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解析再訪

 『解析入門I』(杉浦、1980)をもう少しで読み終える。

 数学自体に結構なブランクがあり、本格的な数学書を通読するのも初めてだったので、新鮮に楽しむことができた。単純に、小説としての面白さがあった。読む側の作業を強いる点で親切とは言い難いが、今年読んだ他の文芸(例えば『苦界浄土』や『燃える平原』)と比肩する面白さだった。考えてみれば、数学書程に伏線と伏線回収を密に詰め込まれた本は滅多に無い。

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気まぐれアカデミア

Youtubeの動画を漫然と聞き流しながら生活していて、ふと、マクスウェル方程式とは結局何だったのかと思った。

https://www.youtube.com/watch?v=EH2A8mZmM9M

動画自体は重要ではない(有名Youtuberの誤った学術解説を訂正する、というよくある主題)のだが、聞き覚えのある高校レベルの物理学と、ポインティングベクトルという覚えの無い単語に、何かを刺激され

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一冊だけ存在する本

webに放り投げていた文章を自分用に製本した。自分以外の人間が価値を見出すことの無い、一冊だけの本。

かなりの満足感がある。ろくな知識・技術を持っていない人間でも、自身を満足させる程度のものならば案外作れる、便利な時代だ。表紙デザインは多少悩んだが、リテイクは不要な水準だ。中心線が思い切りずれているので、デザインの素養がある人間が見たら吐血しそうだが。

マットPP加工の手触りは、お気に入りの同

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220925-0147

意識を溶かした状態で特定の漫画を読む時、これ以上の幸福を得られることがあるだろうかと思う。(知覚可能な程度に有意な幸福は全て想像上の存在で、自己のタイムライン上において、過去にも未来にも存在しない。)

美少女ゲームな百合を夢見る

水上由岐と高島ざくろの関係性に惹かれたことがあった。

断っておかなければならないのは、百合を摂取する目的で『素晴らしき日々~不連続存在~』を読むことは全く勧められないということだ。男性性の介在以前に、そこそこに暴力的であり、歪な人間観と人間関係によって構築された典型的な美少女ゲーム作品だ。

それはそれとして、衒学と認識論とカルト思想に興味を持ちつつ当作品を読み終えた者の中には、かの二人の関係性

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偽懐

かつてフォローしていた方がきっかけで知った音楽を聴き、別の方のRTで知ったイラストレーターと再遭遇し、別の方が言及していた書籍を本の山から見つけ出すなどした。つい先日、怨悪と共に目を逸らしたコンテンツに再び触れる日があった。かように、私が作品を摂取する時は常に懐古と隣り合わせだ。そんな態度で作品に触れていると、自分の好みの変わらなさというものに居たたまれなさを感じることがある。

好みは移り変わる

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海底を流れる時間

『夜と海』の最終巻を読んだ。稀有なまでに綺麗な完結だったと思う。読者として無名の関係性を求めることは多いが、そういった例を実際に見届けられる機会は多くない。意図して描かれたものであればなおさらだ。商業的多数派の漫画はどうしても画一的な方向に流れるもので、個人的にそれに流されている感も否めないが、久方ぶりに突き刺さるものに出会えると、充足度合の違いを実感せずにはいられない。

読み返すと、非線形的な

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荒野憧憬

個人的に好むフィクションだと度々、町は滅ぼされて荒野になっている。
この"荒野"という概念は私の中に根を張り、今も生き続けている。

それは概して、平坦な地形で、浅瀬になっており、人工とも自然とも付かない無機物が散発的に存在している。動植物はいない。空は"彼は誰"とも"誰そ彼"とも付かない微妙な色を帯びており、風が吹き続けている。

記憶を遡る限りでは、頭の中にあるこの荒野という概念は、魔法少女ま

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記録媒体

自分のインターネット上における人格は根無し草のようなものだ。仕事として何かを発信する必要もない、自己表現を多人数に見てもらう必要も無い。承認欲求はあるにはあるが、それを満たせる目算がある訳でなく、その状況に大きな不満を抱かないまま生きてきた。インターネットという公の場で文章を残すのは、自分が自分の為に書いた文章を気まぐれに放流することでしかなく、根本的なところで、他人に読んでもらうという思想が無い

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