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ある少女と願望と夢の話

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願望を叶えたい藤丸立香と、夢を見るオベロンの話です。 全話無料公開で定期的にアップロードしていきます。
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#小説連載中

【小説】ある少女と願望と夢の話

【小説】ある少女と願望と夢の話

 妄想の延長線に過ぎないのかもしれないと思いつつも、自分が何に違和感を感じるのか慎重に手探りする。後ろから目を塞がれて、その暗闇の中を歩いているかのような気分だった。そこにあるのにわたしには見えない。
 「何一つ理解していなかった」、そう思い知らされてしまったが故に、盲目になったかのようだ。

「悪癖だな、自分のこころを慰める方法は他にもあるだろう」

 彼は、わたしの目を塞ぐ手に力を込める。
 

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【小説】後悔は思い込みから生まれた

【小説】後悔は思い込みから生まれた

 ―――正論だ。後悔しているのはわたしの方だ。

 言っていれば良かった、こうしていれば良かった。
 本当はそれを無くすために行動していたはずなのに、やがてそれが変質していた。知らないうちに、「死ぬときに後悔しないため」に変わっていた。
 そして、それも変貌した。彼の夢を見てから、「オベロン・ヴォーティガーンが後悔しないため」に変わっていた。勝手な願望を抱かれることが我慢できなかった。

 押し付

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【小説】盤上で踊らされているのは彼かわたしか

【小説】盤上で踊らされているのは彼かわたしか

「呆れた、本気でこんなとこまで追っかけて来たんだ?物好きを極め過ぎじゃない?」

 ムッとしたわたしが「来たくて来てるわけじゃないけど」と言い返すとオベロンは不満そうな表情でわたしを見る。

「とうとう俺にまで隠そうとするようになったか?無駄だってわかってるくせに健気だよね、君」
「きみの方こそ、いい加減気づいてるんでしょ?いつまで目を逸らすつもり?」

 オベロンは視線を落とした。熔けてしまった

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【小説】秋の森できみとチェスを

【小説】秋の森できみとチェスを

 ゴウンゴウンと腹の底を揺らすようなけたたましい音。曖昧で聞き取れないアナウンス。ビリビリと痛む足の裏。…錆びた、鉄の匂い。
 車窓に映る光が右から左へ流れていくのをわたしはぼんやりと眺めている。どうやらこの鉄の箱は地下を走っているようだ。窓ガラスに反射しているはずの自分の顔はうまく認識できない。
 途端に電車がガタンと急ブレーキをかけて、警笛をブァーンと鳴らした。わたしの体は強く揺さぶられたこと

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【小説】決別のかたち

【小説】決別のかたち

 ここ数週間、わたしは図書館にあるアーカイブを読み漁っていた。そのほとんどが睡眠に関するもので、残りは魔術世界における英霊の位置づけについてだ。
 とはいえ、前者は「結局睡眠ってよくわかんないね」という結論に落ち着き、後者はバックボーンが違いすぎてほぼ理解できなかった。

「サボってきたツケかぁ」

 お世辞にも、わたしはマスターとしての責任を果たしているとは言いづらい。特異点解消のためのレイシフ

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【小説】藤丸立香の日記

【小説】藤丸立香の日記

藤丸立香の日記① ドクドクと規則正しい心臓の拍動の音。一つしか鳴らない、鳴り止まない。その音に合わせて、顔に触れた髪がかすかに震える。
 煌々と白々しい白熱電球。その光がちらちらと灰色の髪に遮られて、セレストの双眸が冷たい色でわたしを見つめているーー。

「オベロン」

 オベロンと呼ばれた男は肩をピクリと震わせた。瞳の温度はそのままに、目頭を若干不機嫌そうに細める。

「ヴォーティガーン」

 

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