渡辺 裕子

ライター。2009年からグロービスでリーダーズ・カンファレンス「G1サミット」立上げに…

渡辺 裕子

ライター。2009年からグロービスでリーダーズ・カンファレンス「G1サミット」立上げに参画。事務局長としてプログラム企画・運営を担当。2017年より面白法人カヤックにて広報・事業開発を担当。ブックライティングを中心に活動中。 https://paidia.cc/

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    人生は短く、世界は読むべき本で満ちている。

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『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』

ロシアのウクライナ侵攻から半年が過ぎた。 ロシアとはどのような国か。書店には解説書コーナーができているが、確実なのは、やはり歴史に学ぶことだと思う。 1945年8月9日、ソ連は日ソ中立条約を一方的に破棄して、当時の日本領である満州に侵攻した。日本がポツダム宣言を受諾し、無条件降伏する一週間前のことだった。 この半年前に開かれたヤルタ会談で、スターリンはこの半年前に開かれたルーズベルト米大統領、チャーチル英首相との間で、日本に参戦する見返りとして南樺太・千島列島を領土とす

    • 『マッキンゼーをつくった男 マービン・バウワー』

      「産業をつくる」には、どうしたらいいのだろう。この本を手にしたのは、そんな疑問を持った時だった。 マービン・バウワーは、タイトルの通り、世界的な戦略コンサルティング・ファーム、マッキンゼーをつくった男。ただし創業者ではない。 彼が入社した1933年、マッキンゼーの主な業務は、経営不振に陥った企業支援で、銀行や債権者委員会、取締役会のための調査を行なっていたという。 当時は、経営コンサルティングという言葉さえ誰も聞いたことがなかった。マッキンゼーが再出発したときのメンバー

      • 上田久美子 宝塚退団後初の朗読劇「バイオーム」が神がかっている(感想)

        人気演出家・上田久美子氏の宝塚歌劇団退団後、第一作目となる「バイオーム」は朗読劇だという。出演は、花總まり、麻実れい、中村勘九郎、古川雄大、野添義弘、成河、安藤聖。 なぜ朗読劇なのか。7人全員が一人二役だそうだが、どのようなものになるのか。公式サイトを見ながら、よくわからないまま、6月の千秋楽、池袋の劇場に向かった。 凄かった。凄まじかった。 三代続く有力政治家の庭に植えられたクロマツ(麻実れい)をはじめとする植物たちのささやくような会話が重なり、奏でられる音楽のよう。

        • 令和式ワークライフバランスの考え方

          ワークライフバランスというと、このようなイメージだったと思うのですが、 友人と話していると、目指したいのはこーいう感じだよねという話になりました。。点線で囲んだところをなるべく増やしたい。 「仕事か休暇か」ではなく、仕事であれプライベートであれ、面白いこと・好きなことをなるべく自分で選べる状態。 仕事は1日8時間我慢してやるものではなく、寝食忘れるほど打ち込める好きな仕事があって、余暇に体を鍛えるのも、インプットするのも、どこかで仕事につながっていて、それが楽しい。ワー

        『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』

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          『父 吉田茂』 麻生太郎の母による痛快すぎる日本近現代史の証言

          痛快に面白かった。著者は麻生太郎の母、吉田茂の娘で、大久保利通の曽孫にあたる。 明治維新の立役者・大久保利通(薩摩藩出身)の息子が二・二六事件で襲撃された牧野伸顕、その娘が吉田茂を婿に迎え、生まれた著者・麻生和子の子どもが麻生太郎と寬仁親王妃信子なのだから、薩長の権力は今もなお日本の近代を支配しているのだなとつくづく思う。 華族のお嬢さんのおっとりしたエッセーかと思いきや、あらゆる意味で突き抜けすぎている。さすが麻生太郎の母。 終戦後、首相となる吉田茂は、戦前・戦時中は

          『父 吉田茂』 麻生太郎の母による痛快すぎる日本近現代史の証言

          『怠惰への賛歌』(2) 建築と新しい「コモンズ」

          前回、バートランド・ラッセルのエッセイ集『怠惰への賛歌』に収録されている表題作「怠惰への賛歌」を読んで、今こそ読まれるべき作品だと思ったけれども、同じ本の第3部に収録されている「建築と社会問題」もまた、現代にこそ読まれるべき作品と思う。 「寒気を防ぎ、雨露をしのぐ実利的な目的が」ある建物は「貧乏人の住居についてみても十分果されている」。 では、美しい建物、荘厳な建築は、誰がつくり出してきたのか。中世には、それは「教会と商業」だったという。ヴェニスやジェノアの商人たちは「荘

          『怠惰への賛歌』(2) 建築と新しい「コモンズ」

          『怠惰への賛歌』(1) なぜ私たちは100年前の「8時間労働」に現代も囚われているのか

          『怠惰への賛歌』は、ノーベル賞作家であるバートランド・ラッセルによる15篇から成るエッセイ集。 その冒頭に収録されている表題作「怠惰への賛歌」は、1932年(第二次世界大戦前、ドイツ総選挙でナチス党が圧勝した年)に書かれたものだけれど、今こそ読まれるべきだと感じる。 「1日4時間労働」を100年前に提唱していたラッセル20ページにわたるエッセイを3行に要約するなら、以下のようになる。 ・「勤労は美徳」という産業革命以降続いてきた「常識」は、テクノロジーの進化によって、崩

          『怠惰への賛歌』(1) なぜ私たちは100年前の「8時間労働」に現代も囚われているのか

          チャンスはチャンスの顔をしてやってこない

          先日、ある美術系の学校で作品を審査する機会があった。会場にずらっと100以上の作品ブースが並び、製作した学生さんがいる。 作品に合わせたファッションで目を引く子。 手製の名刺を渡してくる子。 目を合わせずモジモジしている子。 本人は寡黙だが、作品のキャッチコピーやプレゼンテーションが秀逸な子。 それで、なんとなく大地真央さんの若い時のエピソードを思い出した。宝塚時代、新人はモブキャラ(端役)しか与えられない。集団で一言ずつ言いながら舞台に出てくる役で、大地真央さんはわざと

          チャンスはチャンスの顔をしてやってこない

          オンライン料理教室に参加して、資本主義について考えた話

          フランス・ニースで活躍される松嶋啓介シェフのオンライン教室に参加した。東京・香川・鎌倉からZoomでつないで、食材はあらかじめ各自で準備して、ニースにいる松嶋シェフのディレクションのもと、みんなでワイワイお料理する。 この日教えていただいたのは、鶏レバーのガトー仕立て、塩なしトマトソース。(レシピ動画はリンク先からご覧いただけます) 松嶋シェフは最近『最強「塩なし」料理理論』という書籍を出版された。タイトルだけ見ると、生活習慣病の人向けの減塩・無塩レシピのよう。でも、ちょ

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          「仕事ができる」とはなにか 家来Aと家来Bの童話

          家来A 「なんで家来Bばかり評価されるんですか? 僕もがんばってるのに!」 王様 「おけ。じゃあ、ちょっと裏庭見てきてくれる?」 (家来A、裏庭を見にいく) 王様 「めんどり、何羽いた?」 家来A 「」(見にいく)「5羽です」 王様 「あっそ。エサ食べてた?」 家来A 「」(見にいく)「食べてないようです」 王様 「あ、家来B、裏庭見てきて」 (家来B、裏庭を見にいく) 王様 「どうだった?」 家来B 「めんどりが5羽いましたが、先月から2羽減っていました

          「仕事ができる」とはなにか 家来Aと家来Bの童話

          経営者に聞いた、欲を節制するには欲を育てるのが一番大事だという話

          ジュリアス・シーザー。ナポレオン。織田信長。彼らの共通点がわかる? それは慢心に殺されたということだ。 先日、活躍中の経営者から伺って、忘れられない言葉。 その方は定期的に座禅しにお寺に行き、住職の方に尋ねるという。 「どうしたら慢心せずにいられますか」 「大欲を持つことです」 大欲とは、たとえば社会をもっと良くしたいという望みだという。お金儲けしたいとか、会社を大きくしたいという欲は、ある意味では、小さい。その欲を持ち続ければ、慢心に陥らないと。 「

          経営者に聞いた、欲を節制するには欲を育てるのが一番大事だという話

          「一生懸命営業中」という看板が好きじゃない理由

          「一生懸命営業中」という看板が好きじゃない。 ということをふと思い出したのは、昨日、京都の赤垣屋という店に行ったからだ。 この店がその看板を掲げているわけではない。「赤垣屋」という赤ネオンの下に縄のれん。それだけの小さな店構え。 おでんの鍋を中央に据えた厨房を取り囲むL字カウンター。冷や酒を頼むと、大きな樽酒からコップになみなみと注いでくれる。樽の香り。 突き出しは、ほうれん草の胡麻和え。経木に書かれたメニューは、ひらめやシマアジなどの刺身。納豆。焼き物。湯豆腐、揚げ

          「一生懸命営業中」という看板が好きじゃない理由

          安定的なオペレーション確立しようとすると、組織は凡庸になってしまうし、ゆらぎを起こし続けようとすると、平準化しづらい。

          安定的なオペレーション確立しようとすると、組織は凡庸になってしまうし、ゆらぎを起こし続けようとすると、平準化しづらい。 とFacebookに投稿したら、主に経営者の友人を中心に「わかる!」とゆー共感をもらった。(というか、ほぼ経営者からしか反応なかったw) 創業期のベンチャーの時代には、エッジがあって面白かったのに、規模が拡大するにつれてカドがとれて「ふつうの」会社になっていくという話と言いかえてもいいのだと思う。 人間、放っておけば、マニュアル化したがるし、前例に従い

          安定的なオペレーション確立しようとすると、組織は凡庸になってしまうし、ゆらぎを起こし続けようとすると、平準化しづらい。

          「人前で話す前には死にたくなる」とその女性経営者はいった

          「大勢の前で話すときは、数日前から緊張して、たまに死にたくなる」とても華やかで、才能溢れる女性経営者の言葉。 しょっちゅう講演して、メディアの取材がひきもきらないひと。 生来、人前で話すことが好きで得意で、なんの苦にならないひともいるだろう。 けど、不思議なほど、私が知っている経営者や著名人は、かつて引きこもりだったり、生来がそれほど饒舌でなかったりする。 もちろん私も、人前で話すときは、どんなに短い時間でも、かなりの憂鬱に見舞われる。胃がせり上がり、吐きそう

          「人前で話す前には死にたくなる」とその女性経営者はいった

          人生40年ほど生きて気づく、温泉と文学の効用

          携帯の充電でいうなら残量7%くらいになっていた気がする。いや、4%くらいか。 なにがいやとかではなく、ただ疲弊して泣きたくなる。あとひとつ荷物が増えたら、スリープアウトするか、泣きながら暴れてしまいそう。 いい歳してそんなわけにはいかんので、一日休める日を見つけて、たまたま空いていた近場の宿を二日前に予約した(もちろん、ひとりだ) 最寄というバス停から、殺す気かというような急勾配の坂を登り、宿に到着して、女将の挨拶もそこそこに、畳に横になって小説を読む。 しば

          人生40年ほど生きて気づく、温泉と文学の効用

          太宰治「斜陽」 女の恋は憧れで始まり、無関心で終わる

          太宰治「斜陽」のおそろしさは、年を重ねてからわかる。上流階級が戦争で没落していくおそろしさではなく、女性のおそろしさだ。 ヒロインであるかず子は、退廃的な生活を送る既婚者で作家の上原二郎に恋をし、子供を宿す。 上原に宛てた手紙として、独白のように語られる言葉。「M・C」とかず子は語りかける。 M・Cーーマイ、チェーホフ。 初期には、そのように書かれた言葉は、中期には「マイ、チャイルド」という呼びかけに変わる。 そして、上原と別れ、シングルマザーとなることを決意した終

          太宰治「斜陽」 女の恋は憧れで始まり、無関心で終わる