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ジェンダー平等な社会へ、社会の「バグ」を共有・解決したい

島袋コウ/モバイルプリンスさん(スマートフォンアドバイザー)

赤い一張羅を身にまとい、金ぴかの王冠を頭に載せ、存在感たっぷりに登場するモバイルプリンス、こと島袋コウさん。高校時代にお笑い芸人として活動を始め、元来のモバイル製品好きが高じて2007年には携帯電話ショップの店員に。現在はスマートフォンアドバイザーとして、新聞や雑誌、ラジオなど活動の幅を広げている。そのアンテナは、スマホやインターネットだけでなく、ジェンダー問題など社会課題にも向かい、軽快なトークと鋭い切り口で発信を続けている。(2022年11月取材) 

トレードマークの王冠と赤い衣装でインタビューに答えてくれたモバイルプリンスさん=2022年11月、なは市民協働プラザ)

【プロフィール】
お笑い芸人時代に磨いた軽快な話術とモバイル製品の知識を活かし、スマートフォンやインターネット情報を分かりやすく伝える「モバイルプリンス」として2014年に独立。2021年11月から那覇市男女共同参画会議委員。1987年沖縄市生まれ。著書に「しくじりから学ぶ13歳からのスマホルール」。


1)「本質」の理解が大切

中高年の皆さんにスマホやネットの使い方や「背景」を伝える講座や教室は、2014年から長く続けています。スマホ教室と聞くと「操作を学ぶ場所」と思われがちですが、操作そのものよりもスマホやネットの背景にある仕組みや構造、操作の意図をお伝えすることの方が大事だと考えています。
 
スマホは“アップデート”ですぐに操作方法が変わるからです。自分で考えて変化に対応するためには、表面的な操作方法よりも「ここをタップするとなぜこう動くのか」と本質的な意味を知っていることが重要なんですね。
 
こうした仕組みは、スマホやネットに限った話ではないと思っています。例えば、差別やハラスメント。「この言葉はハラスメントになるから言っちゃダメだと言われた」と表面的な認識しかないと、時代で変化する“感覚”についていけなくなるんですよね。「なぜ、これがハラスメントになるのか」「問題の本質は何なのか」を深く理解しておかないと“価値観のアップデート”から取り残されることになります。

2)「モバイルプリンス」キャラ誕生の裏話

「ハンカチ王子」や「ハニカミ王子」など、2006~09年ごろに「王子ブーム」が巻き起こりました。「自分で王子を名乗ると面白いかな」と思い、少し自虐的に「モバイルプリンス」と名乗り始めました。稀に「君主制を支持しているのですか?」と真面目に質問されることがありますが、深い意味はないです。
 
キャラクター的な見せ方を考え、赤い衣装と王冠を被っています。子どもたちの食いつきがいいので、自分をキャラクター化して良かったですね。報道番組で事件解説などをすると「キャラが気になってニュースが入ってこない!」と言われることもあるので、メリット・デメリットはどちらもあると思っています。

3)「グルーミング」と子どもの貧困

子どものスマホ依存など諸課題ある中で、特に大人が子どもを手なずける「グルーミング」を懸念しています。グルーミングとは性的搾取などを狙う大人が、ネット上で出会った子どもに優しい言葉で寄り添い、自分を信頼させた後にコントロール下に置く手口です。
 
子どもは「知らない人に会っちゃいけない」と頭では分かっていても、家や地域に居場所がないとネット上で出会った「優しい人」「受け止めてくれる居場所」に引っ張られます。子どもの貧困問題とも密接につながる難しい課題だと感じています。
 
私自身、講演会で魂込めてこうした話をしますが、私の言うことを聞いても、「居場所がない事実」は変わりません。SNSでグルーミングしてくる大人の“優しいささやき”を信じたら「人生が変わるかもしれない」となるんです。
 
そのため、啓発や情報共有だけでなく、子どもたちの不安を払拭し、安心して過ごすことができる環境を作ることが大事だとも感じています。
 
私のようなスマホ・ネット業界の人間だけでなく、「教育」「地域」「医療」「福祉」など、さまざまな分野の方と協力しながら進めていく必要があると思っています。

4)ジェンダー・ギャップが身近になった30代

30代に入ったころから、友人たちの話題や悩みの方向性が男女で変わったように感じました。とりわけ女性の友だちが、出産や家事・育児と仕事との両立で悩む姿を見て、目に見えないジェンダー・ギャップを身近に感じました。それが原体験の一つです。
 
「子育ても家事も私がやらないといけない」
「全力で仕事に打ち込めない」
「自分の願うキャリアを歩めない」
 
男女間の不平等については理解しているつもりでしたが、身近な友だちが悩みに直面している姿に衝撃を受けました。
 
私自身も、仕事・育児・家事のバランスについてパートナーと話し合っていますが、完全な平等は達成できていないと反省しています。

5)沖縄の女性は「経済」トップ!?

上智大の三浦まり教授らが2022年3月に公表した「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」で、沖縄は「経済」分野でトップとなりました。男女差が一番小さい、という結果だけ見れば「男女平等が実現されている…」と解釈しそうになりましたが、詳しく数字を見ると、男性の賃金も低いため、単純に「男女の格差が一番小さい」ということでガクッとしました。

6)「分かる」と「できる」は違う 

私自身は男性なので、直接的には女性差別の対象になることはありません。ですから、私自身が気づいてない、見逃してしまっている社会の女性差別は沢山あるでしょう。それらをしっかり発見し、差別の現状を理解する必要があると思います。 

さらに次のステップとして、「分かる」と「できる」の壁がやってきます。例えば、野球好きのおじさんが試合を見ながら、「ここで打て」と野次ったりするわけです。でも、そのおじさん自身がバッターボックスに立ったからといって、実際に打てるわけではありません。「分かる」と「できる」はまた別のスキルなんですね。 

差別・ハラスメントなどの問題も似ていて、セクハラ/パワハラ事例を聞き、ダメな言動を「分かる」ことはできます。でも、正しい行動がすぐに「できる」ようになるわけではありません。 心のゆとりがないなど自身の体調によって、ダメだと分かっていても高圧的な態度を取ってしまう人もいるでしょうね。

これまでも、ネットを中心にいろいろな人を見てきましたが、「自分は大丈夫だ」と安心しきっている人が実は一番ヤバいんですね(苦笑)。そうした人は言動の差別を指摘されると「私が差別するわけないだろ!」と逆ギレすることがほとんどです。

 「『分かる』と『できる』は違う」と、私自身も常に胸に留めておきたいです。 

7)「女性差別なんかない」と言ってしまうワケ

外国人や障がい者への差別に反対する人であっても、女性差別には鈍感な人が多いと感じます。ジェンダー・ギャップがあることは各種データで示されているのに、未だに「今の時代は女性差別なんかない」「男だってつらい」という言説も見聞きします。
 
「『分かる』と『できる』は違う」と前述しましたが、女性差別に関しては「分かる」ことさえ放棄している人が多いと感じます。気づいていない、或いは気づかないふりをしているのかもしれません。
 
ジェンダー平等について発信していると、男性から「男は得しないんだから、今のままでよくない?」と言われることがあります。構造的な女性差別がなくなると、「家事や育児を今より分担しなくちゃいけない」「職場で役職を取られる」など、男性にとっては「(自由や立場を)奪われる感覚」があるのでしょう。
 
「奪われる感覚」そのものは否定しませんが、それらを口実に差別を撒き散らすのであれば批判していきたいと思います。

8)差別や不公平は「バグ」だと思う

差別や不公平は、ゲームの世界でいう「バグ=プログラムやシステムのエラー」だと思います。あるいは設計ミスでバランスが著しく悪くなっている状態、と言ってもいいかもしれません。 

例えば、ゲーム上で特定のキャラクターや武器が強すぎて、ゲーム展開に偏りが出てしまうと「奥深さ」が消え、ゲームそのものがつまらなくなりますよね。 ゲーム会社はゲームを面白くするために、バランス調整を行い、バグやミスを修正します。

でも、中には「バグを利用して自分だけが勝ち続けたい」と逆手に取る人もいます。私はゲームも社会も、バグを修正して公平公正なルールで楽しみたいです。 

ゲームのように、法律や制度にも「バグ」か必ずあります。その一つがジェンダー・ギャップだと思います。バグが放置され、ゲームバランスが極端に悪いと、「クソゲー化」していきます。

社会そのものがクソゲー化すると、活気が失われ“荒らす”行動で鬱憤を晴らすしかなくなります。そんなディストピアのような社会は嫌ですね。

9)「フェミ叩き」と「沖縄叩き」の共通点

差別や社会問題に声を上げる人へのバッシングや冷笑する態度が、ネット上で多く見られます。時期によって“バッシングの最前線”は移り変わりますが、最近は「フェミ叩き(フェミニズム叩き)」が特に激しいですね。
 
2022年10月に実業家のひろゆき氏が名護市辺野古を訪れ、新基地建設に反対する座り込み活動の看板を揶揄してからは、「沖縄叩き」も激しくなりました。そうしたこともあり最近は、さまざまな差別の共通点について考えています。
 
差別に対する指摘は、すぐには相手に響かなくても、点と点がつながり、それが線となり、いつしか面になることがあります。1人1人の声は点みたいなものです。その瞬間は何かをひっくり返すことはできなくても、諦めずに点を打ち続けることが大事だと思います。
 
私自身も、ある時期までは漠然とした「点」の認識しかありませんでしたが、さまざまな体験を経て、最近ようやく「面」として見えるようになってきたと思います。沖縄の基地問題もフェミニズム運動も、先輩方がいろんな取り組みや運動を続けてこられたことで、「面」として見えてきました。リスペクトしかないですね。また私自身もそうした存在になりたいと思っています。
 
その一方、声を上げ続けることの大変さも感じています。先輩方もきっと、変わらない現状に疲れたり憤りや徒労感を覚えたりしたと思います。それでも、いつか誰かに届けるために「続けること」が大切だと感じています。長く続けていくためにも、私はユーモアも大切にしたいですね。

10)子どもの自己決定権を大切に

現在は、13歳11歳4歳2歳、4人の子どもたちの子育て中です。パートナーと子育てする上で大切にしようと話し合っているのは、「子どもが自分で決める=自己決定権の尊重」です。

子どもは親の所有物ではありません。自分の意見をちゃんと考え、伝え、受け入れてもらえるという成功体験を作る環境を、家庭では整えたいです。この辺り、パートナーと意見が一致すると「あぁこの人で良かったな」と思えます(笑)。
 
ジェンダー平等な社会づくりに向け、女性やセクシャルマイノリティ当事者の生きづらさや差別など、多くの人と協力していろんな視点で「バグ」を発見・共有しながら、解決していきたいと考えています。
(聞き手・佐藤ひろこ)


第16期・那覇市男女共同参画会議の委員の皆さんをご紹介するインタビュー企画です。なは女性センターだよりで掲載した連載企画「ハイタイ ハイサイ 参画委員です!」のロングバージョンです(凝縮版の場合もあります)。


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