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歴史小説「Two of Us」第3章J‐11

割引あり

~細川忠興父子とガラシャ珠子夫人の生涯~
第3章 本能寺の変以後から関ヶ原合戦の果てまで
    (改訂版は日本語文のみ)
    The Fatal Share for "Las abandonadas"


J‐11 ~Coming Back @MITONO~ 

 あなた珠子は、土間の囲炉裏に串焼きの鮎を数本、差し込む。蓼酢(たでず)を五人分用意しながら、塩焼きの鮎の具合を確かめる。時々、白米の茶椀盛りにも慣れてきた、お長の手つきを眺めながら。


 どうやって、この水戸野へ独りで辿り着いたのか、あなたには解せぬ所があったのだが、その細川忠興も今は五右衛門風呂から上がり、火照った顔したまま、囲炉裏の縁で〈ゆうげ〉の準備をする皆の様子を、笑顔で見つめている。


 宮津城に戻れば、比べものにならない御馳走が差し出される城主の身なのに、忠興はここに忍んで帰還する。

 伏見桃山、太閤の聚楽第との行き来には、この丹波の方が便利ではあるが、召し物を一旦、差し替えに戻らねばならない。
 その道中に、ここへ立ち寄る忠興の足取りは、軽やかで迅速だ。

 騎乗するグレー水玉の雄馬も、低空飛行する猛禽類にも見まがうシャープで勇猛果敢なアイテムであり、『ハヤブサ』と名付けたくらいだ。
 その牡馬『ハヤブサ』が、馬舎代わりの納屋でひときわ大きな一声を上げた時、ちょうど、長女のお長が角膳に乗せて「ゆうげ」を運んで来た。


 武家の姫として、意に添わぬ嫁ぎ先で苦悩するより、この乱世では、こうして農家や町民の中で生きてゆくのが、この娘は幸せかもしれない。。。
 忠興は思わず口元を緩めて、にこやかに膳を受け取った。


「お長。飯を盛るのが上手くなったな❔」
「父上、ありがとうござりまする。ここに住まう間は、父上と呼ばず『とうさま』と呼びまする」
「おう。そうか。それがしは『とうさま』なのか。珠子は何と呼ぶ❔」
「母上は『かあさま』でございます」
「あいわかった。興之丸はどうじゃ❔」
「弟君は『オキ』なのです」
「ほほう、、、『オキ』なのか」
「忠隆は忠隆様です。長男は、お長のように身を隠す謂れはございませぬ」「あいわかった。いただくぞ❔」
「召し上がりくださいませ。とうさま」

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