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脳卒中者における重心移動時の生体力学

かなりインパクトのある画像ですが、

この画像を見て、セラピストであれば少し違和感を感じるのではないでしょうか?

体幹がここまで前方に倒れているにも関わらず立位姿勢を保持しています。

なぜ、違和感を感じるかは恐らく、COPやCOMといった生体力学的な知識を有しているためかと思います。

人が姿勢を保つ上で、ここの理解は非常に重要な点であります。

脳卒中者において、起立動作やADL動作、歩行に繋げる上でこの静的立位が自立していることや立位能力を深めることは非常に重要です。

一方で、静的立位能力に影響を与える要因が何かを知って治療アプローチが行えているでしょうか?

体幹?股関節?膝や足部?

聞かれてみると、曖昧なことも多いと思います!

今回はその点に関して、生体力学的に1つの知見が観察された、2020年の近年の研究を引用してまとめたいと思います。

雑誌のIF(Impact Factor)は、4.228とPT関連雑誌の中では比較的に高い方なので信頼性も高いと思われます!


論文について

本日紹介する論文はこちら↓

このnoteについて

IF:Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation, 4.228
文字数:10393文字(参考文献リンクによる文字数も含まれます)
参考文献数:49本(リンクにてpubmedへ)


今回の論文は考察が非常に充実した内容であったため、そこからは購読者のみとさせて頂きます!
御了承の程よろしくお願い致します。


では、早速いきましょう‼︎

脳卒中者の重心と歩行時の生体力学について

脳卒中者は麻痺側で体重を支えたり、片方の足からもう片方の足に体重を移動させることが困難である(1-3)。

麻痺側の体重支持能力低下
椅子からの立ち上がり(4)、起立(5)、歩く(6,7)などの機能障害と関連

下肢間の重心移動能力との関連性

起立・歩行のバランス(8,9)や歩行性能(1,10)の低下と関連

特に、麻痺側への重心移動能力の低下は、歩行の非対称性の原因となり、エネルギー消費の増大につながるとされている(11)。

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先行研究にて、

片脚立位時の左右方向への重心移動が、快適歩行および最大歩行と関連することを報告(12)
→このことは、重心移動の障害が歩行を前進させる能力に悪影響を及ぼしている事を示唆している。

実際に、麻痺側に強制的に重心移動をすると、麻痺下肢の運動や筋活動が活性化され、前進することに寄与したことが報告されている(13)。

さらに、体重支持の障害は、前後・左右方向のバランス不安定性低下につながり、転倒リスクと関連していることがわかっている。

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これまで、脳卒中者の体重移動を目的とするリハは行われてきているが(8,14)、これらの生体力学的制御については、まだ十分に解明されていない。

体重移動を機能的に行うためには、衝撃力を吸収しながら身体を支えるために多関節の動きを協調させる必要がある。


特に膝関節と足関節は衝撃吸収(15-18)と体重支持(19)に非常に重要な役割をしている。

脳卒中者では麻痺側の膝関節、足関節の硬さが増加することが報告されており(20,21)、下肢関節の屈曲運動が不十分であると、衝撃吸収が妨げられて不安定性が生じ、体重移動が遅れたり長引く可能性がある。

また、荷重時に膝関節、足関節が過屈曲すると、体重移動時に膝折れなどが生じてバランスを崩す可能性がある。

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上記や下図に示すように関節の動きが不十分でも過剰でも、体重移動に影響を与える可能性がある。

また、脳卒中後の体重移動の障害に、各関節の相対的なタイミングの異常(協調性)を影響している可能性がある。

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体重移動を考える上で、もう1つ重要な要素として質量中心(Center of mass ; COM)に対する圧中心(Center of pressure ; COP)をコントロールする能力である。

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歩行時は、下肢の効果的な神経運動制御により、支持基底面に対するCOPの位置と動きを調節し、安定性を維持して転倒を予防することができる。

健常者と比較し、慢性期脳卒中者では体重移動時のバランス制御の異常により、歩行開始時にCOPを立脚側に迅速に移動させる能力が低下している(22)。

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股関節と足関節筋群はCOMおよびCOPの動きを制御しているため(23)、これらの連携が制御できなければ、体重移動の遅延と減少に繋がる可能性がある。

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これらの背景から本研究では下記の内容が目的に行われています↓

慢性期脳卒中者の麻痺側に対する外部からの体重移動時の麻痺側下肢の運動学および動力学の特徴を明らかとすること

さらに、体重移動時の測定値と運動回復評価(Chedoke McMaster Stroke Assessment leg and foot subscaleなど)、臨床的な四肢の荷重・バランス性能(Four-Square Step Test(FSST)およびStep Test(ST)など)との関係性を評価すること


研究の概要について

対象者:慢性期脳卒中者15名(年齢:67±7.22歳、発症後:12±12年)
対照群:健常高齢者(年齢:67.7±5.87歳)

選択基準
1. 6ヶ月以上の脳卒中後遺症の方
2. 歩行補助具の有無に関わらず、10m歩行が可能な方
3. 5分間支えなしに立っていられる方

対照群の基準:神経損傷の既往歴がないと自己申告した方

除外基準
1. 指示に従えない方
2. 脳卒中以外の医学的な状態がある方
3. 妊娠している方

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研究手法は以下のようにまとめられています。↓

臨床評価

バランス評価と可動性評価のため、ステップテスト(ST)とFSSTを測定(詳細↓)
ST:高さ7.5cmの段差から5cm離れた場所に立ち、片足を段差に乗せてから床に戻す動作を行った。参加者はこの動作を15秒間できるだけ速く繰り返した(24)。15秒間に完了した段差の数を記録。STは検査-再検査の信頼性が高く(24)、脳卒中リハの変化が示されている(25)。また、先行研究で麻痺側の垂直方向のピーク床反力と中程度の相関性がある(r2 = 0.76)(9)。
FSST:床面に十字に配置された4本の杖を先端が互いに向き合うようにして、時計回りと反時計回りに素早く連続してステップする課題を行った。FSSTは、複数の方向に足を踏み出して荷重に対する時間依存性の能力を測定するもので、動的バランスを測定するために有効なツールであると示されている(26)。

・運動機能評価のため、Chedoke McMaster Stroke Assessment Impair- ment Inventory(CMSA)の脚部および足部サブスケールを使用。
CMSA:可動域、相乗的パターン運動能力、急速な運動能力を評価。スコアは1~7の範囲で、7は完全回復で急速で複雑な関節運動を行うことができる。


体重移動評価

・高さ37cmの2つのプラットフォーム上に片足ずつ乗せて立位保持を実施。
・片足ずつランダムに約4㎝程度床面が落下する設定になっており、これを各脚で4回ずつ行われた。
・対象者には楽な姿勢で立ち、落下に対して反応するように指示された(下図、論文より引用)。
・AFO使用者は使用が許可された。

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データ記録
1. 運動学的記録
・体節の位置データはモーションキャプチャーシステムを用いて記録。
・反射マーカーは、額、肩峰突起、上腕骨外側上顆、橈骨遠位端、上前腸骨棘、上後腸骨棘、大転子(股関節)、大腿骨外側上顆(膝)、外側踝(足首)、第2中足骨、踵の両側に設置。

2. 運動記録
・起立台に接地したフォースプラットフォームを用いて床反力とCOPのデータを測定。


データ解析

・足関節底屈最大角度から背屈角度が最大になるまでの時間を衝撃吸収期と定義。矢状面の足関節と膝関節の角変位とピーク速度を算出(下図)。

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図2:
a; 垂直方向の力、b; 股関節外転、c; 膝関節屈曲、d; 足関節背屈の角変位データ
赤く示された部分が、衝撃吸収期にあたる。

・COP 速度(COPv)の安定化時間は、最初の接地から COPv が最終的な安定化値から標準偏差以内に収まる瞬間までの経過時間とした。
・COPvは内側-外側(COPvM-L)および前方-後方(COPvA-P)方向のCOP安定か時間を摂動側の下肢で算出。

統計解析
・ANOVAを実施。多重比較法でBenjamini-Hochberg法を用いた。
・Pearsonの相関係数:COPvM-L、COPvA-P、COPv Max安定化時間とCMSAとの関係性を調べるため。
・線形回帰モデル:COPv,M-L、COPv,A-P、COPv,Max安定化時間および脚部・足部サブスケールのCMSAスコアからSTおよびFSSTスコアを予測。



結果

・背屈開始時の足首の角度および屈曲開始時の膝の角度について、群間で差は認められなかった。
衝撃吸収期は対照群に比べて、脳卒中群で足関節背屈、膝関節屈伸、股関節の外転が減少した(下図)。脳卒中群で足関節背屈、膝関節屈曲、股関節外転のピーク速度が対照群に比べて低下
・さらに、脳卒中群は、足関節背屈の開始に対する膝屈伸の開始タイミング(関節間のタイミング)が対照群に比べて遅れていた。足関節背屈の開始タイミングに対する股関節外転の開始タイミングは、対照群との間に差が見られなかった。

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着地後の垂直方向の力は、衝撃吸収時に振動した後、最大体重負荷時に増加(下図、一部編集)

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・体幹のCOMの垂直下方変位のピーク値は、対照群に比べて脳卒中群で増加していた(下図、一部編集)。

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・体幹のCOMの変位量は、A-P方向とM-L方向では差がなかった。
・脳卒中患者は、体重移動時のCOPv,M-LおよびCOPv,Max安定化時間が延長していた(下図)
・COPvのA-P安定化時間はグループ間で差がなかった。

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STテストでは、非麻痺側に比べて麻痺側でステップを行うとステップ数が少なかった。
脳卒中群は対照群に比べてSTスコアが低かった。

FSSTでは、脳卒中群は対照群に比べてテスト完了までの時間が長かった。
CMSAの足スコアはCOPvA-Pと相関性が認められた。



考察と臨床推論


冒頭でもお伝えさせて頂きました通り、非常に有意義な内容だったため今回はここから購読者のみとさせて頂きます!御了承の程よろしくお願い致します。

では、考察で理解を深めていきましょう!

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