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小説『たとえば君が売れたら』

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1968年に起きた、 東京、府中の三億円事件をご存知だろうか。 恐らく、事件のことは誰でも知っている。 だが、真犯人が実際は誰だったのかは、 本人しか知らないことだろう。 作品と…
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「たとえば君が売れたら」4、住所不定無職

付き合ってまだ1ヶ月も経っていないうちにわたしの誕生日が来た。わたしは太宰治の生まれ変わりなのである。

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『たとえ君が売れたら』 3、中弛みの6巻と商店街

彼のこと、わたしのこと、その後もLINEや電話でたくさん話したし、今思えばお互いにとても盛り上がっていて、わたしたちはかなり頻繁に会っていた。
彼はミュージシャン仲間の男性とシェアハウスのような感じで、大阪に来てから生活していると話してくれた。
わたしは当時まだ実家暮らしだったので、彼の住む家に何度も行かせてもらった。
猫がいて、「にゃーさん」という名が付けられていた。
とてもおっとりしていて人懐

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『たとえば君が売れたら』2、指輪の王子様その②

何曲ずつ歌ったところだっただろうか。
彼が急にマイクを置いて、こちらを向いて正座した。
「夏妃さん」
わたしは何となく分かっていた。
「好きです」
やっぱり、来た。どうしよう。わたしも好きだ…
もう止められない。はぁずるい。
「はい」
わたしまで敬語に戻る。
「付き合ってもらえませんか」
彼は少し赤らんで言った。
わたしはそこでふと冷静になり、「え!彼女は!?」と聞くと彼は「広島にいたけど別れてき

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『例えば君が売れたら』2、指輪の王子様その①

『例えば君が売れたら』2、指輪の王子様その①

彼とはその後すぐに連絡先を交換し、毎日連絡を取り合っていた。

「おはようございます」「バイトがんばってね」そんな他愛もないやり取りが続いたけれど、彼と会う日はまたすぐにやってきた。
忘れもしないあの蒸し暑さと5月。

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『たとえば君が売れたら』1、夢で逢えたら

【まえがき】
1968年に起きた、東京、府中の三億円事件をご存知だろうか。
恐らく、事件のことは誰でも知っている。だが、真犯人が実際は誰だったのかは、本人しか知らないことだろう。
作品というのは、フィクション・ノンフィクションを問わない。
わたしも、過去の出来事をこうして小説にして、精算したかっただけだ。とでも言っておこうか。
もしかしたらあの人の事かも、と信じてくれる人がいて、上手く書かれたただ

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