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雨と錠剤、夏の性。



「それにしてもさ、女は楽でいいよな。ピル飲んでおけばいいんだから」

私は、その男の言葉に腹が立ちました。

だってそうでしょう?
勝手に人の中に出しておいて、笑いながらそんなこと言える神経はきっとどうかしている。

曇った空の下、私の部屋で笑いながら、男は脱いでいた服を着る。

正直私はこの男を好いていた。
いや、より正しく言えば、気になっていた。
天真爛漫で笑顔が絶えない人。私には無いものを持つこの男にとても惹かれていた。

本当にたまたま、道端で出会っただけのこの男に魅力を感じて
本当にたまたま、誰も家にいない日に部屋にあげた。

それが始まりだった。昨年の夏の夜。
今日でちょうどこんな変な関係を持ち1年だった。

うだる暑さの中忙しく鳴く蛙の鳴き声を聞きながら私は女であることに悦びを感じていた。
酷く鮮明に覚えている。

私は高校生
この男は大学生
その年の差も魅力のひとつで。

だからこの男との時間は心地よくて
選ばれたことの優越感に浸って
私は周りの子と違うんだって特別感にどぶりとハマって

ハマって、ハマって、落ちた。

今日は蛙の鳴き声よりも、雨の音が響いている。

雨の音で、さっきの言葉も聞こえなかったら良かったのに。
そうしたら、こんなに腹を立てることも無くて。
こんな感情に飲み込まれることも無くて。

この男を、殺しなんてしなかったでしょうね。

楽なんかじゃないよ。
きっとあんたが思ってるより数百倍辛いよ。
好きでもあんたの子を孕めないんだよ。
あんたが彼氏ですって誰にも言えないんだよ。

なのにあんたが笑って「楽でいいよね」なんて言うから、だから私も笑っちゃったんだよ。

普段笑えない私が、こんな形であんたに釣られて笑うなんて。

最悪だよ。

本当にもう、最悪の夏だよ。

でもなんでかな、出会わなければ良かったなんて、全く思えないんだよ。
冷たくなっていくあんたを前にしても、好きだなって思ってしまうんだよ。

やだなぁ、私まだ、17なんだよ。

最後についたこの男への嘘。
私本当は最近、ピルなんて飲んでないよ。

ねぇ、最後の賭けをしよう。
これであんたの子どもがいたら、私は後生大切に育てるよ。
でもいなかったら。
いなかったらその時は。

また雲の上で、偶然あんたと出会えますように。

私はベランダに出て、血塗れのナイフと手を豪雨にさらし、洗う。
落ちているようで落ちないその男の温もりを噛み締めて微笑んだ。

「男は楽でいいよね。逃げたらそれでいいんだから」

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