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泥棒

猫のカバー画像に、タイトルに泥棒とは、いささか聞き捨てならないと思われる方も、大勢いらっしゃるのではないかと想像する。

だが、ほんのちょっとだけ、私の話を聞いて欲しい。いや、大した話ではない。他愛の無い、ほんの、独り言。昔話である。


実は、泥棒猫を、目の当たりにしたのだ。ちょうど、カバー画像のような猫だった。


まだ、祖父、祖母と同居をしていた、私が幼稚園に通う前の頃だ。ある日の夕方、2階の炊事場で、祖母が夕飯の準備をしていた。

炊事場とはいっても、それほど広くない。流しがあり、その横に、ガスコンロとガス炊飯器があった。そしてその場所の向かって左側には、引き戸があって、それを開けると小さなもの干し場が、あった。そこは、隣家の屋根屋根の中にあり、ちょっとした島のように見えた。


祖母は、まな板の上に、魚を置いた。今日のメインディッシュは、きっと、煮魚だ。

煮魚、という言葉を当時の私が知っていた訳は無いが、魚料理が好きな私は、ウキウキしていたのは覚えている。

夏の夕方、引き戸を少し開けて涼みながらの料理。私は、すぐ横の食卓に座り、祖母の手伝いで、鰹節を削っていた。

その祖母が、なぜか、その場を離れたのである。トイレにでも行ったのだと思う。そこは、よく覚えていない。

一瞬の隙だった。

シマシマの忍者がまな板の上に飛び乗り、魚を咥えて飛び降り、もの干し場から、屋根の波に消えた。

あっ、とも、何とも言えない、一瞬の出来事。


ほどなく祖母がその場に帰って来て、言った。

あれ?

呆然とする私を振り返り、

コジ、魚は?

私は、

ね、猫、猫!

イスから飛び降りて2人で引き戸をがばっと開けて、物干し台に出ると、随分と離れたところで、その猫が、こちらを振り返りながら、悠々として、屋根の上に下ろした魚を、今にも貪ろうとしているところだった。

祖母に、猫から魚を守ることはできなかったのかと、ちょっと叱られた。そんな無茶なと私が言ったかどうかまでは記憶が無いが、幼いながらに、祖母も理不尽なことを言うなぁと、ちょっと戸惑ったことは覚えている。


そこで学んだのは、知らないところで自分の大切なモノを狙っている悪魔がいるかも知れないということ。そして、動物は、油断がならないということだった。おまけに、猫のことが少しだけ嫌いになった。長い間。

だが、何年もして、兄の家で猫を飼いだした。その3匹の猫が、可愛くて仕方が無いのだ。いまだに私のことを、3匹とも、警戒しているのだが。

泥棒猫。その言葉の真の意味を、私は、身をもって知っている。

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