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昭和で刷り込まれた価値観

小さい頃、頭の良い大人たちは皆、正しいことを言っていると思っていた。
そんな大人たちからいつの間にか刷り込まれた価値観は山程ある。
長く生きていくうちに、時代が変わりゆくうちに、その価値観は少しずつ変容する。
正しいと思っていた価値観が、実は間違いだったなんてことはざらにある。

一回り歳の離れた夫はとても博識で(というか雑学王)、とても頭が良かったし、私の知らない世界をたくさん知っていた。尊敬していた。
だからバカな私は、夫が言うことは全て正しいと思っていた。

昭和の価値観「良い大学を出て、良い会社に入ること」が人生を豊かにすると、私もいつの間にか信じていた。
私は家庭の事情で、行きたい学校に行くことができず、高卒なので、子どもたちには後悔のない豊かな人生を歩んでもらいたいと思っていた。
そんな私の価値観は、次男が不登校になったときに更新された。

深爪さんのポストに完全同意。
高校は卒業したほうがそりゃいいに決まってるんだけど、一番大切にするべきはその子の心だ。「元気があればなんでもできる」けど、一度心が折れてしまえば、途方もない時間を苦しむことになる。
不登校で人生は終了しないけれど、心が折れたら自ら終了させてしまうことだってあるのだ。
実際次男は「死にたい」と口にしていた時期があった。

「高校を卒業できなければ人生終了」

この言葉は、夫が、私にも次男にもさんざん言って聞かせ続けた言葉だ。
私はいつの間にかこの言葉に洗脳されていて、不登校ぎみになっている次男に対して「この子の人生が終わってしまう」という漠然とした恐怖に毎日襲われていた。毎朝あれこれ試して言葉をかけて、必死に学校に行くように誘導していた。
勉強はとてもできる子だったので、普通に学校に通うことさえできればこの子の人生はまだ大丈夫、と本気で思っていた。
私自身、この価値観に縛られているときが一番辛かった。

次男がやっと自分から、涙をこぼし「勉強がしんどい」と打ち明けてくれた。とんでもない勇気がいったはず。
実際の悩みはおそらくこれだけれはないけれど「しんどい」という今の気持ちを言葉にしてくれた次男に感謝の気持ちでいっぱいだ。こんなダメな母親を頼ってくれてありがとう。
「助けて」という次男のメッセージを受け取った私は、初めて次男がこんなにもボロボロになっていることに気づいた。
遅すぎた。
気づいてあげられなくてごめん、と何度も謝った。
そこから私は必死に夫を説得しようとした。彼が傷ついていることを伝えた。私達が間違っていた。このままでは次男が壊れてしまう。

不登校になり、精神状態がボロボロな次男に、夫は
「高校を卒業できなきゃお前の人生は終わりだ!」
「やる気のあるやつにはいくらでもお金を払うが、やる気のないやつには払わない!」
と怒鳴りつけた。
泣いて縮こまる次男を守りながら夫に反抗したら
「お前が甘やかすからこうなった!」
と私に叫んだ。
この頃の夫だけは、一生許せそうにない。

「わかってもらえないなら離婚する!」

この子を守るためには離婚するしかないと、このときは本気でそう思った。けれどこのあと次男が
「僕のせいでお父さんとお母さんが離婚しちゃう……」
とさらに泣き出した。ハッとした。
私は自分が小さい頃、父と母が目の前で喧嘩をするたびにとても辛く苦しくなったことを思い出した。

これまで、子どもの前で喧嘩らしい喧嘩をしたことがなく、穏やかに過ごしてきたけれど、次男が不登校気味になった頃から、夫婦の仲がぎくしゃくしていたことを、次男は自分のせいだと思っていた。
次男が気に病むことではないのに。悪いのは私達なのに。ごめん。ごめん。
私は一旦冷静になって、何を言っても無駄な夫はひとまず置いておき、次男を支援してくれるところに片っ端から出向いた。

小児精神科の予約をし、予約の日が来るまで、数回スクールカウンセリングに次男とともに出向いた。

私がそうしているときも、夫は次男の不登校はゲームのせいだと言い、次男のゲームを制限しようとした。
今、次男の唯一の心の救いとなっているゲームをとりあげるなんて、何を言ってるんだこの人は?と怒りを感じたけれど、私がどれだけ言っても「お前は甘やかしている。だからどんどんダメになるんだ」の一点張りで埒があかない。

ようやく小児精神科の臨床心理士との面談の予約日が来たので、なんとか夫を連れ出し、そこでやっと、夫が少し理解を示してくれるようになった。
私が夫にどれだけ伝えてもだめだった言葉が「臨床心理士」という肩書の人から言われると納得してもらえたことが悲しかったけれど、ひとまず夫が理解してくれてよかった。
……というか、実際にはそこから何も言わなくなっただけで、私達に興味がなくなった、という表現のほうが近い。

でもおかげで、次男のメンタルケアに集中できるようになった。

夫は、普段はとても穏やかなのに、本当に同じ人なのかと思うほど、時に激高し、異常に冷たい言葉を、弱ってボロボロな人に向けて放つ。
長男と同じ特性を持っている部分もあるけれど、どちらかというと、機能不全家族で育った経緯のほうが、深く関係していると思う。

深爪さんの書籍、目次が共感の嵐だったので、購入しました。
大切に読ませていただきます。


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