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【参加メモ】探究学習をデザインする@成城大学

個人的にホットなテーマである「探究」について勉強すべく。

■本題の前に

本イベントは「成城大学FD・SDシンポジウム」としての開催だったのですが、FD/SDとは何なのか不勉強で知らず…

FD=Faculty Development(大学教員の教育能力を高めるための実践的方法)
SD=Staff Development(事務職員・技術職員又はその支援組織の資質向上のための実践的方法)

だそうです。勉強になりました。じゃあ実際はどんな人が参加していたかというと、開会挨拶での杉本義行先生(成城大学副学長)の仰せによると

・中高教職員 37%
・大学 27%
・その他 大学生/教育産業関係者 36%

とのことで、私みたいな民間も結構参加していた模様。それだけ熱いテーマなわけですが、「教職員限定」とせず、オープンにしていただいた主催の成城大学教育イノベーションセンター様には感謝申し上げる次第です。

ちなみに本イベント、杉本先生によると、

(1)今、なぜ探究学習なのか?
(2)どのようにデザインするのか?
(3)高大接続の観点

この3つの問いがテーマだそうです。

■基調講演「学校のマナビを越境する-探究学習の構造とプロセス-」(関西大学教育推進部 教授 森朋子先生)

この講演を聴けただけで、参加した甲斐がありました。学習科学の立場から、探究学習の重要性とポイントを大変わかりやすく教えていただきました。充実のスライドは出力をほぼほぼそのまま配布。ありがたや…

ということで、本記事ではこの基調講演をメインにまとめます。

1)学習が促進する条件

森先生が考える「学習が促進する条件」は次の6点だそうです。

 ●主体性(なぜから始まる学習)★
 ●吟味(解答のバリエーション)
 ●理解の深化(自他の間の葛藤や躊躇)
 ●批判的思考力(鵜呑みにしない)
 ●メタ認知(自らを俯瞰)
 ●情意面の補強(自己肯定感)
 ●学習時間の確保
 ●疑問の想起(解決すべき問いがある)★

中でも「主体性」と「疑問の想起」の面で、探究学習は大きな役割を果たすとのこと。これを見ると、非認知スキルとして位置づけられるものもたくさんありますね…

2)探究学習を考えるためのキーワードいろいろ

以下、キーワードが盛りだくさん。

「Research & Development + 学び続ける力」が必要
Agency = 自ら考え、主体的に行動し、社会の変革を実現していく力
社会情動的スキル(非認知スキル)…チャレンジ、準備、自己効力感
 →今の子はこれらを授業ではなく部活やイベント、バイトで身につけていると答える
・AI時代に必要な学力とは、①リーディングスキル ②言語スキル(抽象を具体へ) ③推論 →いずれも探究学習で必要な力
「垂直的学習」…行為のアタリマエ化。専門教育・教科教育があたる。
「水平的学習」…アタリマエがアタリマエでないと認識。異化・越境。
 →この2つの学びのバランスを取るのがカリキュラム・マネジメント

Agencyって、よく目にしてピンとこない言葉だったんですけど、「これから求められる力」と覚えることにします(厳密に考えると忘れそう)。非認知スキルを部活やバイトで身につけている子どもたち…言われていればそうかもだけど、何とも衝撃的でした。「垂直的学習と水平的学習」「カリキュラム・マネジメント」はたびたび出てきました。

3)重要なのは「越境」

特にキーワードとして強調されていたのが「越境」「越境する学び」。水平的学習においては、子どもたちは学校や教科の学びを飛び出し、地域・小中高大・海外・生活全般…未経験のコミュニティへの接触が生じる(これが探究学習)。そして他のコミュニティに触れることで「当たり前」と思っていた価値観が揺らぎ、価値観を再構成していく。

越境でポイントなのは、一度出ていたコミュニティに、また戻ってくるというプロセス(往還)。往還のある越境こそが深い学びであり、外から持ち帰ったものが教科学習や専門研究に返るようにすることが大切であり、そのためには本来のコミュニティである教科教育やクラスの改革・教科が求められるとのこと。

つまり、教科学習も探究学習も、どちらがニワトリ・タマゴではなく、行き来するものであり、「知識がなければ探究はできない」というのは必ずしも正しくないそうです。探究をした結果、知識不足を実感して習得を行うというケースもあるわけで、実際に「学んでから教えるほうが定着率が高い」という研究もあるそうです。

4)探究学習の評価

そして「探究学習」を考える上でしばしば話題になる「評価」。これはまだまだ明確な方法論が確立されているわけではありません。「間接ー直接」と「数値化できるー数値化できない」を組み合わせて評価をすることが大切とのこと。

<学習評価のデザイン:間接評価と直接評価を組み合わせる>
 ①生徒調査
 ②リフレクション/インタビュー調査
 ③客観テスト/標準テスト
 ④ルーブリック評価/ポートフォリオ評価

5)「教育」と「学習」

探究学習と直接関係ありませんが、学習科学・学習研究がテーマの森先生、教育学と学習科学の違いについて折々で触れながら「教えるから学ぶへのパラダイム転換」を訴えていらっしゃいました。

病院はどんなところ?と聞かれたらどう答えるか?
●病気やけがを治療するところ=主語が医師=先生 「教える」視点
●病気やけがを治し社会復帰するところ=主語が患者=子ども 「学ぶ」視点

このたとえがとてもおもしろく。「教育学研究は集団性を見て、学習研究は個人の学びを見る」というのも確かに…。

ということで、非常に有意義な1時間の講演会でありました。

■実践報告1「探究を探究する~立命館宇治高校・研究開発学校の取り組み~」(立命館宇治中学校・高等学校 教諭 酒井淳平先生)

立命館宇治は、新学習指導要領で導入される「総合的な探究の時間」を先行実施する研究開発指定校。先行し試行錯誤されている様子を丁寧に説明していただきました。森先生と重なるのが、生徒を「お客様」から「生産者」へという探究学習のテーマ設定。

探究の序盤は、「①自分はなぜ学ぶのか? ②どうすれば質問を作り、問いを立てる力をつけることができるのか」という、問いを立てる行為そのものを繰り返し行うそうです。これを先生も一緒に取り組むそうですが、先生も生徒と一緒に悩み・考えることに、これからの教師のあり方のヒントがある、とも。

■実践報告2「教育の価値観を再定義する」(札幌新陽高等学校 校長の右腕 中原健聡先生)

肩書きも謎だし、元プロサッカー選手とか、募集低迷していた高校を1年か2年で人気校にしたとか、「うちは大学入試を気にせず、学習成果だけを見てカリキュラムを作ってます」とか、なんだかとにかくすごい先生(ちなみに私より全然若い)。

学校の教育目標をすぐに言えますか? 教育目標を握らずに、教育の方法とか形式ばかり気にするのは本末転倒じゃないですか?

という投げかけはなかなかハードであるな、と。

想像力は、知識よりも重要だ。
知識には限界がある。想像力は、世界を包み込む。

というアインシュタインの名言を引きつつ、「20年先を想像して、10年先の予測値を高めて、5年先を捉えて、今を決断し、行動を振り返る」姿勢が大人・教師に必要だと述べ、「学ぶ者が教える者を超える環境を提供することがこれからの学校の意義」と言い切っていらっしゃいました。

■実践報告3「探究の入り口に立つ〜成城教育を取り入れた新しい学び〜」
(成城学園中学校高等学校 教諭 青柳圭子先生)

前の中原先生が濃すぎたので、ライトに感じられたお話。探究学習に必要なものを次のように整理されておりました。

 知識
 語彙力
 要約力
 知識同士を結ぶ力
 問いを立てる力
 課題の解決に向けて協力する力
 粘り強く取り組む力

■パネルディスカッション

登壇者によるパネルディスカッションは、正直時間が足りない印象。森先生のコメントがやはり勉強になったので箇条書きに。

・探究の先にあるのは「自己調整学習」
・人が学ぶプロセスそのものが探究のプロセスともいえる
・教科知識は物を見る武器・刀。だから教科学習も必要
 →様々な観点で見る力があるからこそ越境できる
・学問分野の流儀やコミュニティに「学び浸る」経験があると強い。
・全員必修の学びはナンセンスになりつつある
 →EdTechでまず自分に合う学びを選び、他者と関わっていく
・これからの先生の役割で重要なのは、やはり「できない子」への対応
 →やはり「問い」。「なぜこれをしなければならないか」という動機づけ

以上です。

今日持ち帰ったことをどう仕事に活かすか…教材屋の腕の見せ所、かな…

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