マイクロノベル集 289「むしろ好きなんです」
No.1591
あいつはアナログな奴だから、俺は好きだ。「それ、このデジタル時代では褒め言葉にならないでしょ」ピアニストにはわからないだろうけど、ピアノは無限にある音の中からせいぜい八十八鍵を選び取った楽器だから、デジタルだよな。「やんのかテメェ」
No.1592
「君は変態だね」いや、違うな。「君のフェティッシュは理解不能だよ」これも違うか。「天才！」ってわけでもない。でも、悪い印象を抱いている、なんて思われたくないんだよね。「君って個性的だね」あれ、なんか不機嫌になっちゃったな。男って面倒臭い。
No.1593
色を選ぶのって難しいね。“空の青”なんて言うけれど、何色で塗ればいい？ 「それなら水色を使いなさい」うん、それも案外悪くないけど。もう少しなにかがほしい。「では“海の青”を」歩く砂浜は同じでも、景色は同じじゃない。今日は光すら透き通る青。
No.1594
うーん、複雑な味がします。このコーヒーは一体？ 「さっき、道を歩いていたお婆さんが困っていたので助けたら、『あんたの世話になんてならないよ！』と怒鳴られて、このコーヒー豆を分けてくれたんです」ははあ、一方的に助けられるが嫌いなタイプですね。
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