矛盾(ウソ前編)
いまから書くことは概ねウソなのだが――古代中国の春秋戦国時代には既に、ChangJiangと呼ばれたAmazonの仕組みがあった。
中国で鉄の盾の記述が出てくるのは、紀元前3世紀ほどの書物『韓非子(かんぴし)』であり、それは古くは「重盾(じゅうじゅん)」と呼ばれた。これは、古典ゆえ表現が現在とは違い確たる証拠はないが『おそらく鉄の盾のことであろう』というのが一般的な判断だ。
なお「矛盾」の故事成語は、この『韓非子』に載っている(この2段落、本当)。
この重盾は戦で大変重宝した。なにせなんでも跳ね返す。需要は高まり、高級品ゆえやすやすと買えるものではないのにも関わらず引く手あまた。
金属鋳造を生業とする者には生産が追い付かなくなるほど、書簡で注文が殺到した。
しかし、どうにかして購入できたとしても、困るのが運搬だ。
ただでさえ広大な中国国内に、どうやったら物資を運べるか?
往時の重盾製作業者たちは知恵を絞った。
ここで、川である。
ナイル(Nile)、アマゾン(Amazon)に次ぐ世界第3位に長い河川である長江(ChangJiang)を、河川運搬の要としたのだ。
書簡や木簡での注文に応じて、製造し、顧客のところまで運搬する。このような現在のAmazonに近いビジネスモデルが、紀元前の中国には存在した。
歴史的に見ても、川の近辺は物流も農業も発展するものだ。そんな「歴史的に見て」などと言っても説得力がないほど大昔の人間たちの、紀元前のこの判断は正しかった。
また、いわゆる「お客様の声」のような評価システムもすでにあったらしく、さきの『韓非子』の中には購入者からの毀誉褒貶の記録が、ほんの一部ではあるが残されている。
とりわけもうこのころから、この「顧客による評価システム」の抱える問題が透けて見えるのがおもしろい。ある矛を買った者は「武器としての評価」を下し、また別の盾を買った者は「製品の美しさ」を評価ポイントにしていた。中には「配送業者の評価」をしていた者もいた。
評価基準が定まっていないのに評価が決まる、という矛盾は、いまに始まったことではないのだった。
なお故事成語の「矛盾」に関して、その『韓非子』の中には「矛と盾、どっちが強いかわからないから実際にぶつけてみた」というYouTubeさながらのくだりがあって、実は一応の決着は見せている(*古典研究者によって原文の訳出に違いがあることを、念のため注記しておく)。
矛と盾のどちらが勝ったのか。
これは後世を生きる我々にとっては非常に気にかかることではないだろうか?
(明日へ続く)
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