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昭和隠れ夜話「ついとべしょ」

 「僕の昭和スケッチ」69枚目

68ついとべしょ

<画/© 2021 もりおゆう 原画/水彩 サイズF5>

これは昭和三十年代に、祖母が布団の中で僕に話してくれた美濃地方に伝わる古い民話です。

「ついとべしょ」(要約)

或る闇夜の事…

赤鬼が追ってくるので女童(めのわらわ)は逃げねばと夜道を駆けて行く。だが、目の前に大きな川があらわれ女童の行く手を阻む。川を飛び越して行かねば鬼に喰われてしまうのだが、川幅は広くとうてい女童に飛び越せるような幅ではない。
鬼はいよいよすぐ後ろに迫り来る。

すると、天の上から「ついとべしょ」と唱えて跳べば容易に川を飛び越せると言う声がある。
半信半疑ながら女童が「ついとべしょ!」と唱えて駆けながら跳ぶと…
果たして身は軽々と川を超えて飛び、鬼も諦めて帰ったそうな。

(了)

話しを聞き終えた私が祖母に
「天からついとべしょと唱えよと教えてくれたのは誰か?」
と聞くと、
「美濃に昔からおわす神様じゃ。」
と祖母は答えた。

さて、この「ついとべしょ」とは、何でしょうか?
何かの呪文のようにも聞こえます。
まず、「とべしょ」ですが…
「とべしょ」は、恐らく「飛べしょ」でしょうから、「飛びなさい、飛んでごらん」といった意味かと思います。

では、最初の「つい」とは何でしょう?
こちらは、ちょっと難問です。
1.「さあ、いざ、ほら…」等と同じ感動詞(感嘆詞)と考えると、「ついとべしょ」は…
「さあ、飛ぶのよ、飛んでごらんなさい」ということになりますね。
2.「つい」を接頭語と考えると…
「ついつくばる」というように後に続く動詞を強意する役割となり…
「思い切り飛んでごらんなさい!」ということになりますね。

さて、どちらでしょう?

天から聞こえて来た言葉としては、1の方が美しいように思うのですが、あいにく一般に定義されている感動詞に「つい」は見当たりません。
すると、やはり2という事になりますね。

つまり…
「思い切り飛んでごらんなさい!」と言われ、自分をふるいたたせて跳ぶと、軽々と大きな川を飛び越せた、、、
と括られているわけです。

さて…
今回は「ついとべしょ」の意味が自分でもよく判らない状態でこの記事を書き始めました。書いているうちに色々と考え、幾らかは言葉の意味に近づけたかも知れません。文章を書くという事が持っている力を今回改めて学ぶ事が出来たように思います。



*「ついとべしょ」の意味やこの民話について知見をお持ちの方はぜひご一報下さいませ。「ついとべしょ」に関する解釈は、あくまで私見です。

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