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農業の未来を変える名大発ベンチャー。マーケットは“地球”。そして宇宙で農業実現へ

「宇宙で農業を実現させたい」――。
植物や食品の残さを原料にした高機能バイオ炭を開発販売する名古屋大学発学生ベンチャー「TOWING」。2020年の創業以来、企業からの出資や提携、メディアによる取材が相次ぐなど注目を集めています。最近ではForbes JAPAN「世界を変える30歳未満」選出や、農業界の“メガバンク”農林中央金庫との業務提携などで話題を集めました。
そんな新進気鋭のスタートアップを創業した代表取締役の西田宏平さんから、起業に至った経緯や名大の学生時代などのお話を聞きました。

わずか1ヶ月で良質な土壌ができる人工土壌「宙炭」。
SDGsへの貢献や脱炭素にもつながります

TOWINGは、名大環境学研究科を修了してデンソーで働いていた西田さん(2018年修了)が2020年2月に副業として設立したベンチャーです。企業としてのミッションは“持続可能な超循環型農業を地球・宇宙双方で実現する”こと。自社開発した高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」を土壌改良資材として国内外に普及することで、資源を有効活用する農業の実現、地球規模の食糧危機の解決、農家の生産性向上と収益の安定化、宇宙(月面)での食糧生産の実現などを目指しています。

『Forbes JAPAN』の「30 UNDER 30(世界を変える30歳未満の次世代リーダー)」には、弟で本学大学院に在籍するCTO(最高技術責任者)の西田亮也さん(写真右・環境学研究科 博士課程3年)とともに選出されました

「宇宙兄弟」にハマり名大へ。そして芽生えた農業への想い

高校時代まで滋賀県甲賀市で過ごした西田さん。漫画「宇宙兄弟」が好きで天文学を研究できる大学を探していたところ、名大を発見。「宇宙の研究ができることと、面白い先生が多いなぁと思って受験しました」と、2012年4月に理学部・地球惑星科学科に入学します。
しかし、念願だった天文学の授業を受けてみると、「ついていくのがやっとな感じでした(苦笑)」。そんなときに出会ったのが、持続可能な社会や人工土壌をテーマにした授業。祖父が農業をしていた西田さんは、実家で見ていた農業と授業で学ぶ農業の違いに興味がわき、「少しでも農業の発展に貢献したい」と、徐々に農業への関心を膨らませていきました。

学部卒業後は「もう少し研究を続けたい」との思いから環境学研究科に進学。研究科の恩師、高野雅夫教授が提唱する「作業仮説ころがし」に強く共感を覚えます。「作業仮説ころがし」は、いくつもの仮説を次々と試して検証していくことで、より多くの仮説を実証できるというもの。西田さんは「院に入ってから様々な研究をするなかで、研究をどのように農業に生かすか?という方向に興味がわいてきました」と、研究分野の社会実装へのやりがいに目覚めます。

そして修士2年次の2017年、学生による起業を支援するプロジェクト「Tongali」に参加。同じ研究室で人工土壌を研究していたメンバーと、人工土壌のビジネス化を模索しました。 プログラムの中で、マーケティングとして家庭菜園をしている人たちに聞き取り調査を行うと、「土は重くて捨てられない」という課題が見つかったことから、“軽くて捨てられる人工土壌”を開発。最終プレゼン(ビジネスプランコンテスト)では優秀賞を受賞するなど多くの方から評価を受けました。

Tongaliのプログラムの一環で行われたデンマーク・コペンハーゲンでの研修

働きながら準備を進め、いざ起業へ

大学院で開発した人工土壌はTongaliで一定の評価を得たものの、「あくまでも家庭向けでマーケットが小さく、経済事業としての展開が当時は見えませんでした」。
起業を見送った西田さんは2018年春、エンジニアとして自動車部品メーカー「デンソー」に就職しました。
働きながらも研究を続けていた2019年11月、内閣府が主催した宇宙を活用したビジネスアイデアコンテスト「S-Booster」で、人工土壌を活用した宇宙での農業ビジネスを発表。スポンサー賞を受賞し、その賞金を元手に副業として2020年2月に会社を立ち上げることになりました。
そして同年4月、「名古屋大学発学生ベンチャー」の称号を獲得。「称号をいただいたおかげで金融機関や企業から信頼を得られました。大学内の設備が借りられるのも有利でした」と、事業の“スタートダッシュ”につなげます。

スカパーJSAT賞を受賞した「S-Booster 2019」最終選抜会にてプレゼンする西田さん

国による農業政策と、宇宙開発の機運が追い風に

起業したばかりのTOWINGに“追い風”も吹きました。国の「みどりの食料システム戦略」策定です。農業の生産力向上と持続性を両立する取り組みを支援する政策で、2050年までに目指す姿として「化学肥料の使用量を30%低減」が盛り込まれました。
言い換えると、化学肥料の使用を減らした30%の部分がTOWINGの開発した有機物由来の「宙炭」のマーケットになり得る計算です。
「宙炭」は、炭に微生物を付加した有機質の土壌改良剤で、畑に施用すると短期間で良い土づくりが可能になる資材。「国内だけでも十分に商機がある」と西田さんは直感しました。
その頃、宇宙開発のプロジェクトで大手ゼネコン「大林組」との共同研究が始まり、出資が集まりだしたことも後押しし、2020年10月に独立しました。その後も順調に成長を続け、起業時は3人だった社員は現在50人以上(パート含む)に拡大。「一番良かったのは起業したタイミング。1年早くてもつぶれていただろうし、遅くてもプロジェクトを取り逃していた」と振り返ります。

「チームの結束力が一番の強み」というTOWINGスタッフのみなさん。
愛知県刈谷市にある自社農園にて

ドリンクの売り子経験がビジネスの基礎に

高校時代まで野球部だった西田さん。学部生時代、野球好きもあってバンテリンドームナゴヤでドリンクの売り子バイトをした経験も起業の役に立っているとのこと。「売り子はやっぱり女性が強い。その子たちの“お得意さん”である男性客ではなくファミリーや年配の方に販売ターゲットを絞って成績を伸ばしました」と語ります。
多くの売り子の中で売り上げベスト3になるなど、お客さんからの評判も上々だったそう。「ターゲットの明確化やリピーターづくりの重要性、客単価を上げる販売戦略など、ビジネスの基礎はアルバイト経験から学びました(笑)」。

ナゴヤドームでアルバイトに励む学部生時代の西田さん

思い描くTOWINGの未来。その先にある「宇宙での農業」

「2030年までに人工土壌を世界中に展開して、持続可能な農業をどんどん広めたい」と力強く語る西田さん。企業との共同研究にも意欲的で、一緒に人工土壌を広めてくれるパートナー企業を募集中とのこと。
「宇宙での農業」は、2030年ごろに予定される月面基地建設計画の方向性が見えてきたこともあり、月面での農業実現への研究プロジェクトが進行中。壮大な夢に挑む西田さんの挑戦はこれからも続きます。

株式会社TOWING ホームページ
https://towing.co.jp/

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