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会社を辞めて大学に戻って博士課程の学生になった話③<企業就職?アカデミア? 準備編>

「やっぱり仕事辞めよう。大学に戻ろう。博士になろう」

そう一念発起した数年前。

こんにちは、晴れて博士になりました。生物系の研究者の端くれです。

私は農学系の大学院の修士課程を経た後に就職し、2年働いた後に退職して大学院に戻り、博士号を取得しました。
(https://note.com/mypacebiomuswri/n/n0235819251f7)

一度就職した後に大学院に戻る、というパターンで博士になる人はなかなか少ないのですが。とはいえ、最近では全く0ということでもないみたいで、よーくよーく探してみると少数派でも確実に存在しているようです。

けれどもやはり、少数派は少数派。

お金のことや将来のこと、知りたいのに誰に聞いたらいいんや!とか。聞いてみたけど意味がわからん!とか。四苦八苦しながら博士になりました。

ここでは、そんな私の20代奮闘記を書きたいと思います。2015~2020年頃のお話です。

全部で5つの記事に分けて書こうと思います。
(今後も加筆訂正予定)

③「企業就職?アカデミア? 準備編」では、博士課程1~2年生で進路決定、就職活動に向けてどんな準備をしたのかについて書きます。(どうやって情報を集めたか、何をしておくと役に立つのか、など)

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博士課程の学生は、修了後に大学などの研究者になる道に進むか、もしくは企業に就職するか、悩むことになります。最近では起業するという第3の選択肢もあったりしますが、まだ少数派かな。

私はアカデミアか企業就職か、どちらにするかを決めずに大学院に戻りました。

ただ、修士の時の経験から就職活動には強い苦手意識を持っていたため、最悪の場合には公務員試験が受けれらるというセイフティネットの意味を込めて、29歳で博士号が取れるように大学院に戻りました。また、もし企業就職するなら製薬会社の研究職かな、と思っていました。

将来についてはそれぐらいのアバウトなことしか入学前には考えていませんでした。

また、一度就職して大学院に戻ってきた博士課程の学生がどんな就職活動をしたかの前例やら実情やらはなかなか情報がなく。大学院に戻ってきた後で研究と並行して調べたり考えたりしながら過ごしていくことになりました。

さあ、将来何をしようか?

とりあえず大学院に戻ってきたけど、学位取った後どうしよう。ということで、入学してすぐにキャリア支援室の先生と面談しました。

私のいた大学には博士課程の学生専用のキャリア支援室がありました。企業就職のサポートがメインですが、アカデミア就職についても参考になることを伺うことができたので、定期的に通って面談してもらってご指南いただいていました。


何はともあれ、まずは将来何をするのかの方向性を決めること。そのために、博士課程1年生~2年生前半は博士号取得後のキャリアにはどんな選択肢があるのか、情報収集に努めました。具体的には、

企業就職
博士のための合同説明会に参加。興味のある企業にはインターンシップに行ってみる。学会時に並列して開催される企業展に行く(自分の研究分野の学生を採用したい企業はどこか?)。研究以外で博士の需要がありそうな業界(特許など、いろいろ)のセミナーに行ってみる。

アカデミア
自分の研究に関係なくても、興味のある研究の講演などを学会やセミナーなどで聞いてみる。他大学の先生とも話してみる。若手の会などの学生団体に所属して、同世代の研究者志望からの口コミを得る。


この際に、「やりたいこと、入りたい会社、行きたい研究室を見つける」という観点と、「生物系博士の需要がある仕事、会社、研究を知る」という観点の二つを持つようにしました。

中でも、「生物系博士の需要がある仕事、会社、研究を知る」については知らないことが多かったです。

生物系博士は、研究職以外にも特許事務所や学術営業、医療機器、MSL(メディカルサイエンスリエゾン、製薬会社の学術職)などの仕事に需要がありそうでした。

また、概ねの傾向として、大企業の方が中小企業よりも博士を雇う経営的なゆとりがあるようでしたが、中小企業やベンチャーでも研究できる人材を求めている会社がスポットで存在していることがわかりました。こういう中小企業をうまく見つけ出せると就職活動解禁前にコンタクトが取れる場合が多いので、採用の期待が持てそうでした。

1年生~2年生前半で研究をしっかりやろう、研究以外のこともやろう

こんな感じでいろいろ将来についての情報収集に動いていましたが、それでも博士課程1年生~2年生前半は時間的、気持ち的にゆとりがあります。その期間に研究と研究以外のこと、いろんなことをしました。

研究をするなら、今だ
言わずもがな、まずは1年生~2年生前半の期間にしっかり研究。

言葉では表し難いのですが、研究にしっかりと取り組んだ経験や、自分の研究についてきちんと語ることができるということは、企業就職、アカデミアのどちらを選択しても大きな強みになると私は思います。

また、やはり、研究業績として文字で履歴書に書くことができる結果を出すことも、残念ながら必要かなあと思います。運や環境に作用される部分もあるので、理不尽に感じることもあるのですが……。

私の場合は、運よく就職活動開始前に論文を一報出すことができました。また、学会の優秀発表賞にもエントリーして受賞を狙いに行ったりしました。

どこにいっても英語、英語、英語
今時は、企業でも大学でもとにかく英語。特に博士はグローバルに活躍することがもれなく勝手に求められてしまうので、英語は避けて通れない。

……ということを悟り、観念した博士課程1年生の春。それまでは英語から逃げ回っていたのですが、重い腰を上げました。

私の大学では有難いことに、希望者が受けられる英会話の授業があったり、英語でのプレゼンテーションやメールの書き方などのセミナーも不定期で開催されていました。

また、海外の学生を交えた一週間のディスカッションをメインとしたプログラムが学内で開催されたので、それにも参加しました。参加者の英会話レベルがネイティブすぎて鬼畜で泣けましたが、リスニング力はこれがきっかけで上がりました。

また、将来の仕事候補にしていた製薬会社への就職にはTOEIC 750点以上、欲を言えば800点以上が必要だったので、TOEICも受験しました。

研究室の外に出よう
研究をしているとどうしても研究室の小さいコミュニティに交流が偏りがちになるのが嫌で。研究室の外に、特に学外に交流を求めて、とある若手の会に所属しました。

この若手の会は全国の学部~大学院の学生が所属していました。

具体的な活動としては、ワークショップの企画立案に1年間に渡って関わらせてもらいました。どんな講演にするか、誰に講演をお願いするか、何を準備したらよいか、当日のスケジュールは、金銭的なことは、などなど。

研究と並行してなので大変でなかったといえば嘘になりますが、良い経験をしたと今でも思います。また、結果論ですが、この経験は企業の就職活動の話のネタとしても最適でした。

また、私の場合は研究室に博士課程の学生が自分だけだったこともあって、将来のための情報収集の意味でも、精神的な意味でも、こうした他大学の同世代と交流があるのは大きかったです。

他の大学、他の研究室、他の研究分野だとそんな感じなんだ、と客観的に自分の置かれた状況を見ることができたり。

研究のこと、将来のこと、自分と似たような悩みを持っている人でも前向きに頑張っていたりするものだから、それが励みになったり。

中には個性的な人もいて、「学生でもそんなことできるんや。そういうことしていいんだ」という良い刺激となったり。

視野が広がった、世界が広がった、という経験になりました。

そんなこんなで出した、私の結論。

こんな感じで過ごして1年半。私が出した結論は、「企業でもやりたい研究ができるなら、アカデミアよりもそちらの方がよい」でした。

アカデミアって、厳しいよね
アカデミア就職は、わかってはいたのですが、やはりなかなかに厳しい世界でした。

アカデミア就職の第一歩はポストドクターか助教などが多いですが、どんなポジションであれ数年の任期がついていることがほとんどです。そこで研究実績を積んで、競争率の高い任期のないポストを狙っていくことになる。

さらに、ポストドクターの場合だと、研究室にもよるけれど、給料が「これ、生活できないよね?」というくらい低いことがあったり、技術員、テクニシャン、のようなポジションになってしまって研究実績を積むことができなかったり、ということがあるそうな。

日本学術振興会の特別研究員(学振PD)が採用されるのが恐らくベストですが、これがまた、みんなが申請するので狭き門。

そして、最も重要なのは、よい研究室、よい先生に巡り合うこと。そのためには、自分がどんな研究をしていきたいかをかなり具体的に、詳細に、描いていることが大前提。

そこが私は弱かった。そういう意味でも企業の方がいいのかな、とその時は思いました。

また、最近は、一度は海外の大学で経験することが任期なしポストを目指す上で必須となってきているようです(ポストコロナの時代には変わっているのか?)。

所属研究室でコネクションがあったりすると留学などをしやすいのかもしれませんが、私の場合はこのコネクションがなく。

そうすると、一から受け入れてくれる海外の研究室を探して、資金調達のために財団などに申請書を出して、その間の先方との交渉やら研究内容のすり合わせやらは全部英語で……。

そうして悪戦苦闘しながらやっても、そう簡単に研究室に受け入れてはもらえず、申請書は通らず。また別の海外の研究室とコンタクトを取って申請書出して……。の繰り返し。

それをする気力は私にはないなあと思ってしまいました。本気で留学したい人は、他にも何かルートがないか探したり、頑張れると思うのですが、そもそも私にはそこまで海外に行きたいという強いモチベーションもなく。

そうした諸々の理由から、やりたい研究ができるならば企業研究者も悪くないかな。そして、欲を言えば海外と共同研究している企業に就職できたらいいな。そんな結論に至りました。

そうするとやはり、生物系博士号の価値を理解していて、業界全体として海外進出を図っている製薬会社の研究職がよいかなと思いました。もしも希望の会社に採用内定が出なかったら、その時にまたもう一度アカデミア就職について考えてみよう。

そんなこんなで、いざ、就職活動をスタートさせました。


④「企業就職?アカデミア? 実践編」は、実際の就職活動をどのように行っていたのか、そして、博士として就職してみて感じたこと、などについて書きます。

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会社を辞めて大学に戻って博士課程の学生になった話
①決起編
https://note.com/mypacebiomuswri/n/n50b4216eace2
②生活とお金編
https://note.com/mypacebiomuswri/n/nd4d8344b0662

④企業就職?アカデミア? 実践編
https://note.com/mypacebiomuswri/n/n6572d7b4dbf9
⑤ふりかえり編
https://note.com/mypacebiomuswri/n/n3daccb226d6c

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