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ヤムーの大冒険 第1章 第1話 決意

東京のすみっこの小さな家の小さな庭に、ヤムーは住んでいました。
ヤムーは、爬虫類のニホンヤモリというヤモリの仲間です。
年齢は1才、人間で言うと10歳くらいでしょうか。近ごろヤムーは、退屈な毎日を過ごしていました。

ヤムーの家の主人は狭い庭にスペアミントやバジル、ローズマリー、タイムなど沢山の種類のハーブやオリーブ、シマトネリコ、楓などの木々、ヘデラやワイヤープランツなどの植物などをたくさん育てています。
いつも週末に車で出かけては、流木を拾ってきて、植物達と一緒にきれいに飾るのが好きでした。
小さな池には、青メダカ5匹達が仲良く泳いでいます。
庭には、ダンゴムシやワラジムシ、クモ、ナメクジ、アリ、ハサミ虫、ゲジゲジ、コオロギなど昆虫達が住んでいます。
アゲハチョウやモンシロチョウ、てんとう虫、アシナガバチ、ミツバチ、時にはヤムーの最大の敵である鳥達も空から来ることもあるのです。

ヤムーの大好物はコオロギやワラジムシ、クモなどの節足動物です。

しかし最近では、主人が昆虫を薬を使って減らしているので、ヤムーは毎日の食事にも困るようになっていました。

長く暗い冬が終わり、緑が色づき始めた春のある晴れた日の朝にヤムーは心を決めました。
生まれて此の方ずっと住みついてきたこの主人の庭から初めて外に出てみようと。
そうっ!この日ヤムーは大冒険に出る決心をしたのです。
今日までの弱い自分自身とサヨナラするために!!

ヤムーはお気に入りのハットと蝶ネクタイをつけ、叔父さんからもらった小さなハーブの葉バッグを肩に掛けました。

ヤムーの大冒険のはじまりです。

いつものように小さな池で井戸端会議中の青メダカ達に別れを告げ、出口に向かいました。
いくつかの鉢を通り抜け、水遣りホースをまたいだ時、トカゲのトッキーにバッタリ会いました。

「ヤムーそんなにおめかしして、どこへ行くんだい?」トッキーが不思議そうな顔で聞きました。
ヤムーは待ってましたとばかりに答えました。「僕は今からこの庭を出て、大冒険に出発するんだよ。」
「ハーッハーッハーッ!」トッキーは目をまん丸にして声高らかに大笑いしました。「今までこの庭から一歩も出ていないお前が大冒険だと?そんな無茶なことやめといた方がいいよ。この庭から出たらすぐに猫やカラスに食べられちゃうよ。やめとけやめとけ。ハー笑える笑えるっ」
ヤムーは腹が煮えくりかえるくらい怒りを覚えましたが、何も言わずトッキーと別れました。ヤムーは絶対に大冒険を成功させて、必ずまたこの庭に戻ってトッキーをギャフンと言わせてやると心に誓ったのです。
ハーブの森を超える途中で、大冒険の前の腹ごしらえをしました。ハーブの森を超えて、小さな白いコンクリートの敷居を超えると、ウッドデッキにでました。生まれた頃はウッドデッキと流木の間に住んでいたので、懐かしい気持ちになりました。ミケ猫のミッケが良く現れるようになった頃、慌てて今の軒下に引っ越していたのです。
ミッケに見つからないように、ヘデラやワイヤープランツ、スペアミントが繁った壁際を歩きます。
主人の趣味で飾られている小人の置物や猫の化け物、毛むくじゃらの傘をさしている大きなパンダにヤムーは心の中で別れを告げました。
小さな切り株にそびえ立つ赤い屋根の細長い青い家にも別れを告げました。ヤムーは今まで一度も踏み入れたことのない砂利の裏道にでました。このまま進んで少しだけ高いこの壁を超えたら、もうそこは外の世界です。
ヤムーは高鳴る鼓動を抑えながら、一歩一歩噛み締めながら壁に向かいました。
ここには生き物は殆どいませでした。
小さなアリと何匹かすれ違っただけです。
ヤムーは得意の壁登りで、簡単に壁を登りきると、壁の上で大きく深呼吸をしました。

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この壁を降りたらヤムーの大冒険が本当に始まるのですから。
ヤムーは迷いがないかのように、力強く壁を飛び降りました。

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