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東日本大震災、ウクライナ戦争に翻弄される日本のエネルギー政策の課題(下)

エネルギー政策の失敗と課題ー(上)から続く

これまでサンシャイン計画を中心に、日本のエネルギー政策をたどってきました。その前例のない大規模なエネルギー国策は、太陽光発電など一部で世界をリードしたのですが、最終的に欧米、そして中国や台湾にも後れを取ってしまいます。この意味でサンシャイン計画は失敗でした。
 
現在のエネルギー政策はFITからFIPなどへ改革が進められてはきましたが、電力や石油の高騰という重要課題への抜本的な解決といえるものではありません。エネルギー危機対策への抜本的な計画不在の時代です。
 
サンシャイン計画の失敗の一番の要因は、先にも触れましたが原子力発電への移行、基本政策のブレでした。いわば「原発回帰」が、大きな可能性を持った国策の完遂を妨げたといえます。
 
この原発回帰が、昨年からのエネルギー危機の中で再び始まっています。今回の原発回帰の現況をその問題点を次に概観します。
 


6.原発回帰とその後

福島以後の原発政策

福島第一原発事故は、3基の原子炉の燃料がメルトダウンするという世界最悪レベルの事故で、事故原発からの放射性廃棄物汚染のため、一時は「東日本の撲滅」(福島第一原発・吉田昌郎所長の証言「吉田調書」より)まで危惧されました。そして事故から12年を経た2023年2月時点でも、まだ約27000人が避難生活を続けています。
 
この事故を教訓にまず安全性確保の規制強化のため、原発事業の推進と規制の組織分離が図られ、2012年に原子力規制委員会が発足します。
 
日本は福島の事故の1年前、54基の原発を持ち、発電量がアメリカ、フランスに次ぐ原発先進国でした。しかし事故後、安全性の点検のため稼働停止が相次ぎ、2014年度の原子力発電量はゼロとなりました。

また規制委員会の安全基準の抜本的見直しなどにより廃炉も進み、2023年現在は33基にまで減少、稼働中は同年10月時点で12基です。
このため、下図表のように、国内のエネルギーに占める原発供給比率は、2021年で3.2%と東日本大震災前に比べ、30%弱にまで落ち込んでいます。

稼働ゼロへ

福島事故当時政権を担っていた民主党は、2012年末の衆院選挙で「2030年代に原発稼働をゼロにする」ことを公約に掲げ、脱原発も大きな流れを生み出していました。

しかし民主党はこの衆院選で惨敗、新たに発足した自由民主党の第二次安倍内閣は原発稼働ゼロの見直し方針を執ります。
安倍政権は2013年に「エネルギー基本計画」を改訂し、原子力発電の再稼働を前提とした新たな規制基準の策定を進めました。

しかし再稼働への反対の多さや、福島第一原発の処理の遅れなどがあり、再稼働の本格化については自民党も、「原発依存度を低減する」、あるいは「新増設、建て替えは想定していない」というような慎重な姿勢が続いていました。
 
そして新型コロナのパンデミックが世界を覆います。国内でも経済活動の低下とともにエネルギー消費はこの期間縮小しました。
 
新型コロナの感染がおさまり始めた2022年から、落ち込んでいた世界のエネルギー消費はようやく復活しつつあります。また地球温暖化対策として各国の再生可能エネルギー開発も進みました。
 
しかし2022年にロシアのウクライナ侵攻が開始され、状況が大きく変化します。ロシアは天然ガスの埋蔵量が世界第1位であり、石炭は第2位、石油第6位という世界有数の資源国です。

戦線の拡大と継続でロシアからのエネルギー供給量は大幅に減少し、各国でエネルギーの高騰が始まります。また産油国は製油施設などの開発を遅らせ産油制限を続けており、エネルギー不足が長期化する状況になっています。
 
政府は石油と電力の高騰への対策として、ガソリンなど燃料価格上昇を抑えるための補助金、そして電気・都市ガスの負担軽減策を2023年初めから執行しています。しかしこのような補助金対策は、大きな財政負担になりいつまでも継続することができません。
 

政策大転換

これらを背景に、国内の原子力政策の大転換が起きたのは、2022年12月の総理大臣官邸での脱炭素化に向けた戦略会議「GX=グリーントランスフォーメーション実行会議」でした。

会議では、ロシアのウクライナ侵攻下におけるエネルギーの安定供給と、脱炭素社会の実現を図ることが計画の指針とされました。
 
この中で原発について重要な決定がされました。
1つは運転期間最長60年の実質的撤廃であり、2つ目は新たな原子炉の開発・建設の推進です。

(NHKより)

福島原発の事故以降、当時の民主党政権は「2030年代の原発稼働ゼロ」を提示し、老朽化した原発の事故防止のために運転の稼働期間を法で「原則40年、最長60年」までとし、当時野党だった自民公明両党も賛成していました。
 
会議の決定では、原子力規制委員会が認めれば20年延長できる「最長60年」の制限については、「運転期間から原子力規制員会の審査などで原発が停止した期間を除外し、その分の追加的延長を認める」などとし、実施的に60年を超えた運転ができるようにしました。

(NHKより)

2つ目の原発の新設・増設は、福島原発事故後の政府の「エネルギー基本計画」では「原子力は安全を最優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する」と決められ、新増設は「想定外」でした。

しかし会議決定では、廃炉となる原発の建て替えを念頭に、「次世代型の原子炉の開発と建設を進める」と明示し、原発回帰の方針を打ち出しました。
この会議決定に基づく原発の運転延長を認める改正法は、2023年5月に国会で承認されています。

そして岸田政権は、まず停止中の原発の再稼働の推進を目指し、同時に次世代型の原子炉開発を促進する施策の策定などを急いでいます。

7.転換後の課題

このように、2023年になって原発政策は抑制から再び推進へと大転換しました。しかし短期間のこの変更は、その実現に大きな課題をまた抱えています。

見通せない革新炉と安全確保

この変換の中心になる新たな原発の建設では、「次世代革新炉」という表現で今後より効率性、安全性の高い新型炉の開発を掲げています。より具体的には、安全性を高めた革新軽水炉や小型軽水炉を目指しますが、まだ開発途上であり、コスト高になる難点なども指摘されています。

革新炉には冷却材にナトリウムなどを使い、燃料の燃焼効率を高める高速炉もあります。しかし国内では福井県の高速増殖炉「もんじゅ」(後述)が事故続きで失敗。
水ではなくガスで冷却する高速ガス炉もまだ技術の完成が見込めていません。そして究極の核融合炉は実用化にまだ数十年かかると予測されています。

延長決定の先行

また原子炉の耐用年数は、燃料格納容器や制御棒駆動装置など原発の心臓部の想定耐用年数から40年とされました。これに後年の技術進歩なども考慮し、老朽化の詳しい点検をして安全性が確保できた場合のみ、最大20年延長できると定めています。

今回のこの延長限度の撤廃は、事実上は延長だけが先に決まり、それを保証する安全規制の詳細は今後の検討に委ねられています。今の段階で60年目以降の安全確保の具体策が決まっていないのです。

8.最大の課題は核燃料サイクル

原子力政策では、原発の導入が決まった昭和30年代から取り残されたままの課題があります。核燃料サイクルです。
 
「核燃料サイクル」とは、原子力発電で使い終えた燃料(使用済燃料)の中から、ウランやプルトニウムといった燃料として再利用可能な物質を取り出し(再処理)、この取り出した物質を混ぜ合わせて「MOX燃料」と呼ばれる燃料に加工して、もう一度発電に利用する取り組みのことです。

使用済燃料には、ウランやプルトニウムなどのまだ燃料として使える資源が95~97%残っていて、回収して再処理をおこなうことで再利用することができます。この核燃料サイクルには、以下の3つのメリットがあります。

  1. 資源を有効利用できる

  2. 高レベル放射性廃棄物の量を減らせる

  3. 高レベル放射性廃棄物の有害度を低くできる

9.難航する再処理計画

遅れる六ケ所村再処理工場

この核燃料リサイクルの中心になるのは、青森県六ケ所村に建設中の「六ケ所村再処理工場」です。
1993年に大手電力会社が出資する日本原燃が着工しましたが、使用済み核燃料の貯蔵プールの水漏れなどのトラブルが続いて建設が遅れました。

さらに福島の事故で工場の規制基準が厳しくなり、その対応工事などで時間がかかりました。基本設計の審査は合格しましたが、完成は2024年まで延期されており、30年余りの工期を経てもサイクルは稼働していません。

この再処理工場の建設費は当初7600億円とみられていました。しかし完成の遅れや福島事故以後の安全対策の追加で、建設費は3兆1000億円余りと4倍余りに膨れています。

また再処理工場は40年を運用期間としその後の設備の廃止費用など含め、総事業費は14兆4000億円と推定されています。これらの費用は大手電力会社の拠出金で賄われ、最終的には電気料金に上乗せされ、利用者の負担となります。

増えるプルトニウム

再処理によって取り出されたプルトニウムにも課題があります。プルトニウムは核兵器の原料になることから、日本は兵器に転用しないために「利用目的のないプルトニウムは持たない」という国際公約をしています。

そして日本の使用済み原子炉燃料の再処理は英国とフランスに委託してきました。同時に、国内では1980年代から、プルトニウムを再利用する切り札として、高速増殖炉「もんじゅ」の計画を進めていました。

しかしこのもんじゅはトラブルが相次ぎ、2016年に廃止が決定します。もんじゅの稼働はこれまでにわずか250日、建設費と廃炉費用だけでも1兆円近くになっています。
 
もんじゅの失敗と再処理工場の遅れ、再処理委託先の一つ英国では処理工場の建設が計画通り進んでいません。このため日本のプルトニウムの蓄積が増え続け、海外からの批判を受けかねない事態になっています。

これらの状況から、核燃料サイクルはその経済性や技術開発の難点から多くの問題を抱えています。

10.見通せぬ最終処分場

更に残った問題は使用済み核燃料の最終処分場です。
使用済み核燃料は、再利用できるウランやプルトニウムを取り除き、後に高レベルの放射性物質、いわゆる核のごみが残ります。これらはガラスと混ぜて固めていますが、強い放射線がなくなるまで数万年単位での隔離が必要です。

このため政府は2000年に処分業者を設立、地下300mに坑道を掘って埋める計画を決めました。

候補地の選定にあたっては、地盤を調べる文献調査、ボーリングをする概要調査、坑道を掘っての精密調査と三段階に分け、20年かけて候補地を調べる計画です。この候補地として政府は自治体からの公募をすることにし、調査期間中は応募の自治体に交付金が与えられる制度にしています。

この交付金は文献調査に応じるだけで20億円といわれ、これまでに北海道の寿都町(すっつちょう)と神恵内村(かもえないむら)が調査に応じています。両地区とも積極的に処分場を受け入れるというのではなく、過疎化と産業の衰退への対策という理由でした。

そしてこの2023年9月には、長崎県対馬市の市議会が、最終処分場受け入れの促進を求める団体からの請願を採択したのですが、風評被害などを危惧した市長が受け入れを拒否し注目を集めました。
このように最終処分場問題も、まだ計画が始まったばかりで全く見通しがつかない状況です

11.見えないエネルギー国家戦略

以上のように、原発回帰はその安全性の確保から、燃料の再処理、核廃棄物の処理と問題が山積したままです。いずれも厖大なコストと年月を必要とします。

一方で、再生エネルギーは、個々に施策があっても、かつて世界の席捲を目指したサンシャイン計画のような抜本的な国家戦略がありません。 

日本の経済の衰退は、「失われた30年」の無策が招いたといわれています。その経済を支える産業の象徴でもある半導体は、1980年代半ば、世界のトップ10企業の内、6社を日本が占め市場を圧倒していましたが、以後韓国や台湾にも抜かれ凋落しました。

この構図は再生エネルギーの太陽光パネル産業に酷似しています。

要素技術で先行しながら、普及段階で失速というパターンです。その主たる原因は国策レベルの大局的な基本戦略の不足、一貫性のなさであり、そのために改革への機会を失っているといえます

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