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願望を叶えたい藤丸立香と、夢を見るオベロンの話です。 全話無料公開で定期的にアップロードしていきます。
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立香が出ていくのを見て俺はため息をついた。彼女は人と狭く浅く付き合うタイプだ。ましてや誰かと付き合うなんて一切興味がないらしい。交友関係が長続きしているのを見たことがないし、ひとりで黙々と過ごしていることが昔から多かった。 3週間ぶりに見た彼女の顔はひどいものだった。やつれて目の下には隈を作って、夕暮れのような色の髪はパサパサで、明らかに睡眠不足だった。 立香は料理が得意ではない。その上食べることに執着しないから、こうやってたまに栄養価の高いものを食べさせないとすぐに痩
夜10時半。私は自分の家の鍵を扉に差し込んで、鍵が開いてることに気がついた。また来てるのか…、わたしは少し躊躇ってから扉を開ける。 「ただいまー…」 「おかえりぃ〜」 奥のリビングからてとてと歩いてきた幼馴染、オベロンという名の酔っぱらいが一升瓶を抱えて歩いてくる。異常にアルコール臭い。 「ねぇ〜帰ってくるのおそい…」 「来てるなら一言メッセージくれれば助かるのになぁ…鍵開いてるといつもびっくりするんだよね。」 これから始まるであろう空騒ぎへの嘆きと共に靴を脱いで、コート
妄想の延長線に過ぎないのかもしれないと思いつつも、自分が何に違和感を感じるのか慎重に手探りする。後ろから目を塞がれて、その暗闇の中を歩いているかのような気分だった。そこにあるのにわたしには見えない。 「何一つ理解していなかった」、そう思い知らされてしまったが故に、盲目になったかのようだ。 「悪癖だな、自分のこころを慰める方法は他にもあるだろう」 彼は、わたしの目を塞ぐ手に力を込める。 ――やっぱり、何か隠したいことがあるんだ。 わたしはそう見当をつけた。 彼の
―――正論だ。後悔しているのはわたしの方だ。 言っていれば良かった、こうしていれば良かった。 本当はそれを無くすために行動していたはずなのに、やがてそれが変質していた。知らないうちに、「死ぬときに後悔しないため」に変わっていた。 そして、それも変貌した。彼の夢を見てから、「オベロン・ヴォーティガーンが後悔しないため」に変わっていた。勝手な願望を抱かれることが我慢できなかった。 押し付けがましいにも程がある。最低だ、自分は手前味噌な願望を持たれることを嫌悪したのに
「呆れた、本気でこんなとこまで追っかけて来たんだ?物好きを極め過ぎじゃない?」 ムッとしたわたしが「来たくて来てるわけじゃないけど」と言い返すとオベロンは不満そうな表情でわたしを見る。 「とうとう俺にまで隠そうとするようになったか?無駄だってわかってるくせに健気だよね、君」 「きみの方こそ、いい加減気づいてるんでしょ?いつまで目を逸らすつもり?」 オベロンは視線を落とした。熔けてしまった駒を眺めている。そんなにわたしを見るのが嫌なのだろうか。それほど、口にされること
ゴウンゴウンと腹の底を揺らすようなけたたましい音。曖昧で聞き取れないアナウンス。ビリビリと痛む足の裏。…錆びた、鉄の匂い。 車窓に映る光が右から左へ流れていくのをわたしはぼんやりと眺めている。どうやらこの鉄の箱は地下を走っているようだ。窓ガラスに反射しているはずの自分の顔はうまく認識できない。 途端に電車がガタンと急ブレーキをかけて、警笛をブァーンと鳴らした。わたしの体は強く揺さぶられたことには反抗せず、反動に任せてシートに身をゆだねる。すべすべとしたベルベットの生地は
ここ数週間、わたしは図書館にあるアーカイブを読み漁っていた。そのほとんどが睡眠に関するもので、残りは魔術世界における英霊の位置づけについてだ。 とはいえ、前者は「結局睡眠ってよくわかんないね」という結論に落ち着き、後者はバックボーンが違いすぎてほぼ理解できなかった。 「サボってきたツケかぁ」 お世辞にも、わたしはマスターとしての責任を果たしているとは言いづらい。特異点解消のためのレイシフトが詰め込まれ、それ以外の時間は報告書の作成に明け暮れる。とてもとは言えないが、
霧 「迷いの霧?」 狭い工房には、アルトリア・キャスターと、オベロン・ヴォーティガーンと、工房の主人であるダ・ヴィンチが顔を突き合わせている。ダ・ヴィンチは眉をひそめた。 「そう、迷い霧。」 今度はアルトリアが眉をひそめる。 「でも、私たちはなにも見ませんでしたよ。ねえ、オベロン。」 「そう?俺はよく覚えてないけど」 アルトリアが空気を読め、とでも言いたげに顔をしかめた。 ダ・ヴィンチがひとつ咳払いをする。 「きみたちは、なんていうか、空想の存在に近いから
「一体君はいつまでごっこ遊びを続けるつもり?」 再び板張りの廊下を歩いていると、後ろをついてきていたオベロンが口を開いた。 「……帰れるまで」 振り返らずに答えたわたしに、オベロンはやれやれ、といった様子で付いてくる。足音のテンポが少し速くなった。 「『特異点を解消するまで』じゃ、ないんだ?」 その言葉に立ち止まる。確かに言われてみればその通りである。でも一瞬、ほんの瞬きの間、わたしはここが特異点であるという前提を忘れていたように思う。なぜだろうか、それがとて
メモ:暇なときにアイコン描き直したい
平凡だったはずの少女について① 『連続のミッションでゴメンね、藤丸』 「いえ、レポートも書き終わりましたし大丈夫です。」 腕に巻いた通信機に向かって話す私は、傍から見れば相当頭がイカれているように見えるに違いない。そう予想できたので人通りの少ないであろう部屋で小声で話しているのだが、そろそろ表へ出たほうが良さそうだ。 今回の目標を確認して、通信を切った。表へ出ると、同行者が一名、わたしに目をやる。 「お待たせして申し訳ありません。今回もどうぞよしなに。」 特異点の
五里霧中① 「うーんこれはマズイ!」 「言ってる暇があったら足動かせ!呑まれるぞ!」 ジャカジャカと全身の装備を揺らしながら全力疾走すること4名。 「こういうときにこそ『いつものことだ』って言いながら、謎の余裕をみせてくれないかなクソマスター!」 「言ったところで現状は変わらないよオベロン!」 「ていうかクソマスターってなんですかクソオベロン!!ぶん殴りますよ!」 「殴るなら追っかけてきてるキメラにしてくれるかなぁ!?」 危機的状況なのに喧嘩が始まってしまいそうにな
狭間① 「カルデアにいるうちにやり遂げたいコト、ですか?」 レイシフトの目的地、近代に程近い時代の都市に向かって移動している途中。いつものように座標のズレで20kmほど離れた場所に飛んでしまったわたしたちは、朝から歩き詰めの足を休ませるために休憩に入っていた。 「うーん…。」 少女の金糸が小刻みに揺れた。 さっきまでは勢いよく野の獣を追い立て、跳び蹴り、殴打、爆薬、目くらましを食らわせていたお転婆だったのに、今はスイッチがオフになったかのように穏やかだ。いやむし
願いごと 「またお願いね、マスター!」 そう言って手を振りながら廊下の角に消えていった人影を見送って、わたしは壁に寄り掛かった。 わたしがそうしたいと決めて始めたことだ、だからもちろん後悔なんてあるはずないんだけど。 「終わらせてくれないなぁ…。」 右肩を壁にくっつけたままズルズルとしゃがみ込む。これはまずい。誰かに見られたらまた「医務室!?」って言われるに違いない。ああ、まったく。わたしは元気なのにみんな心配性だ。 果たせば果たすほど、”次”が増えていく。い
藤丸立香の日記① ドクドクと規則正しい心臓の拍動の音。一つしか鳴らない、鳴り止まない。その音に合わせて、顔に触れた髪がかすかに震える。 煌々と白々しい白熱電球。その光がちらちらと灰色の髪に遮られて、セレストの双眸が冷たい色でわたしを見つめているーー。 「オベロン」 オベロンと呼ばれた男は肩をピクリと震わせた。瞳の温度はそのままに、目頭を若干不機嫌そうに細める。 「ヴォーティガーン」 いたいよ、とわたしは告げた。その言葉は白い壁に吸い込まれて消えていった。まるで最
投稿予定日は予告なく変更になる可能性があります。ご了承ください。 ※12/24追記:24, 25は準備のためお休みさせていただきます