません」
「失礼。で?他には?」
「、、、何かあるんですか❓手相の、、、そのお導きが」
「はい。何かあるんです。何かの表現手段で、成功する印、出てます」
「ああ。採点法の競技の選手でもあるんです」
「フィギュアスケートみたいな、ですか?」
「はい。似てます。ボードの技術や演技を、点数制で争う競技です」
「それ!それそれ。続けなさい。諦めず。そう遠くない未来、何か栄誉ある成績を出すかもしれない。で?雪国出身なのですか?」
「、、、微妙です。お隣の兵庫県です。山陰地方の但馬」
「なるほど。そのために自活のために京都に住んでるのですね?」
「はい。なんでそんな事❓」
「いえ。立ち入った事伺いました。でも。お仕事だけでなく、スノーボードだけでなく、幸せも手に入れてください。大丈夫」
「、、、ですかぁ。じゃ、なおさら五条通り方面へ下らなくちゃ」
「えっ❔」
「ぁ、、、ちょっとケジメつけとかなくちゃ、な仲の人、いるんです」「、、、さよかぁ。。。」
「へ❓」
「、、、そうだったか」
「イヤねっ。『さよかぁ』ってねぇ、、、結局ナンパ❓」
「あっイヤ。わかりました。大丈夫です。とにかく、反対の二条方面へお行きなさい」
「、、、はぁ、、、そうしてみます」
 壮年のサラリーマンスーツの占い師はうんうん頷く。

「で❓おいくら❓」
「いいですいいです。私が引き止めたんですから」
「じゃっ」
 
美咲は手のひらを上に向けて、北の方角を示し、
「あちらに向かいます」
と、歩き出した。

  そう言えば。。。京都ホテルも名前、変わったよね。

と、思い出しながら。

 岡崎公園の手前まで辿り着いた。
 幼い頃、何度かこの近辺へ家族でやって来た覚えがある。

 動物園の母親の象ばっかりいつまでも見つめてた、妹の姿。モルモットを実際に抱き上げて、初めて自宅でも動物を飼いたいと感じた、あなた河隅美咲。当時、母はなぜだかいつも不機嫌で、笑顔が少なかった。父はまだ、忙しい合間にでも〈家族サービス〉の遠出をしてくれていた。

 だけど、、、〈家族サービス〉とわざわざ呼ぶ人は、そんなに『義務』と感じて面倒なのか❓、、、と時々思う。

 そりゃあ、、、『義務と演技』ならば夫婦で居る事の意味がそんなに無いかなあ❓と、思ってしまうのは、私だけやろか❓
 イヤ。止めよ。こんな考え事。とにかく今は、独身の間にやり遂げたいライフワークの中の目標が、ある。今は、今のままで好い。

 〈ロームシアター京都〉の付近でも、柳の枝葉が揺れている。この場所から平安神宮の鳥居まで、周辺一帯を巡っておこうとしていた。
 けど、今夜はやめとこ。


 もろもろ幼い頃からの想い出はあるが、やっぱり〈京都会館〉は格別に思い入れが深かった。
 第1ホール:3300名収容。第2ホール:1100名収容。別館:800名収容。

 海外アーティストやミリオンセラーのバンドから、新人アーティストでメディア露出が急に増え始めたシンガー、別館ならではのビジュアル系やインディーズのLIVEなど、何度も通ったこの岡崎の会館周辺。

 今現在は、リニューアルと共に企業名が冠されているが、あの尾崎豊の17歳の姿を第2ホールの最前列で目の当たりにした事や、楽屋入口にアーティストが乗り着けるハイヤーが、いつの間にかヤサカグループからMKグループに取って替わって行った事など。。。思い起こせばキリがない。

 彼らアーティスト達やスタッフの方々の宿泊しているホテルも、堀川通を中心に点在している。
 そう。美咲が占い師を相手に『それならば、心のケジメをつけておこう』と口にしたその相手も、今夜五条通りにほど近いホテルに宿泊している。

 それが、行き違いの元凶だった。私も、ホテルウーマン。けれど、その事が理由でこのサービス業に就いたわけではない。
 常勤の直雇用ではあるけど『二足の草鞋を履く』ライフスタイルだ。WinterSportsの労働者であり、学生時代から住んでいるこの京都の街での生活も、重要なのだ。

 『心のケジメ』をつけておきたい男性も、TVメディアに登場する人気歌手。だけど、美咲は彼女でもなければファンでさえない。彼は、3歳年上で鹿児島県出身らしかった。

 LIVEコンサートに行くのが好きな美咲は、洋楽邦楽問わず、ライヴハウスからスタジアムやドームまで、大小問わず会場に行ったけど、、、いえ。
 だからこそ、その歌手の取った行動を糾弾したかった。いえ、行動というよりその後始末。これからもLIVEミュージシャンの楽曲を聴きたいから。

 だけど、訴訟を起こす資金もなく、冬場やホテルの職場にも迷惑をかけてしまう。付き合う気持ちはないので、本人謝罪さえあれば問題はなかった。
 だけど、彼『黒田玲苑』は何も言って来ない事を自分は好かれていると、勘違いした言動ばかりメディアで繰り返している。

 よくある『イケメン勘違い野郎』。

 ついでに言うと、他のアーティストはそこまで馬鹿な事もしないし、ファンとして見守っている客席の人に対し、自粛して節度を保っている。
 私もホテルウーマンとしての顔でいるので、守秘義務を厳守している。

 付き合うとすれば、それはもう当たり前に男女のコミュニケーションに依るけど、どうやら、彼の当たり前は相当偏見が混じっている。
 同じ事務所や同じイベンターさんも利用してくださるので、なおさらそこはハッキリと主張をしておくべきだと、思っていた。

 あのイベンターさん主催のLIVEは、大御所アーティストの公演に行くので『裏と表』がある黒田玲苑の妨害だけは、防いでおきたかった。

 まさか、私のプライベートに住居近くへ現れるなんて、思いもしない。よくあるBOYmeetsGIRLにしても、彼のアプローチは衝動的すぎて、しょっぱな痴漢に襲われるのと同じ恐怖を、私は味わっていたのだ。

 ミュージシャンになった知人はいるけど、まったく関り方が違う。世間で噂されるような荒くれや素行の悪さなど、ごく一部の人間の生活態度で、皆が誤解されるとコボシていた。
 その彼は美咲より年若いけど、むしろストイックに喉の調子をかばって生活している。おおっぴらには出歩けないし。

 そろそろ帰ろう。なんか、気が済んだ。
 あの占い師さんに感謝、かな。。。

 夜に溶けない三日月の明かり。
 クッキリすぎる金色の三日月を見上げるあなた美咲を、平安神宮の鳥居の近くで物陰から見つめている、1人の男性。美咲よりも若い。20歳くらいだろうか。
 知ってか知らずか鳥居を一瞥してから、美咲は地下鉄東西線の駅へ向かって歩き出した。

 美咲が、河原町御池から地下道へ潜ったのを見届けたその20歳そこそこの男性は、ブルーデニムの後ろポケットからスマホを取り出し、誰かに連絡を始める。

ーーええ。本当に来ました。ありがとう。
  今、電車に乗るみたい。多分東西線ってやつ。
  今日はこのくらいで戻ります。申し訳ない。ありがとう。

ーーえっ❓いえ、独りでした。ハイ。黒田玲苑さんは居ません。ハイ。
  ボクはこれで。じゃ。



Vol.1-②

 ホテルマンの働き方は、種々もろもろ選べるシステムが有り、雇用体系も生活リズムも選択の自由が与えられている。

 直雇用の常勤以外にも、空いている日にスポットでブッキングしてもらえたり、1ヶ月間以上海外へ身内に逢いに出かける女性も居たりする。
 土日だけ宴会場の主賓やメインを担当する、個人事業主も居れば、専念する職場で閑期も出勤する常備の人は、エージェントから正社員登用に切り替えて、昇進や役職付きを目指す人も。
 リゾートホテルとシティホテルを梯子して、繁忙期と閑期を上手く組み合わせ、正社員よりも稼ぐ働き方も、存在する。

 河隅美咲は、直雇用契約での常勤で、土日祝日の宴席と法人関係の接待ホスト側に居る場合とに分かれ、外国人接待の取引関係で重用されていた。
 閑期はスポットで頼まれ、またクリスマス時期のみ毎年行くこじんまりしたホテルもある。

 エージェント次第本人のスキル次第で、信用問題や守秘義務さえ破らなければ、ライフスタイルに合わせて、永く就業できる。
 スキーヤーやサーファーなど、季節労働者にも働きやすい職場でも在るのだ。

 着物の着付けが出来る故で、呼び出されたスポット出勤も含めると、ある年の申告が源泉徴収票が11社になってしまった事があったのだ。
 そして美咲は、ゲレンデで働いている冬季も、大好きなコンサートに行く事はスクールを一旦離校して月1回は通う、大切な趣味だった。

 ライヴハウスからスタジアムやドーム、屋外イヴェントまで休暇の連休ごとに、通う。京阪神へ帰省せずに長野県や新潟県へ向かう事も。

 この『京都会館』だった〈ロームシアター京都〉は、沢山の記念ごとや少しの傷跡を残した場所なのだ。
 『黒田玲苑』(クロダレオン)は本名なのかは知らないけど、名前とルックスのイメージによく合う、男性としてはとてもKEYの高い、透明で甘いトーンの歌声だ。

 繊細そうで清潔感のあるルックスがヴォーカルと合わさると、妙齢の女性はひとたまりもなくポォ~ッと見とれてしまうようだ。一生懸命に励ます歌詞にも、助けられるキャリアウーマンが居るかもしれない。

 いずれにしろ、実力派というよりイメージ先行でTV番組露出が多くなり、シンガーソングライターには稀有な人気の在り方を作り始めていた。

 後々、バンドのグループやソロにも増えて行ったタイプではあるけど、ビジュアル系とは違うジャンルの先駆けみたいな存在に映っていた。
 多分、デビューは遅い。アイドルから路線変更したのでは❔という感じのアーティストだった。対外的には。

 私はまだまだ、スポーツ選手としてもインストラクターとしても、スノーボーダ―を辞めてしまう気はない。
 ゲレンデにだってイケメンは居るけど、惹かれたりなびいたりしても、まともに向かい合ったり、彼女としては誰とも付き合おうとはしていない。

 自分の夢や目標を犠牲にしても追いかけたり助け合ったり蜜に接したりしようとはしていないので、逆に言えば、それほど惚れてしまう出逢いもなくても、良かった。
 学生時代から付き合っていた彼氏もフェイドアウトしてしまった今、恋心や愛情が無くったって幸せを感じる状態。
 人間関係にも、恵まれているからかもしれない。

 他人と違う価値観かもしれないので、あまりおおっぴらには告げないけど、そういう自分も好きで居られて、その自分を丸ごと受け入れて好きでいてくれるなら、自分も相手へもっと歩み寄れるのかもしれない。

 だけどいつか、『燃え尽き症候群』みたいに、私もゲレンデに居ても心浮かない日々が、やって来るのだろうか。。。

 でもでも。『気が済んだ』のなら、それで辞めても良いではないか。その日が来るまで、没頭していたいのだ。



Vol.1‐③

 今夜も黒田玲苑から、河隅美咲のスマホにメールが届いていた。

 現在は、ほぼ五条通り沿いのホテルに宿泊先が変更されているが、最初の邂逅は美咲が常勤で働いてるホテルのスーペリアルROOMの常連だった。
 地下1階の和食会席バーで夕方からはウェイトレスをしている頃、ベルガールとしてROOMサービスを運び、配膳したのが初対面だった。

 接客の仕事柄、美咲は愛想が好いし、黒田玲苑だけがベルガールを呼び出す顧客ではない。

 仕事が上手く運ばなかったのか、不機嫌をもろにぶつける客だった。

 美咲は、TVで見かける優し気な笑顔や高いKeyの甘い声とは、全然イメージが違うと感じたが、そこは「フォローしてナンボ」のサービスウーマンである。和やかな会話を心がけながらも、近づきすぎずプライヴェートには立ち入らない触らない。

『海鮮ちらし寿司の差しチョコが無い!』

と、再度同じベルガールとして美咲は呼び出され、低姿勢ながらもなだめる声色で、ゆっくりと説明した。

『関東のご出身なのですね❓大変申し訳ないです』
 美咲は深々と頭を下げて謝罪し、続ける。
『魚介の1枚1枚さしみ醤油につけて、しゃりノシに乗せて召しあがられますか❓』
『あ、いや。九州出身なんだけどね。
 そっか。京料理ではどうやって食べるんだ❔』
『はい。この、ワサビと薬味の深い目の小皿に、直接さしみ醤油を入れて、溶いて混ぜてから寿司飯に万遍なくかけるのです。
 そうすると、差しチョコは無くてもよいし、無駄なく1度かけるだけでお好みの濃さで、合理的なのです』
『なるほど🎵ありがとう!
 京料理って、手の込んだ事するイメージあるけど、意外と時短するんだ❔へぇ~』
『そうなんですね。ぁ、でも作り手側の板前さんは手間暇かけて素材の良さを活かした調理を心がけてます。ただ、お客様には、出来るだけお手数をお掛けしない姿勢だと、調理の者が申しておりました』
『なるほど。すごい。さすがプロの心掛けは違うんだね⁉』


 意外に素直に感激する人なんや。。。美咲の方でも無理なく自然に笑顔がこぼれた。
『京都は昔から、職人さんの街だからだそうです。
 朝から晩までモノ造りに没頭してると、どうしても食事は時短しなくてはならないので、合理的な食べ方や、意外にイマドキの京都人も朝からパン食やサンドウィッチとかが多くって。
 夕食も、魚屋さんで調理してある出来合いのモノや〈おばんざい〉を店先で買って来て、すぐ食べられる方法を取るんだそうです。専門家の作った美味しいものを、手間かけず食べる習慣から来てるそうですよ』
『へえ~。それならお公家さんも大満足だね』
『ですねぇ。専門家の作ったモノを手早く用意できるんですから、ねぇ』
『良いこと聞いた。ありがと。それって、板前さんの彼氏の受け売り❔」『あ、いえいえ。厨房の人からですけど、彼氏じゃないです』

 笑ってごまかしたが、上機嫌な笑顔に戻ってくれたので、なんとか大事には至らずに済んだ。
 あんまり長居も出来ないのに、被せるように質問攻めされた事には、美咲も少々引いてしまった。

 最初はそんな感じで和やかな会話で、印象も悪くはなかった。
 だが、次回の宿泊でも、ルーム・サービスの度にベルボーイ、ベルガールを名札で覚え、指名して呼び出すようになった。

 たしかに、旅館や料亭ではよくある。ホテルの和食店舗でも、受け入れ態勢の会社も存在する。
 だが、ことわりにくいが美咲の所属する会社では善しとしない。理由はあるが、京都人の気質上の距離感でもある。

 他の従業員に訊く事は出来なかったが、スマホの番号だけは伝えるわけに行かない。予約のメールは会社のパソコンだが、ハッキリ名指しで河隅美咲あてに出勤している日に頼むようになったのには、困惑した。

 寂しがり屋なのか、誰かとくつろいだ話したいだけなのか、なんとなく人気商売の人の孤独を理解出来たが、とにかく、プライヴェートに付き合う彼氏でもない限り、これ以上は仕事柄近づく事はできない。

 一応店舗のサービスチーフとして、伝えておかなければ。。。

 と、姿勢を変えたくない言動は、最初のうちになし崩しに実行出来なくなって行った。

 付き合っているわけではない。黒田玲苑も、まともに勤め人のように週末ごとにデイトというのは、できない。美咲も、今はスノーボーダーとしての自分の妨げになる関係は、続けられない。

 何より、黒田玲苑が思っているほど、美咲の方で惹かれていなかった。
 彼の歌やLIVEは、癒しや励ましにはなっている。だけど、学生時代の恋人みたいな関係は望んでいない。恋心が沸いたにせよ、それを育てようともしていない。

 恋や愛より楽しい幸せなことが有り、まだまだ選手も辞める気が無い美咲は、あいまいな繋がりのまま、先へ進む促しを黒田のスタッフから感じていても、乗り気には成れなかった。

 そのあいまいさが、後々に本当に向かい合う相手と出逢ってから、妨げや疑惑になって行くとは、まだこの時点では美咲も予兆さえ感じ取っていなかった。



 なんだかんだと出会いから半年ほどが経過した夜、黒田玲苑が口にした言葉を、河隅美咲はずっと気にしている。

「僕、もうすぐセミリタイヤしたいんだ」
〈セミリタイヤ〉が〈引退〉とはどう違うのか、美咲は今だに分かりかねている。黒田が宿泊しているホテルのロビーに在るカフェラウンジで、3年経過したつい最近も、同じ事を語っていた。

 ベルガールとして配膳に伺った時に、初見では意味がまったく分からなかった。人気絶頂に見えるのに、辞める事考えているなんて体外的にはオクビにも出さないし、何故なのか語ってくれても、どうしてステージで歌う事を止めなくちゃいけないのか、要領を得ない。

 当たらず触らずにしか接しない自分に、言い淀みながらも何故語るのか、よくわからない。もっと身近に親身な彼女が居るだろうし、噂レベルでは複数の熱愛報道とやらが、メディアで流れている。

 立ち入った話を訊き返すわけにも行かず、ただただ最後まで語るのを受け止めていると、カップのコーヒーが冷めてしまっていた。呼び出されなければ、美咲も勤務から帰路に着いていた筈。

 先日の、その夜。ファンや〈追っかけ〉らしき女性の姿も、今夜は見当たらない。遠巻きに側近のマネージャーが一人、待機しているだけだ。

「今日は何かあったんですか❓何年か前にもその話聞いたけど。いつもなら、こんな第三者の出入りの多い所で、お話はできないから」
「あ、いや特には何も。
 そのセミリタイヤの話したのって、3年前でしょ❔」
「多分」
「3年前に決めた時点で入ってたオファーやスケジュールが、やっと片付くんだ。このLIVEツアーが、埼玉スーパーアリーナで終わったらね。あと半年足らずなんだ」
「、、、そうなんですか」
「活動休止では、ダメなんですか❓しばらくだけ、みたいな。
 まったくメジャーなメディアから退くってこと❓LIVEももう、ツアーやイベントを演らないって意味なのですか❓」
「いや違う。無期活動休止。期限を決めないけど、全く引退してしまうわけじゃないんだ。
 美咲ちゃんとの関係性を、変えたいんだ。職種を変えて、お勤めの仕事を辞めてほしい」
「えっ❓」
「僕としっかり向き合ってほしい」
「それって、、、今なんて❓もいちど」
「男と女で、ちゃんと付き合ってほしい」
「。。。」

 美咲はハッとして、側近の男性マネージャーの方を振り返った。話の内容が想像ついているのか、彼は深く縦に頷いた。


 必要最小限しか会話もしたことがないその男性マネージャーは、いつも暗黙のルールのように目線でモノを云い、頷いたり顎で指示したりする。
 このマネージャーでなくっても、職場では遠くから目で合図して宴会のアシストする事はあるから、だいたい予測で動くけど。親しく接してもいない人にイチイチ指図されるのは、あまり好きではない。特にこれは、プライヴェート時間なのだから。

 唐突すぎる。

 会う事を断りにくい状態に作られて、なし崩し的にホテルウーマンのフォローのように従わなくては、ならんの❓
 そのまま主従関係が移行したように行動を制限されるのは、自由奔放やなくったって、辟易するやろ。。。
 これはある種のパワハラかモラハラ、カスハラ(カスタマー・ハラスメント)やろ。。。

 好かれてるのは感じるけど、私は仕事の延長の域を出ない行動しか、取っていない。もちろん彼女である認識は、無い。

 いきなり❓年上の男に、よくあるアプローチやわ。
 あのマネさんも同じ年頃やろ。まいったな。。。

「あの、、、ここまでのこのこ来といて、こんな事そんなつもりじゃないって、言うのも変ですが。
 ごめんなさい。勤め人は辞められません。ガッツリ付き合うのも、出来ません」
「えっ、なんで❔」
「なんでって。。。私、冬の間の仕事のために、夏場は自活しなくちゃいけないんです。その手段としてホテルウーマンやってるんです。任されてる担当のキャリアもあるんです。
 ちょっと返事はできません。マジで向かい合うってできません。その説明しなくちゃいけませんか❓」
「ちょっと待てよ!そんな早口で言うなよ。意味わからん。
 僕のことキライ❔」
「いえ。好きも嫌いもないです。いきなり」
「、、、キライじゃないんだね⁉」
「いえだから。。。好きも嫌いもなくって当たり障りない話した事しかなかったです!」
「、、、怒んないでよ。キライではないって判ったから」

 美咲は言葉を失くした。男性マネージャーが近づいて来た。
「玲苑。この子めっちゃ正直に言ってるだけだ。
 騒がしくなるから、日を改めて次回にしろよ」

 美咲は胸を撫で下ろした気分で、少し落ち着く。年上マネージャーが続けて、問う。
「冬場の仕事って、何?」
「スノーボードのインストラクターです。選手権にも出場してるんで、冬は逢うの、無理ですよ❓」
「そっか。スノボのインストラクター!それは、好い。
 良い良い。有りだそれ。それは、続けたいの❓」
「はい。だから、ガッツリ彼女みたいに付き合うの、無理ですよ❓」
「僕だって、しょっちゅうしょっちゅう逢えないよ」

 あくまで食い下がって来そうな黒田玲苑。もの分かり良さそうで穏やかだが、黒田の気持ちに応えていく意志を見せた、男性マネージャー
 美咲は深い座り心地のソファから立ち上がった。

 深々と、ホテルマンのクレーム対応みたいなお辞儀をして、告げる。
「申し訳ないです。見逃してください。そんな事、即答できませんし、考えてもいませんでした。
 気づかなくってごめんなさい。接客の仕事上の愛想の良さだと、思ってください。失礼いたします」

 踵を返してスタスタと歩き出した美咲の背中に、もう一度、黒田は声をかける。
「また、次回を作るぞ⁉京阪神に来るから。よろしくな⁉」

 振り返って再度、美咲は90度のお辞儀をする。黙ってそのホテルの回転扉をくぐり、外の五条通に出た。

 弦人くんなら、どういう対応するんだろう。。。

 あの黒田玲苑よりも後に出逢っているけど、もっとすぐに打ち解けて、すでにゲレンデに住み着いて仕事してる事は、分かっていた。

 こういう強引さは、ない。
 ないけど、、、ないから同じような間柄のままなのかな。。。

 当たり前にいつかは、近い未来の事として考えなくてはならない事だ。
 だけど、選手デビューしてからも、まだ2シーズンしか越えていない。その『いつか』が随分早く来てしまった感が、あなた美咲には根強いのだ。

 まだ、話し合うのは怖い。弦人くんも、順調にライヴハウスで観客動員数を増やし始めたばかり。お互い、逢う暇もない。電話とLINEだけだ。

 けれど、決めておかなくっちゃスノボに没頭もしにくいかもしれない。
1人の競技者として。
 そろそろ、切り替えなくっちゃ。。。ゲレンデ・モードの私に、シフト・チェンジ。

 それにしても、明るすぎるお月様やねぇ。。。

 半月の月明かりは、昼間以上にクッキリと明るい。
〈五山の送り火(大文字焼き)〉も過ぎて行き、季節はこれから紅色や黄色の深い秋模様に、移って行く。

 この半分の月、なにげに赤い。〈ストロベリー・ムーン〉は満月の夜のはずだけど。。。❓



Vol.1‐④

「お客さん、お客さん!?もう終演しましたよ?」

 青いスタッフジャンパーを着たイベンターの警備員が、アリーナ席ひな壇の客席の、1人に声をかける。

 カクンと、頸をうなだれたまま、その客は微動だにしない。
 真っ白な、ボア襟付ツィ―ドコートをまとったその女性客は、サイドの髪と前髪が垂れ落ちて、顔を覆っていて表情は視えない。

「まいったなぁ。眠っちまってる?独りで来たかな。。。」

 イベンター・バイトの警備スタッフは、同じ青いスタッフジャンパーを着た、同じように若い仲間を振り返る。
「おい。まだ残ってんだよ、もう閉館するのに。来てよ、ちょっと!」

 大きな声で仲間を呼んでも、全然動かず上半身は前にうなだれたままの、20代くらいの女性。
 右片耳ピアスが、長い目の極細チェーンで、揺れている。

 バイト警備員の報告で呼び出された、年配のスーツ姿のイベンター担当者は、その星型チャームのアメリカンタイプ・ピアスを見て、思わず呟いた。

「ポラリスか。。。顔上げたらチェ・ジゥだったりして」

 担当アーティストがLIVE進行真っ最中は、ホール扉外のロビーや喫煙エリアで見かける、現場のイベンター側では1番エラい人らしい。
 後ろに控えた若いスタッフは、そんな昔の韓流ドラマキャラなんか知らない。BTSやKARA止まりだろうか。

 スーツ姿の担当者は、軽く優しく、右肩をトントンと指先で叩き、起こそうとする。その時足元のひな壇の床を見た瞬間、ハッとした。

 真っ白なショート・コートの下から、真っ赤な鮮血がしたたり落ちている。血液の雫が、前列のシート席の脚元に溜まり始めていた。

「うわっ!ちょっと女子スタッフ呼んで来て⁉
 誰でもいい。ベテランのやつ」
 
年の功で、ひょっとしてな、判断。
「妊娠してたかもしんない。ちょっと、警察、、、イヤ119番の方だ」

 青いジャンパーのスタッフの一人が、119番通報のスマホを耳に当てている間、男性スタッフには背を向けさせて取り囲んでもらう。
 呼ばれたアラフォーくらいの女子スタッフのベテランが、気を失っている様子の女性の、コートの下の衣服を確かめる。

 むしろ、外傷だった。ショート丈コートの下はかなり薄着で、直接衣服に外傷の跡は無かった。ノースリーブのアンゴラセーターには多少の血痕は付いているが、殺傷キズは生地にはない。
 けれどアイス・ブルーのそのセーターの裾から、ツイード・スカートやショート・ブーツにまで、血液がこぼれていた。分厚い80デニール以上の黒いタイツには、固まってどす黒くなった、血液の跡。

「おい!救急車来る前に、外のファンの固まり、追い返すんだ!
いいな⁉関係者以外、敷地内に残すな。
招待客もだ。みんな帰せ。すぐやるんだ、行け!」

 スーツ姿の年配イベンターの指示で、青いスタッフジャンパーの面々はそれぞれに散って行った。
 ベテランらしき青ジャンパー・スタッフが細かく手分けの指示をして、外回りの青いロング・ダウンコートのスタッフにも伝令を頼み、部外者の締め出しを始める。面倒な事態を少しでも軽減するためだ。


 ベテランのアラフォー女子スタッフが、腕時計を確かめる。
「閉館まで、あと1時間もないです。
 トビの舞台こわす人達以外は、ホール内から出てってもらってください。アーティスト側には伝えますか❔」
 
女性スタッフの問いに、スーツ姿のイベンター側担当者はしばし、考え込み沈黙した。

「、、、報告はしておかなくっちゃ、な。身元が分かっても、事務所側とは関係ないだろ。現場じゃなくって、〈統括〉の佐々木さんに報告するよ。
今日、来てるし」
「わかりました。私はここに残ります。お願いします、そっち」
「分かった。救急車来たら連絡しろ。
 オイ田中。おまえ外で救急車の到着を見張ってろ。ここまで誘導するんだぞ?ブタカンさんは?警察にすぐ伝えるかは、相談するよ」
「はい。とりあえず、楽屋の佐々木さんに!」

 
大きく縦に頷いたスーツ姿のイベンター担当者は、足早に楽屋に向かって行った。
 入れ違いで、異変に気付いた舞台監督が、潰されかけているステージの方から、アリーナ席後方に向かって歩いて来る。

「、、、ふたり、、、できる。知らせに。。。」

 不意に、負傷者の白いコートの女性が訴えた。息絶え絶えにしゃべるので、何の事かは分からない。分からないなりに、ベテランスタッフの女性が、かすかに意識を取り戻した白いコートの女性を励ます。

「大丈夫。気を失っただけね❔友達は❔独り❔」
 
言葉にならないが、縦に弱々しく頷いた。
「今、救急車来るから。大丈夫。しゃべらなくて良い。助かるよ❔」

 一生懸命に声かける女性スタッフの元へ、側近の若いマネージャーと、ベテランイベンターのスーツ姿と、それより少し若い30代くらいの〈統括〉マネージャーが近づいて来た。
「どうだ?息はあるか?」
「大丈夫です。さっき、うわ言みたいに何か言ってました。よくわからないけど。伝えたかったみたい」
「どこか刺されてるの?」
 
女性スタッフは首を横に振る。
「わからないけど、上半身みたいです」
「刃物?」
 
また女性スタッフが首を横にかぶりを振る。統括マネージャーである男性が、告げる。
「警察に依頼しよう。下手な推測するより正確だ」


「それにしても、あいつ、ひでえ態度だな。ファンが酷いケガ負ってんのに『ライヴが済んでから見つけられて、好かった』だって。LIVE中に刺されても分かんないくらい、キャーキャーワーワーなのに、な」
 チラッとキツイ視線でイベンター担当者を睨み、感情を抑えてから統括マネージャーが、応える。
「すまん!あいつは、ああいう奴なんだ。色々あってちょっとひねくれてしまった。悪いな。これからも担当で居てくれよ❔」
「わかってるよ。
 佐々木さんに免じて、うちのイベンター処理にするよ。ただし、あいつ。黒田玲苑を早く館内から追い出してくれよ。楽屋で呑み始めたぞ?以前はもっとこっちを慮ってくれてたよ。なあ⁉」
「わかってる。TVに出なくなってから、素行が本来のあいつらしくなったのかもだ。許してくれ。
 好感度高い男を演じてなくて済む分だけ、少し楽に成るかと思ったが、反動で荒れ出したんだ。それでも興行収入は増えてるんだから、ちょっと眼をつぶってやってくれよ」

「ごめん。佐々木さん。悪かった。
 TVや動画だけで済ませてたファンが、ライヴにも来るようになったんだ。ありがたい事だ。すまない。黒田は、昔はあんな奴じゃなかったって、言いたかっただけだ」
 
頷いてから、佐々木はイベンター担当者の肩を、軽くポンと叩いた。

「、、、ふたりで。。。」
 女性スタッフの腕の中で、もう一度白いコートの女性がうわ言をこぼした。本当に意識があるのを、確認する。
 ぐったりして眼をつぶっているが、メイクの崩れた目尻と眼頭に涙が溜まっているのを、イベンターと統括マネージャーは、見届けた。

 警視庁から、捜査一課と初動捜査班が到着した。
 閉館して後、トランスポット車の大型トラックが2台、次の街へ向かって発車した。
 現場も、人の出入りが封鎖された。もちろんまだ現場検証完了するまで、明日以降しばらく、このホールは使えない。


 警視庁捜査一課の谷警部は、一旦、お堀の外側の霞が関方面へと移動した。振り返り、〈日本武道館〉を遠くから眺める。

『大きなタマネギ』とは、よくぞ言ったもんだ。そのまんま。
 この武道館。初めて音楽で使ったのはビートルズらしいが、こんな事件が客席で起こったなんて、初耳だ。

 谷警部は、千鳥ヶ淵まで再び近づいた。伝統ある武道と音楽のホール外観を近くからも見つめながら、スマホで連絡する。

「ぁ、イヤ。1つ気になってな。アーティスト側やイベンターには黙ってろよ❔被害者女性のショルダーバッグの内ポケットから、招待状の封筒が出て来たんだ。
 ああいうのは、仕事関係にも配るもんなのか❔
 身内でなくても〈INVITATION〉の封筒を受け取るのかい❔
 誰かにプレゼントでもらったか❔」

 谷警部が、レスポンスに対してニヤリと口角を上げた。
「そうかい。音楽関係者には黙ってろよ⁉
 向こうから言って来るまで、な!」



Vol.1‐⑤

「面会ですよ」
 若い目の看護師が、初対面の2名を案内して来た。

 このベッドは自動で上半身を起こせるタイプだが、この角度では、窓の外の空模様は分からない。片側2車線の道路を挟んだ向こう側の、背の低いビルしか見えない。

 上体を動かすな、と安静を強いられるのは、この入院が初めてではない。またしても腎臓をやられてしまったのだ。今回は人為的に、だけど。

 河隅美咲は、窓の外に眼を凝らすのを止めて、自分で上半身を垂直に起こした。面会者の女性の方は、アラフォーくらいの赤ぶちメガネをかけたショート・ボブ・ヘアで、花束を抱えていた。
 なぜだか白い薔薇と白い百合だった。その気はないので、美咲はクスッと口元に笑みを浮かべる。

 私にもファンが居た❓

 もうひとり同行の面会者は初老くらいで、美咲の笑みが分からない顔をしてから、髪の薄い頭を少し傾げて、警察手帳を見せた。美咲はこの男女の訪問を理解した。

「帝都ホテルにお勤めの、河隅美咲さんですね❔」
「はい。河隅美咲です」
「警視庁捜査1課の谷です」
 
刑事ドラマによくある邂逅だと、美咲は感じた。

「お腹のケガの具合は、いかがですか❔」
 
女性が尋ねる。
「おかげさまで。縫合の糸が溶けたら一旦退院できます」
 
頭髪の心もとない谷警部が、頓着せずにまた尋ねる。
「一つ訊きたいのですが、貴女のお勤め先のホテルでは、ここ、病院の個室を用意してくれるのですか❔休日扱いなので、労災保険は降りないですよね❔実家が裕福とか❔」

 ネル地パジャマの上に羽織ったカーディガンを直しながら、美咲は苦笑して見せた。
「たしかに。労災は使えませんし、実家も普通に公務員です。
 この府立医科大の付属病院で個室に入れたのは、スポーツ・メーカーさんのおかげなんです」
「と、言いますと❔」

 赤ぶちメガネの女性は、黙ってはいたが持参した花束を活けようとした手を止めて、美咲を振り返り眼を見張った。
「ぁ、その花瓶に昨日から花を差してくれてるのも〈カジガヤ(梶谷)〉っていう、スキーやスノーボードの販売メーカーで、担当さんの女性なんです。
 ホテルの会社側でも理解してくれてます。
 私、冬はゲレンデで選手をやってて、まだ、スポンサーという程でもないけど、かなり援助があるんです。
 あの当日も、午前中はゲレンデに居ました」

「その辺は、こちらも調べさせてもらいました」
 
白い百合を差す手が止まり、百合の花粉でむせた、女性。けれども口は挟まない。
「前日、宮城県の蔵王でイベントか大会に、出場もしくは出演してましたね❔」

「はい。出演です。カジガヤのボードは国産なので、選手のかたわら広告塔も兼ねた仕事で、フリースタイルのスノボのショーに出演していました」
「やっぱりそこか」
「はい。お腹出血したまま、新幹線に乗り込んで、上野駅から武道館までなんとか、辿り着きました」

「招待チケット、もらってたんですね❔」
「はい。公式な招待ではないようですが、招待用の封筒に入っていたのは、当日のあの席のチケットです」
「武道館の」
「はい」
「アリーナ席の」
「はい」


「なるほど!」
 
おもわず口走ってしまったのか、赤ぶちメガネの女性はすぐ口元を塞いで、首をすくめた。谷警部が女性を振り返り、眉間にしわ寄せて眉も吊り上がった顔で、一瞬睨んだ。

 だが、咎めずに質問を続ける。
「その事を知っていた人は、誰ですか❔」
「、、、ソロLIVEの本人、クロダレオンさんと、手配してくださったイベンター担当者の岩崎さんです」


 谷警部は軽く右手を上げ、何かを了承したように会話に区切りをつけた。「ありがとう。今日はこのくらいにしておくよ。悪かったですね。まだ傷口も塞がらないのに。
 後日また、鑑識の結果を聞いてから、伺います。 血痕が付着してたので、あの招待用の封筒も預かってますよ❔」
「、、、かしこまりました」
 
 美咲はホテルマンの30度のお辞儀をした。

「事故ではなく、被害者ですよね❔」
「、、、はい」
「この2人しか居ないので、かばったりせずに答えてくださいね❔
 河隅さんは、黒田玲苑の恋人ですか❔」
 
美咲は首を横に振った。

「黒田さんの彼女ではありません。勤め先のホテル宿泊の常連さんでした」「今はちがう❔」
「はい。常宿は、他社に替わられました」
「誰の都合で❔」
 
美咲は首をかしげる。
「分かりません。関西は主催イベンター会社が関東とはちがうので。多分、武道館の首都圏の担当イベンターさんとは、関係ないのでは❓」
「よくご存じで」
「リストアップされる顧客さんなんです。京阪神のイベンター会社は、私、昔からLIVE行くの好きで、チケット購入者としても社名を知ってました。
 浜田省吾さんの大ファンなんです」
「そこか!ありがとう。
 長くなってすまなかった。この人、置いて行くよ。話し相手してくれる。っていうか、俺に話しにくい事、この人に語ってやってくれ。大丈夫だ。警察じゃないんだが、身内みたいな知り合いだ」
「はい。わかりました。、、、あの、犯人の目星つけてるんですか❓」

 谷警部が振り返って答える。
「ああ。なんとか、アリバイ崩してやるよ。待ってな」
「。。。」
 
美咲は黙ってまた、頭を下げた。

 谷警部が病室の横引きドアを閉めて、出て行った。花を持参した女性が、やっと美咲に声をかける。
「ごめんなさいね、ぶっきらぼーなオッサンで。
 あたし、照美。府警の警部さんのお友達。けど、あの人は別で、勤め先のお客様、ね❓」
「、、、はい」
「言いにくそうな事、、、知ってるかも」
「ええ」
「噂レベルで」
「はい」
「あの警視庁の谷さんに頼まれたんやけど、気持ち的には京都府の警察と、警視庁の人、別やから」
「、、、それって。スパイみたい」

 フフフッと鼻梁にしわを寄せて、ヒカルこと輝美は笑顔を見せた。一度眼を伏せてから、美咲は窓の外のどんより曇天を眺めてつぶやく。
「今シーズンは、まともに大会やショーには、出られないかも。。。」
「そうなんや。でも、頑張って直そ❓3月くらいには、滑れないかな❓」「ええ。大丈夫。4月や5月も仕事は有ります」
「よし!あたし応援する!河隅さん。
 あたし、貴女みたいに好きな仕事に一生懸命没頭するるヒト、好きなんよ。寂しい時は、呼んでね❓」
「ありがとう!おおきに」
「サインくれる❓」
「あぁハイ。まだ、慣れてないけど、用意しておきます」
「ありがと~~♫」



Vol.1‐⑥

 ヒカルこと輝美にとって、西陣エリアは通い慣れた場所。もちろんそんな所在地住所はない、と知ってるけど。

 古民家という程には年代物でもなく、大正レトロくらいの長屋風メゾネットの〈うなぎの寝床〉も珍しくなく、店舗やアトリエの和モダンリフォーム家屋が並んでいる。

「ここ!あたしの彼氏が働いてるとこ」
 
輝美が、3階建てペントハウス有りの赤レンガ造りカフェを指差した。「カフェのマスターなんですか❓」
 
輝美は首を横に振る。
「2階3階は、探偵事務所。1階は大ボスが道楽でやってるだけ」
「納得しました。警察と繋がってるのは意味分かんないけど」
「それはね、表向きマル秘㊙
 料亭にとっても、この事務所でも、大事なお客様よ?でも谷警部は、本人が足で稼ぐタイプだから。
 けど警視庁の人が、しょっちゅう京都に来る訳に行かないみたい。ここの探偵社は、マル秘事項は言い出し値から交渉に入るらしいけどね」

「あ、分かります。
 スノボの選手も、経費節約しないでクラスUPばかりして移動してると、スポンサーが交渉に入って、離れてく事あります。ホテルマンの備品備蓄使い込みは、言語道断!ですけどね。
 だから、個人的に探偵雇うのもどうなのかな❓って」
「そうだよねぇ。なるほどねぇ。世知辛い世の中やんねぇ」
 L字型のカウンターに、並んで席を確保した。


「いらっしゃい。菅原君は、本日は3階。〈コンクリート打ちっぱなしモテ部屋〉にいるよ❔」
「ありがとうございまーす。
 あ、美咲さん。マスターは高等裁判所の元所長なんや。ここん家、社員さん全員法学部出身やさかい、安心して?
 あっでも、眼鏡の経理さんはデキルヒトやけど、ジャニ・タレ推しやからね?エンタメ報道ネタは、ナシね⁉ご機嫌豹変するさかい。よろしゅう」

  マスターの政之叔父が含み笑いしながら、頷いた。

 前もって、この注意事項を教えてくれた事が、後々、とても助けに成ると、この時点では知る由もない、河隅美咲
「、、、わかりました」

 マスターが、今時珍しいサイフォン式ドリップでブレンドのホットコーヒーを立て始める。
「あたし、2階で話つけて来る。待ってて。マスター、あたしのコーヒーちょっと待ってて?」
「あいよっ!」
 
政之叔父は一瞬遅れで愛想よく返事した。

 依り眼気味にジィッとロートを見つめながら、ヘラでゆっくりロートの液体をかき回す。フラスコに落ち始めたブラウンの液体を確認してから、アルコール・ランプを下げる。その後シンクの食器を片付け始めた。俯いたまま、輝美の後ろ姿に声をかける。

「輝美ちゃん。2階の雅哉にも一応、伝えておけな❔仕事っぷりはともかく、俺と雅哉は共同経営者なんやさかい。
 君の道兼君とは、立場がちゃうゾ❔」
 
階段の途中で振り返った輝美は、応える。
「あ、はい。大丈夫。ここに繋ぐだけ。うちの女将さんの代わりに」


 
一旦降りて来て、マスターに差し向かいに小声で伝える。
「警視庁の谷警部からの依頼なんです。そやから、府警の佐藤さん、絡むかもやし、雅哉さんには必ず」
「分かった」
 
シンクの洗い物の泡が輝美の眼前に飛んで来た。

「女将さんはもう、そういうの引き受けないって。スパイみたいのは。
 小嶋さんのおかげって」
「伝えといてやれな?雅哉に」
「はい。佐藤さんの為なら、CIA並みにやるかもやけど❔」
「それは言うな。一応、雅哉の元カノや」

 そばで聴こえている美咲は、分かったような分からないような会話を、スルーすることにした。

 ホテルウーマンの『性』ィャ『業』だ。守秘義務事項だ。周りの客をキョロキョロ見渡してみた。誰も今の会話には無関心みたいだった。

 政之叔父マスターが気にかけて、笑顔で声かける。
「あ、いいのいいの。他は2組しか居ないし、みんなこの時間帯は、常連さんが自分の決まった席で決まったドリンク飲んでるだけ。他人の事に関わる時は、ちゃんと声かけるよ。暗黙の了解」
「、、、なるほど」

 美咲は、それなりに京都人らしさを、理解した。

 階段をまっすぐ昇り切った2階の踊り場で、ヒカルこと輝美は一度深呼吸する。好き嫌いではなく、相性的に居心地に違和感があって、ちょっと構えてしまうからだ。でも料亭の接待課長らしく、愛想を忘れない為の、慮り。

 木製の扉を開けて、笑顔を作る。
「雅哉さん、こんにちはっと。
 本日は、谷警部からの依頼で3階に来てます」

 小嶋雅哉は、リクライニング・チェアの〈役職椅子〉で背中をむけたまま、返事する。

「おう!来たのか。今、仙台の蔵王ゲレンデを調べてるとこや」
「はやっ。。。」

 料亭「たちき」の女将である真澄から直電があったので、例の『凶器が無い殺人未遂事件@仙台』について、概要を聞いていたのだが、触れずにおいた。真澄さんにスパイ的行為を頼まずに、自分でオレや探偵社に頼めよ!と、警視庁の谷警部に直接言ってやるつもりだからだ。

 女将がダメならヒカルちゃんかい⁉
 単にアプローチのきっかけを、仕事にかこつけただけやろ⁉

と、内心憤慨やるかたないのだ。
 年上の男らに有りがちな、不埒な恋心やんけ!

その憤慨のまま、今カレの府警の佐藤警部に同調を求めたら、
「いいんじゃない❔真澄さんはそうやって、あいまいにお客を繋いでおくのかもしんないしィ♪」
と、意外とアッサリ交わされてしまったのだ。

なんてこった!真澄は嫉妬しない男が好きだったんだ!
オレは真澄に嫌われることばかりしていたのか。。。

と、SHOCK!を受けている事をごまかす為に、調べものに没頭してみたのだった。PCのWikiやスマホのOK!Googleでも載っていそうな事をわざわざ、ゲレンデ案内のパンフをコンビニから引き抜いて来たり、百科事典で「蔵王の樹氷」と字引してみたり。

 で、疲れて一服して、調べ物からそっぽを向いて、何も手をつけないでいた、、、所へヒカル君がKNOCKしたのだ。
「、、、ねえねえ。聴いてます❓雅哉さん」
 雅哉はまだ背中をむけたままで、無反応。
「ちょっと!3階の道兼君に仕事まわしますよ⁉」

「待った!」
 間髪入れず、雅哉はクルリと『役職椅子』を回し、すぐさまヒカルと差しで面と向かい合った。


「道兼君は、離婚や別れさせ、とか男女問題専門や。オレに回してくれ」「あ、、、どっちでもいいけど。また、女将さんに会うきっかけにしようとしてやしませんか❓」
「キミね。オレは、麻衣子の彼氏だ。
 麻衣子は浮気は許さんし、ヤキモチ焼いてくれるのは嬉しい女だ。分かるか❔オレは麻衣子ひと筋だ❕」
「いつから❓」
「、、、今日からで良い。でっ❔それも男女問題絡むんけ❔」
「めっちゃ匂います!クサイです。
 今そのスノボ選手女子、下に連れて来てます、、、ぁそうだ。道兼君より雅哉さんの方が、話し易いかも」
「なんで❔」
「コマシじゃない方が、警戒しないので」
「そういう子❔」
「まだ決めつけるのは、どうかと、、、」
「臭うんやね❔」
「はい。男が2人以上追っかけてます」
「二人以上❔」

 眼をシロクロさせて、雅哉はしばし思案した。
「じゃ、こうしましょ。この〈和モダン部屋〉に道兼君も呼んで、ここで、3名とスノボ女子で話し合いましょ❓」
「そりゃいい。いいイイ。ちょうど男2対女2になる」
「へーんな計算!」
「2カケル2でも、2タス2でも同じやろが❔」
「はい。呼んできます」
「あ、コーヒー4つ、プラス経理の真希ちゃんで、5つね❔」
「あの、、、依頼人に配膳頼むんですか❓」
「キミは配膳のヒトですよね❔お仕事してください。
 今日は、神田君が公休なんです」
「、、、りょーかぁい」

 ヒカルは1階に降りて政之叔父にコーヒーを5つ、2階へ運ぶようにお願いして、内線で菅原道兼に連絡する。
「今から、2階で例の凶器ナシ事件の会議します。経理の真希さんと来てください。コーヒーはマスターが持って来てくれます。被害者のスノボ女子、連れて来てます。雅哉さんは、ご機嫌がナナメです。以上」



Vol.1‐⑦

 対外的には、この『凶器が無い殺人未遂事件』『不慮の事故』として処理された。

 事件発生当日、河隅美咲は都内の緊急対応の病院へ救急車で運ばれ、腎臓に達した傷口を、止血と縫合で処置し、1泊した後、そのベッドごと京都市内の府立医科大学付属病院へ移送された。

 一泊して、MRI検査など十数種の検査の後、また個室入院へと切り替えられ、動けないまま喋れないままなすがまま、安静にベッドでじっとしていた、数日。

 静かな環境の度が過ぎて眠れないので、8日後には退院していた。
 独り暮らしでも自宅の方がよく眠れるし、激しい運動やましてやスノーボード履いた仕事などもっての外の絶対安静だが、自宅でじっと安静するという約束の元に退院したのに、迎えに来たヒカルこと輝美と外食に出て、たくさん歩いた。

 今のところ、お腹が裂けたという事態もなく、驚異的に早い回復に〈ほうれんそう〉したカジガヤ・メーカー担当者も、ビックリマナコ。
 府立医科大病院の担当医は、『通常よりも白血球が異常に大きい値でビックリしましたが、それが原因で異常に快復が速くなったので、早期退院に踏み切ります。自宅で療養ください』と、告げた。

 最初の検査だけで、この病院では寝っ転がって眠っている以外、何にもしていない。食事も普通の病院食だった。あまりにメーカーサイドの対応が素早く、美咲は何にも知らない内に京都市内でベッドに眠っていたのだ。

 連絡は、たしかにたった独りしかしていない。誰にも犯人の事情を云えなくって、弦人くんにだけ、武道館に徒歩15分の飯田橋駅に着いてから、スマホに留守電とLINEを残したのだ。

 ○ ーーーーーーーーーーーーーーーー ○
弦人くん、ありがと。
とにかく全快で滑れるまで、京都に戻れて好かった♪
不幸中の幸いですが、カジガヤの鈴木さんへの対応、
助かりました。昨日退院しました。
また、連絡します。

しばらくTOURに没頭して大丈夫(^^ゞ
From:美咲
○ ーーーーーーーーーーーーーーーー ○


 2階3階から声がかかるまで、美咲はカフェラテを飲みながらスマホでメールを送っていた。

 本件は初動捜査の3日間のみで、事件ではなく事故として送検された。
 だが、それは対外的にであり、メディア対応もしくは何か大きな圧力がかかったのでは❔と、捜査一課では会議に上がらない意見や憶測が、飛び交っていた。

 所轄事件ではない為、警視庁は関わらないという。
 被害者も移送先は京都市、事故現場の日本武道館も開館はされたので、どちらも跡形もない。

 鑑識課の担当京極精次谷警部はまだ、独自の【捜査ではない調査】を続けている。
 谷警部は、どうしても加害者を割り出したい気持ちから。それだけでなく、別件の音楽興行の組織関係と繋がる気がしたからだ。犯人は何かの組織に守られたのではないか⁈という疑惑。
 鑑識課も、またしても京都府警が絡むと警察庁のキャリアに持ってかれてしまう!という悔しさから。


ーー to be continued.


ーーー A Period of The 3rd Story ーーー






































































































































































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