【映画感想文】宝塚星組『RRR』を観てきた! よかった! 元気出た! 『VIOLETOPIA』も刺さりまくった! そして、谷貴矢さんのコメントに心打たれた
楽しみにしていた宝塚星組公演『RRR × TAKA"R"AZUKA ~√Bheem~(アールアールアール バイ タカラヅカ ~ルートビーム~)』を観てきた。
宝塚で映画『RRR』をやると聞いて、誰もがそう思ったように、わたしもマジか! と驚いた。
ぶっ飛んだストーリー、ぶっ飛んだ演出、ぶっ飛んだ面白さ。映画としても破綻ギリギリというか、もはや破綻しているけれど、そんなことはどうでもよくなる奇跡の作品『RRR』、果たして、舞台化できるのか? いや、でも、宝塚ならできる。宝塚なら! そんな期待が膨らんでいた。
始まってみれば、想像以上に『RRR』の世界観が再現されていてビックリ。映画が3時間なのに対し、舞台は約90分と短縮されているので、相当なシーンがカットされているにもかかわらず、しっかり『RRR』だった。
みんなが観たいと思っているシーンはけっこう再現されていた。
橋の上の火事で取り残される子どもを救出するため、ビームとラーマが出会う場面なんて、どう考えても舞台でやるのは無理だろうと思っていたけれど、見事にエッセンスを抽出し、盛り上がる形に構成し直していた。
もちろん、ナートゥは大盛り上がり。ビームが鞭で打たれるところもいい感じだった。その後、ラーマが囚われて、救出に向かう件はギュッとまとめられ、非常に観やすくなっていた。肩車や動物たちとの共闘こそなかったけれど、トラの存在感は派手に示していたし、見事なアダプテーションだったと思う。
特に、舞台用に改変されている設定が巧みだった。映画では提督の姪・ジェニーを巡る描写がけっこう雑で、常に立ち位置が曖昧だったけれど、宝塚版では心優しい人として、明確に心情を吐露。かつ、ナートゥのとき、ビームとラーマをバカにする単に嫌なやつってだけのイギリス人男性も、宝塚版ではジェニーの婚約者として重要度アップ。これがギミックとして、全体の雰囲気にポジティブな影響を与えていた。
具体的に言うと、映画『RRR』はかなりインドのナショナリズムを煽る内容だったけれど、宝塚版はそのあたりがマイルドになっていて、普遍的な隣人愛の話っぽく落ち着いていた。
一応、S.S.ラージャマウリ監督はプロパガンダじゃないと言っているけれど、エンディングにインド独立に貢献した人々の似顔絵が次から次へと登場する点からも、政治的意図があるのは明らか。グローバルサウスを掲げ、イケイケどんどんなモディ首相の思想ともマッチしているし、そこにガンジーやネルーなど、穏健派を登場させないあたり、徹底していた。
もちろん、そこは表現の自由であり、だからダメというわけではないのだが、無邪気に受け入れるにはあまりにもセンシティブ。舞台化するにあたって、どう処理するのか気になっていた。
結論、めちゃくちゃうまくオブラートに包みこめていた。勧善懲悪の枠の中に暴力性を収めつつ、民衆の声から武力を必要としない革命の可能性を仄めかせ、綺麗事であっても平和的解決を望む姿勢をどうにかこうにか、差し込んでいた。これはきっと途方もなく大変な仕事だったと思う。その上で、礼真琴さん率いる星組のエネルギーが十二分にオリジナルのよさを引き出していて、圧巻だった。
ちなみに、今回、第二部の『VIOLETOPIA』も凄かった。
事前に平沢進の『パレード』が使われていると聞いて、自分の趣味に合う気がしていたけれど、これほどまでに刺さるとは。大好きなものが詰まりまくっていた。
朽ちた劇場。迷い込んだ青年がすみれの花に耳を澄ますと楽しげな声が聞こえ始める。それは建物に染み込んだ芝居の記憶で、時空を超えて、夢と現実の境を超えて、新しいのに懐かしい歌と踊りの数々だった。
寺山修司や唐十郎のようなアングラなムードがある一方で、ディープ・パープルをガンガンに効かせた70年代ロックっぽさ、フランスの貴族カルチャー、テクノなサングラスがあったりと闇鍋状態。まさに劇場ってそういう雑多が入り混じるところに魅力があるよね! って共感できた。
特に、ジャズっぽいところで、トップ娘役の舞空瞳さんが男装し、2番手スターの暁千星さんが女装するのだけれど、宝塚というベースを踏まえると性の入れ替えが重層的に発生していて、とても面白かった。いま目に見えているものがリアルであり、どう振る舞うかという動きの中にしか現実はあり得ないということなのかな。
そして、そのことを裏付けるかの如く、廃墟VIOLETOPIAはどんどん息を吹き返し、現実世界と逆転するに至る。そして、我々が観ている舞台こそ、現実よりも現実なのだと言わんばかりの大団円で幕が閉じる。
宝塚はいま大変な状況にある。劇団として責任を免れ得ない悲劇が起こり、情報は錯綜、みな、やるべきことができなかったり、言いたいことを言えなかったり、妥当な批判を受ける一方、過剰なバッシングに心を痛めなくてはいけなかったり、演者も裏方もそれぞれのグラデーションでこの問題と向き合っているはずだ。
変わるべき時がきているのは間違いない。公演プログラムに載っている谷貴矢さん(『RRR』脚本・演出)のコメントにはその思いが記されていた。
宝塚がこれからどう変わっていくのか。場合によっては厳しい結末が待っているかもしれない。実際、そうなって然るべき問題が起きている。それでも、舞台の素晴らしさを目の当たりにすると、宝塚がいつまでも続くことを願わずにはいられない自分もいる。
だからこそ、宝塚には谷貴矢さんの言う通り、「変えるべきものは徹底的に変え、勇気を持って弱さと向き合いながら、少しでもより良い大地に向かって流れていけるよう努力を続けて」もらいたいし、その努力をしてくれるのであれば、我々は支えていかなきゃいけない、なんてことを思った。
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