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ソーシャルリスニング、2023年振り返りと2024年の未来予測

みなさん、あけましておめでとうございます。
昨年はお世話になりました。2024年が皆様にとって良い年になりますように。

本当は、この記事は2023年内に投稿しようかとプロットを整理していたのですが、年末の燃え尽きた脳みそではなかなか頭が整理できずで、年を越してしまいました。
改めて2024年のフレッシュな頭で2023年のソーシャルリスニングを振り返りたいと思います。


一年前のまとめ記事を振り返ってみる

2023年を振り返る前に、その1年前、2022年末にはどんなことを言っていたのか、自分でも関心があるのでレビューしてみましょう。

1年前の2022年末に書いた記事は試験的な取り組みとしてPodcastを配信して、その書き起こしを掲載してましたね。いやー懐かしい(笑)。

ラジオ形式なので話が色々と発散していますが、ポイントとしては、「ソーシャルリスニングは既存リサーチのブラインドポイント(今はカバーできていない領域)を埋める存在になる」という話をしていたと思います。

これはソーシャルリスニングにとって非常に重要な視点だと思っています。ソーシャルリスニング特有というよりも、既存技術が存在する領域に新規参入するプレイヤーとしての基本戦略とも言えるかもです。

詳細は過去のウェビナー(会社として開催したもの)でもまとめているんですが、大きく6パターンの「既存リサーチのブラインドスポット」があると考えています。
2023年はこの視点をフックに、ソーシャルリスニングの活用ユースケースが大きく広がるのではないか、ということを考えていました。

2023年の1年間を振り返ってみると、予想通りになった部分と、そうではなかった部分がありました。
予想通りの部分としては、ニッチ層やスモールマスの理解・分析にソーシャルリスニングのユースケースが広がるという予測です。詳しくは後述したいと思います。
一方で、仮説探索・アイデア探索の部分では、まだ十分な成長を達成できていないのが予想とは異なっている部分です。

また、AI活用についても、2022年末の時点では今ほどの変化は予測していませんでした。ここでのAIとはいわゆる「生成AI」のことでChatGPTに代表されるような種類のものを指しています。

このブログでは、ChatGPTが世間で話題になる前からソーシャルリスニングとAI活用をテーマに取り上げていました。

(この記事が2022年9月なので、我ながら早いタイミングだったなぁと思っています。先行した画像生成AIの勃興をフックにした記事でした。ちなみに、ChatGPTの検索量の推移をみると、世の中的に関心を産んだのは2023年2−3月くらいですね)

Googleトレンドにおける「ChatGPT」の検索量推移

2023年は私のチームでも1年を通じてAI活用を研究・実践した1年でした。
もちろんこれは大規模言語モデルとチャット形式のインターフェースが生まれたのも非常に大きなドライバーです。ChatGPTの公開を待たないといけない部分はありましたが、2022年末にはここまで重要なピースになるとは思いませんでしたね。

まあ、自己採点するなら正解率50点という感じでしょうか(笑)



2023年の振り返り

では、改めて昨年1年のソーシャルリスニングを振り返ってみましょう。

①着実なソーシャルリスニングの発展

まず注目したいのは、着実なソーシャルリスニングの発展です。
既存リサーチ手法と比較するとまだまだ小さな規模にとどまりますが、我々の観測域の中では、2023年も引き続き手法として発展している変化を目の当たりにしています。

直近のESOMARレポートでは、アジア圏に限定するとデータアナリティクスは大きな成長をしていないのですが、シェアとしてみると成長といえますし、アジア圏と日本国内市場という違いもあるのではないかと思います。

マクロミルさんのnoteから拝借
https://note.com/macromill/n/nd8f4f1e11078
同上

日本国内でソーシャルリスニングだけに限定した市場規模の統計はなかなか手に入りませんね。そのため、上記のような外周の情報と体感できる観測値でしか話ができないのですが、既存リサーチ以外の手法への関心や期待というのは、数年前よりも強くなっていると感じています。

規模は伸び代がるとしか言えない部分は否定できませんが、まだまだピークアウトしている感触はありません。

②需要と供給のアンバランス

「関心や期待」とつながるのですが、一方で、クライアント企業や事業会社が満足するようなソーシャルリスニングを提供できるプレイヤーが少ない点も重要なポイントだと思っています。ここが2つめのポイントです。

日本国内において「ソーシャルリスニング」を考えると、専用ツールの利用、Saas領域の話になってしまう現実があります。もしくは、データ解析会社の量的な側面が強いデータ解析に特化するパターンが多いかと思います。

そうなると「消費者インサイト・生活者心理の理解」という側面でソーシャルリスニングを考えることが難しく、炎上監視/SNSマーケの効果測定という非常に限られた範囲でのユースケースに閉じてしまいます。

一方で、SNSデータには市場理解・消費者理解につながる何かがある、というイメージや期待を持っているクライアント企業は少なくありません。
これは上記のESOMARレポートにあるようにグローバル企業内での動きだけでなく、国内企業でも同様だと思います。

つまり、クライアント企業が期待しているソーシャルリスニングの使い方とエージェンシー側が提供しているサービスがマッチングしていないため、潜在的なニーズとして表面化しにくい状況にあるのではないかと推測しています。(この辺は、クライアント企業のリサーチ部門とブランド部門、R&D部門でも温度差はあるのですが(笑))

このような表面化しにくい潜在的なニーズは、2023年以前から存在はしていたものの、昨年になったやや表面化してきた印象を持っています。
もしかすると、コロナが終わり企業の景気が戻ってきている点、円安によって一部の企業は業績が良くなっている点なども影響して、新しいものにチャレンジできる環境(財務的+心理的)が育ち始めているのかな、とも考えていたりします。

③ヘルスケア領域での可能性

その中でも、特に変化が大きいのがヘルスケア領域でのユースケースの増加です。

ソーシャルリスニングの技術面での難しさの一端は、扱うデータ(投稿)の濃度にあります。ソーシャルリスニングで扱うデータは、企業のリサーチ活動とは無関係の「天然の生データ」なので、調査する側にとって都合のいい品質のデータが簡単にあつまらないという難しさがあります。だからこそ、ここにデータ分析やAIの技術が生きるのですが。

その点、ヘルスケア領域の投稿は基本的なデータ濃度が高く、効率よく高い品質での分析が可能です。その点がヘルスケア業界のクライアント企業がもっている潜在的なニーズにハマった、のだと思います。

また、これはヘルスケア領域の専門家ではない人間の素人考えですが、「製薬とAI活用」の広がりや「リアルワールドエビデンス」という考え方も間接的に関連しているのかもしれませんね。

Googleスカラーの検索結果
https://scholar.google.co.jp/scholar?q=%E8%A3%BD%E8%96%AC%E3%81%A8AI%E6%B4%BB%E7%94%A8&hl=ja&as_sdt=0&as_vis=1&oi=scholart

④AIを使ったリサーチ活動の再定義

これは、弊社の動きも含まれてしまうので恐縮です。
AIの活用が進化することで、いままで人が中心に行なっていたリサーチという営みを自動化する可能性が見えてきたのも、非常にエポックメイキングな出来事だと思います。

本当は他社の事例を出したほうがエビデンス感が高いのですが、例として使いやすいので、弊社のツールを取り上げます(笑)

ここでは商品の紹介をしたい訳ではないので、内容の詳しい説明は省きたいと思いますが、簡単にいうと、大規模言語モデルにSNS投稿を学習させて、AIが分析を代行してくれるというものです。
技術的にはまだ改善・発展の余地があるものだと考えていますが、大規模言語モデルの発展は、人間の行なっている「認知作業」「推論」を代行する可能性が出てきたことで、リサーチ行動にも大きな影響を与える可能性があると考えています。

業界は異なりますが、以下のようなサービスも生まれ始めています。

ある意味で消費者インサイトというものも「ビジネス仮説」の一種であるとも言える訳です。今までは人が時間とエネルギーをかけて手作りしていましたが、AIがこの領域に入ってくるのは避けられない未来だと思います。



2024年以降の見立て

次に、ここまでの内容を受けて、2024年とそれ以降数年スパンでのソーシャルリスニングの未来像を考えてみましょう。

A)SNSデータ活用の更なる発展

2023年までも、ソーシャルリスニングの発展は続いていますが、この流れは引き続き継続するでしょう。

まず、ヘルスケア領域でのユースケースはさらに広がると考えます。
技術的にも業界の特性的にも、ヘルスケア領域での発展は確度が高いでしょう。また、収集・分析するデータの特性も共通性があるので、新しい技術や手法の開発なども効率的に進展するものと思います。数年スパンの視点では、既存リサーチとどのように融合していけるかが課題になるかもしれません。

加えて、いまだ試行錯誤が続いていますが、仮説探索やアイデア探索の領域でもソーシャルリスニングの活用が進むものと考えます。環境と技術の両面から潜在的なニーズがビジネス化する可能性があると思います。
技術面はAIの発展と大きく関連します。超大量のデータからN1的なアイデアの種を探り当てることと、「正解のない仮説を考える」という行為がAI技術と相性がよいはずです。

B)分析のAI活用が発展

1点目の最後とも連続しますが、ソーシャルリスニングにおけるAI利用はさらに発展するでしょう。ここでは「AIによる作業の自動化」と「AIと人の協業(作業の分担)」に大きく分けることができると考えています。

「AIによる作業の自動化」は、先に挙げたような分析そのものもをAIが代替するようなイメージです。現在も、従来型のテキストマイニング(話題抽出的なもの)などもありますが、それよりさらに進んで、SNS投稿データをベースにしたAIによる消費者インサイトの分析や、ビジネスインプリケーションの提案というステージに進んでいくと思います。
すでに初期的なサービスは実際に生まれていますし、ユーザー側の環境やニーズを考えても、この流れは間違いなく進むと思います。

ただし、この領域をリードするのはリサーチャーというよりもエンジニアに近い属性や専門領域を持っている層になるのでリサーチのドメイン知識が壁になると思います。
「インサイトとは何か」「消費者を理解するとかどのような行為か」といったドメイン知識がそこまで深くないので、リサーチ界隈からすると表面的で薄っぺらな結果になってしまいがちかもしれません。
もちろん、ユーザー側が利用上の工夫でこの穴を埋める可能性もありますが、一般ユーザーのコミットメントとしてあまり可能性は高くないと思います。
この壁をどう超えることができるのか(リサーチャー側がこの領域に入っていくのか、エンジニア側がこのドメイン知識を強化するのか)が、今後数年スパンでのゲームルールになると思っています。

「AIと人の協業(作業の分担)」に関しては、ソーシャルリスニングを行う各業務段階(データ収集、データクリーニング、分析など)で、人とAIが役割分担しながら一緒に業務を遂行するイメージです。
この領域はサービスとして形にするのが難しいので、現時点で明確なツールの形になっているものは見当たりません。私のチームではCopilotという名前で研究と業務実装が始まっているので、機会を見てこのブログでも取り上げてみたいと思います。

ChatGPTのGPTsのように、特定の機能に特化した言語モデルにSNS投稿データを提供することで、労働集約的な作業や認知バイアスの影響を受けやすい工程においてAIのサポートを受けることができると考えています。
そして、人が行う業務の効率化だったり、人の思考の補完・拡張などに貢献してくれるものと思います。

ただし、これはクライアント企業側からすると効果が視覚化しにくい(AIを入れなかった時にどうなるのかの比較を体感しにくい)ので、あくまで分析業務を担うエージェンシー側中心に発展するのではないかと考えています。
そして、この取り組みはAIと人がいっしょにクラフトマンシップを発揮するという、自動化・省力化を重視するエンジニアリング思考とはやや趣がことなります。そのためリサーチャー側が中心に研究する必要があるため、リサーチャーがAIをどこまで取り込めるかが大きなチャレンジポイントになりそうです。

本ブログ記事の振り返り

ここまで、2023年の動きと2024年以降のソーシャルリスニングを俯瞰した上で、いくつか去年の記事を取り上げてみたいと思います。
特にこの1年、本ブログではソーシャルリスニングにおける「AI活用」と「ソフトスキル」を取り上げてきたように思います。
特に狙ってこういうテーマを扱っていた訳ではないんですが、結果的にそうなりましたね。多分、自分がソーシャルリスニングの発展に重要だと思うことを書いていたら、結果的にこうなったみたいなことだと思います。

ソーシャルリスニングにおけるAIと協業(Copilot)


ここに関しては、主に以下の2記事が現在行なっている研究や実践のベースになっていますね。

1記事目は正確には2022年末なので2023年ではないのですが、大規模言語モデルと人が協業する構想は1年以上前から考えていて、半年かけて具体化と実業務での実践がスタートした感じですね。

これらの記事には先ほど取り上げた「AIと人の協業(作業の分担)」の草案のようなものや、いくつかのユースケースの原型のようなものがあるので、興味のある方はぜひ。

ソフトスキル

また、AI活用などの技術的な部分だけでなく、ソーシャルリスニングを行う上で、または、ソーシャルリスニングを担当するリサーチャーとして、どのようなノウハウやマインドセットが必要になるか、というテーマも複数回にわたって取り上げました。

ソーシャルリスニングはどうしても「SNS」「ビッグデータ」「データサイエンス」「機械学習」「AI」みたいなワードが前にでがちです。これは、ソーシャルリスニング業界は長らくエンジニアリングベースの会社がリードしていることが理由だと思っています。
しかし、ソーシャルリスニングはマーケティングやビジネスという、『人が人に対して働きかける営み』である以上、技術だけでは半分しかカバーしていないはずです。

どうしても技術偏重になりがちな領域だからこそ、データをどう分析するかという視点だけでなく、ソーシャルリスニングをどう捉えるかの意味でも、ソフトスキルを大事にしていきたいです。
※2023年以前の記事ですが、この辺りも大事な内容だと思うので、お正月の暇な時間にぜひ(笑)

今後のブログ運営

気がついたらすでに6000文字を超える長文になってました・・・
ここまで読んでいただいた皆さん、ありがとうございます!

これまで基本的には月1くらいのペースで記事の投稿を続けてきました(2023年後半は頻度が落ちました)が、今後は不定期にブログ欲が盛り上がった時に記事を上げていきたいと思います。

もともとこのブログは、日本におけるソーシャルリスニングを持ち上げる一助になればと思って個人的な活動としてスタートしたものでした。
その後、会社の広報マーケティング活動と一部関連するようになったりしましたが、投稿内容は完全に私個人の興味と関心だけで決まっています。

究極の目標は、海外のSIラボのような横のつながりまで発展させたいというのがあったものの、日本ではもう少し時間をかけなければいけないようですし、また、そこに向けて進む道は他にもあるかもしれません。
もしかしたらこのブログも今後別の展開などもあるかもしれませんが、今後ともよろしくお願いいたします。



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