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どの文学賞を受賞すると作家になれるの?③ ミステリー小説・推理小説、ライトノベルの文学賞

ミステリー小説、推理小説を対象としている公募型文学賞には、1200万円の賞金(最高額)の『このミステリーがすごい!』大賞をはじめ、数多くの賞がある。

ミステリー小説部門はライトノベルに次ぐ人気のジャンルで、ミステリー、謎を盛り込むことで、読者の関心を引き付ける。ミステリー小説・推理小説部門の文学賞の主催者と賞金は以下の通りで、再掲を含んでいる。


ミステリー小説・推理小説部門の文学賞

賞の名称              主催者(出版社)  賞金
『このミステリーがすごい!』大賞  宝島社      1200万円
江戸川乱歩賞       日本推理作家協会、講談社   500万円
松本清張賞             日本文学振興会   500万円
日本ミステリー文学大賞新人賞    光文文化財団    500万円
横溝正史ミステリ&ホラー大賞    KADOKAWA      300万円
アガサ・クリスティー賞   早川書房早川清文学振興財団 100万円
大藪春彦新人賞   大藪春彦賞選考委員会(徳間書店後援)100万円
小説推理新人賞           双葉社       100万円
ミステリーズ!新人賞        東京創元社      30万円
鮎川哲也賞             東京創元社        0円
警察小説新人賞           小学館     総額300万円

すでに江戸川乱歩賞の説明でも触れたが、ミステリー関連の文学賞は賞金を減額するケースが目立っており、江戸川乱歩賞は1000万円が500万円になった。

江戸川乱歩賞は、江戸川乱歩の寄付を基金として1954年に創設され、70年近い歴史を持つ。中堅・ベテランに与えられる、公募型ではない日本推理作家協会賞はそれよりも早い1948年にスタートしているが、公募型では歴史と伝統がある。

江戸川乱歩賞に続いて、双葉社が1979年に小説推理新人賞を、角川書店が1980年に横溝正史ミステリ大賞を新設。ミステリー作家の発掘に力を入れ、数々の作家を世に送り出してきた。

ところが、昨今は総じてミステリー小説の販売は不調だという。人気ミステリー作家の小説には根強いファンがいるものの、賞金の減額を見ても、かつての勢いがなくなったと感じられる。

横溝正史ミステリ大賞の賞金は400万円、日本ホラー小説大賞は500万円だったが、2019年度に2つの賞が統合されて、賞金は300万円に引き下げられた。

こうした出版環境の中、小学館が警察小説新人賞を創設し、2021年4月に第1回の募集を始め、2022年8月に決定する。小学館は第1回警察小説大賞を2018年に発表したが、根強い読者を持つ警察小説の分野で、新しい書き手の発掘という目的を明確にして、「警察小説新人賞」と名称も一新した。

警察小説は、謎解き・犯人捜しというミステリーの要素を持ちながら、警察という組織やその中での人間関係を描く。今も人気を博し、エンターテインメント小説を牽引。チームで犯人を追うものや、科学捜査、法医学ものなどバラエティに富み、テレビドラマでも人気が高い。

警察小説の人気作には、逢坂剛の『百舌の叫ぶ夜』、髙村薫の『マークスの山』、佐々木譲の『警官の血』、誉田(ほんだ)哲也の『ストロベリーナイト』、横山秀夫の『64』などがある。

シリーズ発行部数1000万部超えのライトノベルが続出

各出版社は、ミステリー小説・推理小説(警察小説を含む)分野の文学賞を強化してきたが、ジャンル別で見ると、ライトノベルの文学賞が群を抜いて多い。

ライトノベルの明確な定義はないが、SF・ホラー・ミステリー・ファンタジー・恋愛などの要素を盛り込み、軽快な文体で分かりやすく書いた若者向けのエンターテインメント小説を指す。読者は中高生から20代、30代が中心で、若い新人作家も続々と登場している。

英語のlight(軽い)とnovel(小説)を組み合わせた和製英語で、ラノベと略される。文庫判や新書判の比較的安価な本が多いのも特徴。

本の表紙や挿絵にカラフルなアニメ風イラストを用い、アニメ化、コミック化、ゲームソフト化されたり、音楽やインターネットを活用した宣伝がなされるなど、メディアミックスを積極的に行っている。

ハッキリとした定義がないがゆえに、ライトノベルの発祥にもさまざまな説がある。1965年に集英社コバルト・ブックスが創刊し、1976年にコバルトシリーズとなったコバルト文庫や、1975年のソノラマ文庫(朝日ソノラマ)の創刊を、ライトノベルのルーツとする説がある。

また、1988年に創刊された富士見ファンタジア文庫(KADOKAWA)、1989年創刊の角川スニーカー文庫(KADOKAWA)がライトノベルの草分け的存在と言われることもある。

富士見ファンタジア文庫が誕生した翌年の1989年には、ファンタジア長編小説大賞(現・ファンタジア大賞)がスタートしている。それ以来、同レーベルでは新人作家の発掘や有力作品の充実に力を注いできた。

ライトノベルからも人気作家は多数輩出されており、『とある魔術の禁書目録』(電撃文庫 KADOKAWA)でデビューした鎌池かまち和馬や、角川スニーカー文庫の「涼宮すずみやハルヒ」シリーズを書いた谷川ながるなどの作家が挙げられる。

インターネットで情報発信している「ねこくまぶろぐ」によると、「ライトノベル累計発行部数」のベスト10は以下の通り。

ライトノベルの累計発行部数

とある魔術の禁書目録   電撃文庫(KADOKAWA)   3100万部
転生したらスライムだった件 GCノベルズ(マイクロマガジン社) 
                            3000万部
ソードアート・オンライン  電撃文庫(KADOKAWA)  3000万部
魔法科高校の劣等生     電撃文庫(KADOKAWA)  2200万部
涼宮ハルヒシリーズ  角川スニーカー文庫(KADOKAWA)2000万部
スレイヤーズ   富士見ファンタジア文庫(KADOKAWA)2000万部
薬屋のひとりごと ヒーロー文庫(主婦の友インフォス)  1800万部
カゲロウデイズ       KCG文庫(KADOKAWA)  1500万部
魔術士オーフェン 富士見ファンタジア文庫(KADOKAWA)1400万部
十二国記          講談社X文庫(講談社)    1280万部

ねこくま@電書ブロガー
https://nekokuma.com/101856/

『とある魔術の禁書目録』(鎌池和馬著)は、超能力者の子供たちが集まる近未来の科学学園都市に、魔術の世界から来た魔術師が現れて、異能力と魔術による激しい戦いが繰り広げられるバトルアクション。小説の累計発行部数は1800万部で、漫画を含む全シリーズの累計発行部数は3100万部を突破している。

『涼宮ハルヒシリーズ』(谷川流著)の主人公、涼宮ハルヒは「ただの人間には興味がない」と発言する破天荒な女子高生。非日常の世界に巻き込まれていくSFラブファンタジ-で、発行点数が11点と少ない中、登場人物のキャラクターが人気で、累計発行部数が2000万部を超えた。

ライトノベル出身で、純文学やエンターテインメント小説で活躍する作家も増えている。直木賞受賞者には『プラナリア』の山本文緒、『肩ごしの恋人』の唯川恵、『星々の舟』の村山由佳、『対岸の彼女』の角田光代、『私の男』の桜庭一樹などが挙げられる。

ライトノベルの公募文学賞は40以上あり、KADOKAWAが群を抜いている。集英社がそれに続き、大手出版社や新規参入組も文学賞を次々と新設している。文学賞の一覧は次回に説明する。(敬称略)

アマゾンのキンドル出版で、2023年8月、ペーパーバックと電子書籍の小説が発売されました。「権力は腐敗する」「権力の横暴や不正を許さない」をテーマにしており、お時間のある方はお読みください。
『黒い糸とマンティスの斧』 前原進之介著

この連載記事は、以下のような流れになっています。
1 小説を書きたいと思い立った「いきさつ」
2 どうしたら小説が書けるようになるの?
3 小説を上手く書くために小説講座を探そう 
4 どの文学賞を受賞すると作家になれるの?


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