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虎穴に入らずんば虎子を得ず(ウソ前編)

 いまから書くことは概ねウソなのだが――本稿では古代中国の処刑方法のひとつであった「虎穴(ふーしゅえ)」について解説をしたい。


 考古学的に実在が確認されている中国最古の王朝・殷(いん)の時代の話になる。
 殷は周に滅ぼされた。「殷周革命」という言葉は知らずとも、かつて週刊の少年漫画誌に掲載され、テレビアニメにもなった『封神演義(ほうしんえんぎ)』の時代のことだと聞けば、わかる人もいることだろう。

 もちろん『封神演義』は「演義」≒史実を元にした小説だ。明の時代の著述家である許仲琳(きょ ちゅうりん)の作品である。
 だから古代中国で1500年に1度の刹劫(さつごう≒殺したいと思う衝動)にとり憑かれた仙人たちが、宝貝(ぱおぺえ)という武器を用いて血で血を洗う戦いを実際に行なっていたわけではない。

 殷の王は、紂王(ちゅうおう)といった。30代目の王であるとされ、本名は帝辛。史実では文武両道の極めて聡明な王だったようだが、『封神演義』の方では昏君(ふんちゅん)≒バカ殿、というひどい扱いを受けている。
 その『封神演義』の中で賢君を昏君にしてしまったトリガーは、傾国の美女・蘇妲己(そ だっき)を娶ったことだった。
 紂王が女媧(じょか=古代中国神話で人類を作ったとされる神様)にやらかしたしくじりの詳細は端折るが、妲己は女媧の命を受ける形で、紂王を唆すことになる。

 妲己と言えば、残虐な手段で民を殺したことで悪名が高い。「人間の死ぬところが見たい」という妲己の異常な要望を紂王は受け入れ、様々な処刑システムを作らせた。
 例えば罪人2人を戦わせ、負けた方は蠆盆(たいぼん)という、毒蛇やサソリを入れた穴に突き落とす。一方の勝った方だって油断はできない。なにせ勝った方だって、酒を満たした酒池に突き落とされるのだ。結局は溺れて死んでしまう。
 あるいは炮烙(ほうらく)といって、油をかけた金属柱を橋のように横たえて、炎で熱し、その上を罪人に歩かせる。油で足を滑らせても、落ちるまいと焼けた金属にしがみついて(たいへん不謹慎ながら、これはSASUKEの「ローリング丸太」状態に近い)も、どちらにしたって罪人は焼け死ぬことになる。
 竹筒を眼窩に力いっぱい突き刺して、眼球をえぐり出すこともした。
 それらの残忍な処刑方法に並んで、先の「虎穴(ふーしゅえ)」があった。

 なお以上では「虎穴(ふーしゅえ)」以外、ほぼすべて本当のことを書いてしまった。それでも強いてウソである部分を挙げるのならば、「演義」の古代中国で仙人同士が殺し合ったという、そもそものフィクション部分しかない
 本来の趣旨から大きく外れてしまったことをお詫びする。
 きちんとしたウソは、明日、続きに書く。

(明日へ続く)

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