カミノさんへ
最近お掃除を口実に会いにきてくれる看護師さんができた。
カミノさんだ。
カミノさんとの出会いは大部屋の病室だった。
点滴二刀流で不自由になった私の身体を優しく拭いてくれた人。
そんな優しいカミノさんと再開したのはそれから数日後、私が個室に移動したときだ。
「お掃除に来ましたあ〜!」
カーテンの向こうからパワフルな、聞き覚えのある声がした。
カミノさんだった。
今日も相変わらず生き生きしている。
カミノさんはほうきで床を掃きながら、大きい窓を嬉しそうに眺めて
「今日ね、娘の中学の卒業式だったんですよ。」
と言った。
あたたかい、母の顔だった。
それからすっかり話が弾んでオレンジ色に染まってきた病室の中で、私たちは色んな話をした。
地元のこと、家族のこと、カミノさんのお子さんのこと、私のカナダ旅のこと、娘さんもカナダに滞在していたこと....昔のこと。
新しい人と出会うとき、ごく稀に昔から知っているような、懐かしい感じになる人がいる。
カミノさんは私にとってそんな人だった。
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翌日、カミノさんは掃除を装って病室に会いにきてくれた。
「あのね、患者さんのことはあんまり外に出しちゃいけないんですけどね....!昨日娘が滞在していたカナダの都市の名前を聞いてみたんです。昨日教えはれなかったから。そしたらね、サマーランドという場所だったみたいです!!!じゃ!!」
って、それだけ伝えて嬉しそうに帰っていった。
賑やかな人だ。
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今日もカミノさんが病室にやってきてくれた。
今日のカミノさんは、照れ臭そうに夢の話をしてくれた。
「実は私ね、新しいことに挑戦しようと思ってるんです。」
私ね、子供達の受験勉強を手伝っている瞬間、すごーく楽しかったんです。
あまりに楽しくて、子供の勉強を教えられる人になりたくなったんです。
だから今、病院の勤務が終わって夜から教師になる免許を取るための学校に行ってます。
密かな野望です...!!(^^)
彼女は続けた。
子供たちに、素敵な背中を見せたいんです。
私でも新しい挑戦ができる。
だからあなたたちもできるよって。
病室で、カミノさんの決意表明を聞いた。
なぜか涙が出そうになった。
夕日と真っ直ぐで純粋なカミノさんが眩しくて。
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カミノさんへ
退院したらもうこのお部屋でカミノさんの色んなお話が聞けなくなるのがさみしいです。
でも私ははっきりと見えました。
カミノさんが楽しそうに子供達に教えている姿
カミノさんのお子様が、母の背中を見て大きな一歩を踏み出そうとする姿。
時刻はまた4時。
オレンジ色になった空が
私たちの決意表明会をあたたかく包んでくれた。
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