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【取材記事】エンタメ業界から「食」支援へ 飲食店応援を通し、地域活性化をうながす「びずめし」で新時代の社員食堂を提案

Gigi株式会社は、サステナブルで新しい価値観を創造する会社です。「Pay it forward(ペイフォワード:恩送り・利他)」の気持ちが社会に広がり循環することをコンセプトにしています。飲食店のメニューをお食事券でプレゼントできるサービス「ごちめし」や飲食店を先払いで応援するプロジェクト「さきめし」を展開し、人とお店と地域にやさしいビジネスモデルを実現しています。さらにまちの飲食店を社員食堂として利用できる福利厚生サービス「びずめし」をリリースし、新しい社食の形を提案しています。今回は、サービスへの想いや飲食店活用による事業について、代表の今井了介様にmySDG小林がお話を伺いました。

【お話を伺った方】

今井了介(いまい りょうすけ)
様 Gigi株式会社 代表取締役
作曲家・音楽プロデューサー。14組のアーティストが一堂に会し東京オリンピックに向けて歌われたチーム・コカ・コーラ社の公式ソング『Colorful』(2021年7月リリース)の総合プロデューサー。安室奈美恵『Hero』や、TEE/シェネル『ベイビー・アイラブユー』なども手掛ける。
作家・プロデューサーのエージェンシー(有)タイニーボイスプロダクションを創業・主宰。同社所属作家のBTSへの楽曲提供は、アメリカビルボードチャートでも一位を獲得 。
東京・LA・シンガポールに拠点を構え、ワールドワイドに活躍中。


【インタビュアー】

小林慎和(こばやし のりたか)
株式会社bajji 代表取締役CEO
  ビジネス・ブレークスルー大学 教授 大阪大学大学院卒。 野村総合研究所で9年間経営コンサルタントとして従事、その間に海外進出支援を数多く経験。2011年グリー株式会社に入社。
同社にて2年間、海外展開やM&Aを担当。 海外拠点の立ち上げに関わり、シンガポールへの赴任も経験。その後、シンガポールにて起業。 以来国内外で複数の企業を創業しイグジットも2回経験。株式会社bajjiを2019年に創業し現在に 至る。
Google play ベストオブ2020大賞受賞。著書に『人類2.0アフターコロナの生き方』など。


■痛感したエンタメの限界。創業のきっかけは東日本大震災。

Gigi株式会社

小林:創業の経緯から伺います。

今井さん:創業のきっかけは、11年前の東日本大震災の時に、エンタメや音楽ではどうしても救済できない緊急事態が起きたことです。
エンタメ自体は大変魅力的であるのは間違いない。しかし、災害時には空腹の人に食事を提供したり、寒くて凍えている人に暖を与えたり、津波で家や車が流された人に最も必要な「衣食住」を提供できない。エンタメの限界を痛感したことから、私が最も関心の高かった「食・IT・Webサービス」で、飲食にまつわるプラットフォームを構築し、緊急事態が起きた時にも力になれるサービスを作りたいとの想いが発端となりました。

私の想いを後に創業メンバーともなる岡部に相談し、彼が集めてくれた杉山と古川のメンバー4人で、Pay it forward(ペイフォワード)という「利他の心が循環して見える化し、増幅していく」を会社のミッションとし、Gigi株式会社を立ち上げました。
岡部がアクセンチュア出身、杉山も外資系コンサルティング会社で地方創生や自治体のコンサルを担当していたので、飲食店を使った社会問題の解決が得意でした。

小林:なるほど。ちなみに、ご社名のGigi(ジジ)株式会社の由来は何でしょうか?

今井さん:時々(ジジ)刻々。その時、その時の価値観です。例えば震災があった時に、皆さんのマインドセットが大きく変わる瞬間。僕も音楽の仕事をしてきた中で、音楽のトレンドが大きく変わる瞬間を自分でも作り、また、何度も変わる瞬間を体験してきました。
時々刻々と人々の価値観や、必要としていることが変化していく中で、絶えずキャッチアップできているようなサービス「必要なことを大事にする」という意味が非常に強いです。

小林:いい名前ですね。

今井さん:外国人でも読めますし、ヨーロッパでは人の名前でGigiという人もいますし、中国ではパンダの名前にあるように、2回音を重ねると、かわいらしい印象になるなど比較的色々な人に認識できる名前になるんじゃないかなというところでつけた名前です。

■飲食業界の応援のため、食事ギフト「ごちめし」を開始

ごちめしロゴ

小林:サービス第一弾「ごちめし」の構想にはどうやってたどり着いたのですか?

今井さん:2019年10月にサービスをスタートした「ごちめし」は、登録飲食店のメニューを「ギフト」できる電子ギフトサービスです。従来のEC販売と違い、飲食店は販売用商品を新たに用意する必要はなく、普段から提供しているメニューをそのままEC化できるところに新しさがあります。

イタリアのSuspended Coffeeから着想を得ていますが、根本にあるのは、飲食業界に感じていた違和感です。日本の飲食業界はカルチャーとして盛んではあるのに、コロナ禍では国の支援も難しく、予約やデリバリーにしても利用者側の手数料はほとんどない。お店の評判を見れるサイトの掲載費も飲食店が出していて、よく考えると不思議なことだと思ったんです。

お中元を贈る場合なら、箱代・送料を支払って相手に届けてもらうし、タクシーを呼んだときは、配車料金を支払います。
なぜ飲食店だけ、消費者側が無料でサービスを色々と享受できるのかと不思議に思っていたんです。そこで、飲食店に喜ばれて、価値提供ができる仕組みには「ギフト」という概念がはまりそうだと感じて、飲食店からは手数料を取らずに「ごちる」側がシステム手数料10%を払う仕組みにしました。

小林:ユーザーが食事の「ギフト」を贈るということなんですね。

今井さん:そうです。ソーシャルギフトやスモールギフト市場は、今とても伸びていて、若者の消費動向は、モノより思い出などの体験に向いています。「美味しかったから、一度食べてみて」という風に「食事ギフト」で感動を共有する共鳴感がすごく今っぽいと思ったところです。


■福利厚生「びずめし」導入で、企業のSDGsアクションをうながす


びずめしロゴ と SDGs

小林:「びずめし」について教えて下さい。

今井さん:起業当時から「びずめし」の構想は描いていましたが、「ごちめし」スタート後、コロナウイルスが瞬く間に広がってしまったため、「さきめし」という飲食店支援サービスを2020年3月から始めました。さきめしは、コロナでダメージを受けた飲食店を「先払い」で応援するサービスで、グッドデザインベスト100賞・クリエイティブアワードのACCやForbes 30 Under 30 Asiaなどに取り上げていただきました。結果、登録店舗が1万6千店舗にまで広がりました。
登録店舗が増えたので、今度はそこへ継続的に人が足を運び、地域の経済が継続的に活性化できるように設計したサービスが、2021年2月リリースの「びずめし」です。

私たちのサービスは、飲食店のメニューを人に贈れるプラットフォームです。飲食店メニューをデジタルチケット化して、贈り手と受け取る側を変化させて横展開しています。「ごちめし」は個人から個人、「さきめし」は自分から飲食店、「びずめし」は会社から社員にという具合です。

小林:具体的にはどんな仕組みなんですか?

今井さん:「びずめし」を導入すると、企業様にシステムを提供します。社員さんは1万7千店の登録飲食店もしくは、出前館デリバリー10万店を社食として利用することができます。出社している社員なら会社近くの飲食店、営業先やテレワークなら、今いる場所や自宅近くの飲食店でサービスを使えます。
ちなみに、ECサイトとも連携しているので、有名店のお取り寄せや生産者さんのサイトなどから、肉、魚、野菜を自宅に取り寄せ、自宅で召し上がることもできます。

「5千円や1万円まで使い放題」や、回数券のようなチケット制など自由な設計が可能です。報酬や社内交流に使っていただき、社員さんの働き甲斐やチームビルディングにご利用くださいというものです。

小林:「びずめし」を福利厚生に入れた時の、最大のメリットを教えていただけますか?

今井さん:社員が近所の飲食店に食べに行くと、地域経済の持続的な活性化を促し、経済合理性が高まります。さらにお店とコミュニケーションすることで、地域と企業とのつながりが生まれます。社員さんはパターン化しがちな社食のメニューから選ぶよりも、その日の気分で気に入ったお店で食事ができて満足度が上がります。

キリンホールディングスは中野区に本社を移した際に社員食堂を作りませんでした。会社と街の関係を深めるために、社員が街に出てお客様と接点を持つことが目的のようです。このように、社員食堂の在り方も変化をしてきている中、コロナの影響もまだまだ大きい飲食を支え「びずめし」で“会社”のため、と同時に“社会”のためになるサービスになるんじゃないかと考えています。

サンフランシスコ市では「地域活性化」のために、色々な企業を補助金を使って誘致したにも関わらず、企業がビルの中に社食を作ってしまったので、周囲の飲食店にお客さんがいなくなってしまった。これでは街のためにならないので、新しいビルの建設の時には、社食を作ることを禁止する条例を検討しているとか。

日本でも、これだけリモート勤務が増えてくると社員のために、よかれと思って作った社員食堂でフードロスを起こしているような皮肉な事態が起きることもあります。
「びずめし」を福利厚生として取り入れることで、社員満足度や採用活動、離職率に対してメリットになる施策になり、フードロス削減に対しても有効なサービスになると思います。

小林:今の現状ではどれくらいの規模の企業様の登録が多いのですか?

今井さん:大きい企業様で2〜3000人、最小で5〜6人です。最小の会社はうちの音楽をやっている会社ですけど(笑)、正社員6人に向けて、ひと月1万円の食事補助をするんですが、皆、めちゃめちゃ喜んでくれます。

寄付ボタン画面

小林:びずめしシステムにある「寄付ボタン」とはどんなものですか?

今井さん:「善意の輪を広げる」というのが弊社のミッションのひとつなので、食事をした社員さんが、福利厚生に感謝を感じた時、行動で感謝を表せる仕組みです。社員さん個人から私たちが運営するこども食堂である「こどもごちめし」やユニセフ、その時々の災害支援に向けてなど、企業が設定した寄付先に食事価格の数パーセントを支援できるものです。導入企業からすると「社員が社会貢献をしている」というCSRにもなりますし、私たちからすると利他やPay it forwardの見える化と循環に一役買えるなと考えて、こうした動線を作りました。

小林:会社が社員に対して、社員は世の中に対して貢献するということですね。

今井さん:感謝が巡ってくると、社会がまた良い循環をし始める。こうしたことを少しづつ提供できたらいいと考えています。

小林:日本全国の企業が利用できるんですか?

今井さん:はい。企業の福利厚生の拠点間格差をなくすことも、このサービスのソリューションの強さです。支店・支社のある会社では、社食のある本社と社食のない地方支社との「食事格差」問題もあり、むしろ本社は社食があるので、本社以外の全国の拠点で利用したいという企業様もいます。
「びずめし」は、SDGsに取り組んでいることになります。企業様がSDGsアクションをしたいと考えても実際何をしたらいいの?となるときに「びずめし」を導入していただくだけで、導入企業様が間接的にSDGsアクションをしていることになります。

「びずめし」が取り組んでいるSDGsアクション


■「地域の飲食店」×「ふるさと納税」こども食堂をサステナブルに促進


こどもごちめしの仕組み

小林:「こども食堂」も展開されているそうですね。サービス内容について教えてください。

今井さん:「こどもごちめし」は、飲食店を使い、こども食堂をよりサステナブルに促進できるようなプラットフォームを目指しています。
寄付動線の中にも「こども食堂」があるので、「びずめし」を利用いただいているジャパネットホールディングスさんの社員さんからも寄付をいただいて、月に数十万円、集まることもありました。ふるさと納税やオンライン募金などで財源を集めて、子どもたちにご飯代を出してあげようというプロジェクトなんです。

小林:なぜ、飲食店をこども食堂で利用しようと思ったのですか?

今井さん:現状各地のこども食堂は、善意で集まった方々で食事を作り、周囲の子どもたちに呼びかけて、お食事を提供しています。これは素晴らしい思想に基づいたアクションですが、現状では財源が満足に確保できずに継続しづらかったり、頑張っても週に1度くらいしか開催できず、あとの6日は手がまわらない。善意で行っている方々の活動なので、いつ人手不足になり継続できなくなるかわからないなどの懸念が多々あります。

解決案として、「こどもごちめし」の前身を考えました。自治体から飲食店へお声かけして、飲食店にこども食堂になってもらう仕組みです。ポイントは、自治体にも飲食店にも手数料はかからないことです。

既存の飲食店を活用することにより、多くの問題を解決できます。中でも提供日数の問題は、毎日どこかの飲食店で必ずご飯が食べれるように解決をしたい。既存のこども食堂の運営さまにはその活動と並行して補助的に稼働するのはどうかと提案しています。この取り組みは、内閣府の地方創生SDGs官民連携プラットフォームで優秀事例ということで選定をされました。

「こどもごちめし」の前身となった「街ごとこども食堂プロジェクト」

今井さん:「街ごとこども食堂」では、ふるさと納税する税金の使途を選ぶチェックボタンに「子どもの支援」を入れていただいたんです。一か月あたり1400食を提供できる財源になりました。こうした、地元の飲食店を利用した「こども食堂」の効果は2つあって、飲食店へ1400食分の経済効果をもたらしますし、同時に子どもたちへ1400食分の提供ができます。
「町の活性化」と「子どもの未来」に寄付できる、こうしたサービスが特産物に乏しい地域の納税に、武器になるのではないかと思います。

小林:こども食堂は、お子さんが食べにきたらスマホでオーダーするんですか?

今井さん:紙のカード発行も考えましたが、紙のカードではお子さんが、こども食堂に食べに来たとはっきり分かってしまいます。子ども同士のからかいやいじめにつながる場合も報告されており、親御さんもその部分が気になりこども食堂に食べに行かせることに引け目を感じる方もいるようです。

そのため、弊社のプラットフォームのスマホの消し込みボタンはお店の方から見ると、「ごちめし」「さきめし」「びずめし」「こども食堂」どれも同じなので、スマホ画面を見ただけではどれを利用したのかわりません。はたから見るとPayPayで支払っているのと、印象は変わらない。オーダーはお子さんと保護者の方に配慮した仕組みにしているつもりです。

小林:確かに、そうした配慮も必要ですね。


■被災地への「食」支援可能な仕組み完成。新たなビジョンは移動+食事のMaaS事業展開へ。

被災地支援に利用できる「さきめし」

小林:今後の展望を教えて下さい。

今井さん:創業のきっかけの一つに東日本大震災がありましたので、本当に困った時に被災地のライフラインのひとつになるプラットフォームができたと思っています。

ロシアのウクライナ侵攻があった時にAirbnbを使った支援がありましたが、同様にオンラインで、衣食住の「食」の部分を助けられるのでは?と。
2019年には佐賀県武雄市で大きな水害があり、その時、地元の飲食店の方々から興味深い話を聞きました。「店舗が水害を受けた際は補助金が出る。でも生き残ったら生き残ったで、水害後で観光客は誰もこない。水害の悲劇もあるが、それ以上で厳しい経営状態に立たされる、という生き残ったことにも悲劇がある」と。
そうしたとき、飲食店を応援するのに「さきめし」の仕組みが使えます。飲食店は売上にもなるし「さきめし」に登録すれば、食事を無償で提供できて、被災地への食事支援にも活用できる。衣食住の「食」の部分に強く作用できる設計にしています。

小林:飛行機会社と組んで、寄付した地域に飛ぶ特別キャンペーンなどを行うのも面白いかもしれないですね。

今井さん:協業先の日本旅行さんとは、MaaSと呼ばれる交通系SaaS事業の開発も目論んでいます。Destination Restaurantsのように、遠いながらも、その町の1軒のレストランに食べに行くことに価値がある。せっかく訪れたのであれば近くの観光名所や、ついでに1泊できるようなそんな周遊券事業を来年以降の取り組みとしてやりたいですね。

最近喜ばしかったことは私たちの運営するサービスのトータル利用回数が107万回を突破し、少しづつですけど利用者の輪が広がってきていることを実感しています。ここからまた、アクセルを吹かせられたらいいなと思います。皆で日本の美味しい料理を「ごち」しあったり、飲食店の皆さまには集客の手段として使っていただけたらいいなと思っています。


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