アンコールはなかった…
「今までありがとう…。俺も幸せになるからさ、唯華も幸せになってね」と言って、彼は玄関から出ていった。
ドアがガチャンと閉まる音が、妙に響く。机の上には合鍵が、お揃いで買ったキーホルダーと共に置かれてあった。
私は玄関に向かって、手拍子をした。ライブみたいに「アンコールありがとう!もう1曲演奏させてもらいます」ってもう一度ステージに上がってくれないかなって願いを込めて手拍子をした。
だけど彼がもう一度その扉を開けることはなかった。パチパチと弱々しい拍手の音だけが耳に届く。手のひ